幼馴染勇者パーティーに追放された鍛冶師、あらゆるものを精錬強化できる能力で無敵化する

名無し

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第十三話 無我夢中

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「……」

 心臓の鼓動がする……といっても俺やウェイザーのものではなく、かといって異形どもの姿も皆無であり、ただ不気味なほどに大きい鼓動だけがどこからともなく聞こえてくるのだった。

 ダンジョンによってコアの形は変わってくるわけだが、この調子だとその正体はおそらく心臓のような形状なんだろう。それさえ破壊すればダンジョンを攻略したことになり、ここから脱出することができるってわけだ。

「うぬうっ……」

 苦し気に剣に凭れかかるウェイザー。

「ウェイザーさん、ここから先は俺が――」

「――心配いらん……」

 気懸りなのが剣聖ウェイザーの状態で、剣を杖のようにしてよたよたと歩くような状況だった。目も虚ろで力がなく、かなりの精神力を心剣によって消耗していることが窺える。俺にもっと力があれば……。

 自分の無力さがなんとも歯痒いが、そこに気持ちの比重を置けば心技体が揃わなくなってしまう。今はひたすら耐えるしかない。そうすることでしか俺の師匠の思いに応える術はないのだ。

「――かっ……!」

 それでもウェイザーの剣術は衰えるどころか、逆に凄みを増し、恐ろしいほどの輝きを放っていた。もうここまでくると、凄いという言葉で表現することさえも陳腐だと感じる。

 今にも倒れそうな老人を前に、なすすべもなく次々と溶けるように消えていく化け物たち。さらに、心臓の鼓動の音が徐々に近くなっていくのがわかる。もうすぐ、もうすぐだ……。

『『『『『ウジュル……』』』』』

 だというのに異形どもはこれでもかと湧いてきて、数の暴力という無慈悲さを見せつけてくるのだった。

「手出し……無用である……!」

 鬼気迫る勢いで敵を切り伏せていくウェイザー。俺は最早生きた神を見ているとしか思えなかった。そう考えると以前の自分もそんな目で見られてたんだろうか。

 その孤独感がひしひしと伝わってきて、痛いほど理解できて……俺はとてもじゃないが他人事ではなくなっていた。微力ながら手伝いたい、少しでもいいから力になりたい……なのに、俺の力では足手纏いになってしまうのがわかるから、もどかしさに頭がおかしくなりそうになる。

「――うごぉっ……!」

「ウ、ウェイザーさん……?」

 遂に恐れていたことが起きてしまった。ついさっきまで異形の群れを一切寄せ付けなかった鬼神が目を剥いたまま倒れたのだ。

「……行け、ハワード……」

「え……?」

「わしはもう、力を使い果たした。行くのだ。わしの頑張りを無駄にするな……」

「ウェイザーさん、そんなこと俺にできるわけ――」

『『『『『――ウボオォォッ……!』』』』』

「……っ!?」

 気付けばモンスターの大群が迫ってきていたが、俺だけでもなんとかやってみるつもりだ。ウェイザーを見捨てるなんてできるわけがない。

「かあぁっ……!」

 そのときだった。ウェイザーが赤い手に掴まれながらも立ち上がり、迫りくる異形の塊を一瞬で切り裂いたのだ。

「……先に……行け……遺言……じゃ……」

「くっ……!」

 俺は死にゆく師匠に背を向けた。耐えろ、耐えるんだ。あの人の思いを無駄にするな……。振り返るな……絶対に振り返るなっ……。

 俺は走った。無我夢中で、鼓動の中心へと。絶対に……俺は絶対にここから生還する。あなたに教えられたことを決して忘れない。ウェイザー、その偉大な名前と思い出を心に刻みながら、俺は歯を食いしばって走った。

「――はっ……」

 気付けば、俺は巨大な心臓の前に立っていた。そのグロテスクな物体は地面に根を張る大樹の如くどっしりと構え、ドクンドクンと跳ねるように脈打っている。

『『『『『ウジュルッ……』』』』』

「かっ……!」

 ここぞとばかり湧いてきた化け物たちを、習得したばかりの心剣によって切り伏せる。まだ未熟なゆえ一度では倒しきれず、二度目でようやく殲滅したのだが、たったそれだけで意識が飛びそうになるほどの精神力の減退を感じた。

 あの人は、これを何度も何度も使ってくれてたんだな……。

『キャアアアアアァァァッ!』

 心臓を貫いたとき、悲鳴とともに視界が大きく揺れるのがわかった。しかもコアから噴き出てきたのは血液ではなく、大量の光の粒だった。どんどん飛び出してくる。最早目を開けていられなくなるほどに……。
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