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第十一話 青い火焔
しおりを挟む「――かっ……!」
魂にまで響き渡るような一喝とともに、剣聖ウェイザーが湧いてきたモンスター群を一蹴する。
「ハワードよ、今のわしの剣捌き、見えたかの?」
「……い、いえ……」
ダメだ、今回の戦闘も相変わらず速すぎて見えない。これまで何度も見てきてるはずなのに目が全然慣れないんだ。
「もう察しているとは思うが、いくら目で追ってもわしの剣捌きを捉えることは不可能じゃ。では、どうすればよいかわかるか?」
「それは……心で捉えるんですよね?」
ウェイザーの問いに対して答えを導きだすことはできたものの、俺はどうやって心の部分で捉えられるのかまではわからなかった。
「うむ……。しかしどうすれば心で捉えられるか、そこまではわかるまい。だからヒントをやろう」
「ヒント……?」
「そうだ。自分で問題を解決できねば、いくら教えても意味がない。よって体で覚える必要がある……聞いたことがあるじゃろ?」
「……はい」
ウェイザーの今の台詞もじっちゃんがよく言ってたな。それでよく転ばされたもんだ。
「体というものはな、何かをしよう、やろうとするとどうしても力むし、前のめりになってしまう。それをカバーするのが技と心なのじゃ。お前さんの場合、技については問題ないが心の部分で大きく遅れを取っている。ヒントはここまでじゃ」
「……」
予想していたことだが、とても弱いヒントなのでさっぱりわからない。でもここを自分で乗り越えないと先につながっていかないと判断したんだろう。
確かにウェイザーの言う通り、人間の体っていうのはどうしたって力むようにできていて、俺も経験によって……すなわち技の部分によって抑えてきた。鍛冶で物を精錬するとき、無駄な力をなるべく抜き、叩く瞬間に最大の力を籠める。俺はそれを一日一万回、毎日こなしてきたもんだ。
子供がみな天才と言われるのは、器が柔らかくてそれだけ飲み込みが早いからだが、歳を重ねると凡庸化してしまう。それは単純に飽きるからだ。本当の天才は飽きることを知らずに大人になっても延々と持続することができる。そう俺のじっちゃんは口を酸っぱくして言っていた。
それと、心技体は密接な関係であって、どれか一つでも欠けていると神精錬は到底できないとも言ってたっけな――
「――はっ……」
待てよ? それってつまり、かつての俺はできていた、すなわち心の部分にまったく問題がなかったってことになるな……。
「その顔……どうやら気付いたようじゃな、ハワード」
「はい……」
本当に、無意識のうちというべきだが、右腕を損傷する以前の俺はそれが自然にできていたんだ。
よくよく考えてみると、俺は大怪我を負ってからは常に焦りに支配されていたような気がする。焦りが力みを生み、さらなる失敗をもたらし、それが自信喪失につながっていくという負の連鎖が起きていたんだ……。
「――かっ……!」
「……あ……」
異形のモンスターがウェイザーによって切り刻まれていく、その過程が今度は朧気だが見え始めた。
「これでわかったじゃろう。見よう見よう、捉えよう、なんとかしてやろう……こうした思いは確かに立派だが、結局は力み……すなわち無駄なエネルギーしか生み出さん。よいか……青い炎のように、静かに、一層熱く燃えるのじゃ」
ウェイザーの言葉に俺は無言でうなずく。そうだ……俺の心は、なんとかしなきゃといつの間にか前のめりになっていた。これでは全体を見通すことなんて到底できないし、集中する余裕も生まれない。
そういえば化け物たちに囲まれてもう死ぬと思った直前、あらゆる思い出が一瞬で脳裏に流れていったが、あのときにこそわかりやすく心はフル活用されていたんだ。
「真の剣に余計な力は一切要らぬ。それは鍛冶にも言えること。お前さんのその右腕は、動く限りまだ終わってはおらんということじゃ」
「……」
俺の心に、何度も何度もハンマーを振り下ろし、火花と向き合った思い出が鮮やかに蘇ってきて、熱いものが込み上げてくる。ようやく取り戻した。あの日の、ひたすら精錬に打ち込んでいた日の自分を……。
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