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第二二話 洗い出し
しおりを挟む「モグモグ……う、うんめええぇっ! おで、こんなの食べたことねえ……」
「ズズッ……びっ、美味なのじゃああっ!」
「ま、マジかよ、早く俺にもくれっ!」
「……」
なんという繁盛ぶり……。あれから俺たちは芋の料理に舌鼓を打って仮眠したあと、その翌朝にコアを誘き出すべく町の広場で炊き出しを始めたんだ。
「僕も!」
「おいらも!」
「私もくださーいっ!」
「――ふう。焦らなくてもまだあるから……」
これなら人が集まるんじゃないかと期待はしたが、結果は俺が想像してたよりもずっと凄かった。最初は極少数だったのが、噂が広まったのかあっという間に広場が人々で埋め尽くされるほどだった。
「「「「「わあぁっ!」」」」」
「こ、こらこら、押すな!」
「うがっ、ちゃんと並ばなきゃダメです!」
「ひぐっ、めーだよ!」
それにしても、どこにこれだけの人間がいたのかと驚嘆するレベルだ。
彼らが食べているのは一見ただの芋のお吸い物なわけだが、料理上手なシルルに作らせただけでなく、俺が神精錬によって美味さを『+5』から『+10』まで引き上げたので絶品となっている。
そのためかひっきりなしに料理を要求されるだけでなく、怒涛のおかわりまで来る有様だった。こんなことなら『+9』くらいにとどめておけばよかったかな。
それでも、この特別な旨味が外にいるということの恐怖心を麻痺させている可能性も考えると、今更味を落とすわけにもいかないってことで今じゃ料理の数を精錬で水増ししているところだ。
「おい、早くしてくれ!」
「まだできないの!?」
「とっとと食わせろ!」
「お前たち……あんまり急かすとこのハンマーでスタンさせるぞ?」
「「「「「ひっ……」」」」」
この通り、死ぬほど忙しくてほかのことに手が回らないほどだが、その間にちゃんとハスナとシルルに周囲の様子を窺わせてるから問題ない。
それぞれ驚異の視覚と嗅覚を持った彼女たちだから、モンスターがいるのを見破れるだけでなくその前兆も察知できるし、普通とは違う特色を持っているはずのコアを見分けることだってできるはずだ。
「――はぁ、はぁ……」
汗がとめどなく流れ落ちてくる。もう一万食くらい神精錬で増やしただろうか。それでも行列という食欲の波は絶えることなく続いていた。
「ハワード、大丈夫です?」
「ハワードさん、凄くきつそう!」
「ま、まだ大丈夫だ。それよりハスナ、シルル、何か変わったことは……?」
「「何も……」」
「そうか……」
これだけ料理を食べさせたわけだから、その中に怪しいのがいてもおかしくないわけだが、いなかったか……。
そうなると、二つの可能性が考えられる。
まだこの広場にコアが来ていないということと、コアだけど発現していない、つまり怪しいところがまったくない状態でここにいるということだ。
発現していない場合はハスナとシルルでも見つけられるはずもないが、兆候がわかるシルルもいるのでそこは大丈夫だろう。コアなら絶品料理で胃袋を掴んでる状態だし、いずれ尻尾を出すのも時間の問題だろうしな。
問題はコアが来ていない場合だ。これは困る。炊き出しでも来ないということは、どこかに隠れているということだから――
「――あの、炊き出しはもう終わったのだろうか?」
「あっ……!」
ついつい考え事のほうに集中してしまっていた。俺は慌てて目の前にいる騎士然とした凛々しい女性に料理を提供する。
「お待たせ」
「どうも……」
女はいかにも慣れてなさそうに笑うと、料理を盛った器を持ってそのまま帰り始めた。なんだ、ここで食べるんじゃなくてお持ち帰りか。まあこんな賑やかなところじゃ落ち着かないだろうしな。
「ハ、ハ……」
「ん、シルル、くしゃみか? 料理にかからないようにしてくれよ」
「気をつけるです」
「ち、違うの! ハワードさん、あの人から、不吉な臭いが……」
「「えっ……?」」
まさか、あの人がコアだっていうのか……? でも、よく考えたら確かに今まで料理を受け取りにきた人の中でも空気がどことなく違うというか、独特のオーラがあったような気がする。よし、早速追いかけてみるか……。
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