21 / 60
第二一話 一石二鳥
しおりを挟む「ひぐっ。そ、そんなことがあったんだ……。むぅう、勇者パーティーめえぇ、恩人のハワードさんに対してなんて酷いことをするのっ……」
泣き終わったシルルにこっちの事情を話したわけだが、またしても頬を涙で濡らす羽目になってしまった。こっちのほうは悔し涙って感じだが。
「もちろん、俺たちだってあいつらにいいようにやられたまま泣き寝入りするつもりもない。これから勇者パーティーや迷宮術士をやっつけに行くところだ。よかったらシルルも来るか?」
「来るです?」
いくら俺が自分の腕に絶対的な自信を持ってるとはいえ、敵は勇者パーティーだけじゃない。異次元の力を持つとされる迷宮術士に加え、やつが作り出す強力なダンジョン群を相手にしなきゃいけないわけで、仲間はなるべくいたほうがいいのも確かだ。
「あ、あたしもついていっていいの? お裁縫とかお料理とかお掃除くらいしかできないけど、それでもいいならっ……」
「嗅覚は?」
俺がシルルに期待したのは主にその部分だ。呪いによるものとはいえオークの姿になっていたわけだし、その嗅覚はハスナの眼力のように役に立つはず。
「あ、うん! あたしねえ、匂いにも凄く敏感なんだよ。食べ物とかもそうだけど、争いが今にも起こりそうなときとか、そんな不吉な臭いとかもわかるの! ひぐっ」
「へえ……」
「やるです……」
こりゃ予想以上に期待できそうだな。ハスナのように二重の役割を兼ねているし、緊急時にはオーガの角のようにオークの鋭い牙も使える。さて、そろそろコアを見つけるために出発するとしようか。
「――ダメだったな……」
「うが。ですね……」
「ひぐっ。だねえ。はあ、ふう……」
あれから俺たちは町中を歩き回ったわけだが、いるのは老翁や童子に擬態したモンスターくらいで、結局何も見つけることはできなかった。
周囲が暗くなってきて、出発地点の裏路地までループしたこともあってそこで休むことに。
コアに対する距離を心敷に置いてへし折る、なんていう突飛な考えも浮かんだので試しに実行してみたんだが、迷宮術士の作る異次元なダンジョンであるせいかそれはやはり通用しないどころか数値さえ出なかった。ヒントを出すことすら許さないってわけだ。なんとか自力で探すしかない。
人の姿にしても、最初のほうで見た連中が勇ましかっただけなのかあれ以降姿がなくて、ほとんどの人間が家の中に引きこもってるのが見て取れた。
まあ見た目はただの町でもダンジョン化してるわけだし、モンスターがうろついてることを考えれば当然か。それでもその中の誰かがコアの可能性が高いわけで、かといって強引に侵入して調べ回るわけにもいかないし、今の状況というのは前に進むことも後ろに退くこともできない、かなり苦しいものであるのは間違いなかった。
町の住人たちが自分の意思でおのずと外に出てくる方法はないだろうか。騒ぎ立てるようなことをすれば逆に混乱させて被害を拡大しかねないしなあ。なんか頭がフラフラしてきた――
「――うがぁ、お腹空いたですね……」
「あ、あぁ、そういやそうだな」
よく考えたらまったく食べてなかったんだからフラフラするのも当然か。なんとかしたいが、いくら神精錬でも何もないところから食料を作り出すようなことはできないんだよな。どうしようか……。
「ひぐっ。それなら、あたしが何か近くにないか探すねっ。すんすん……」
お、シルルが立ち上がってフラフラとどこかに歩き出した。早速自慢の嗅覚を生かして食料を探してくれてるっぽいし、あとを追いかけてみよう。
「――すんすん、すんすんっ……この辺に何かあるみたいっ!」
「「おおっ……!」」
シルルが指定した雑草まみれの場所を掘り返してみたわけだが、なんとも立派な芋たちが次々と顔を出してきた。
こりゃ食べ応えがありそうだな……って、待てよ? まさに一石二鳥というべきか、これで腹ごしらえできるだけじゃなく、芋づる式にこの膠着状態を打開できる方法まで浮かんできた……。
1
あなたにおすすめの小説
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる