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第二七話 操り人形
しおりを挟む「これはこれは、女王様ではありませんか……」
「大臣、よ……コホッ、コホッ……そなたに訊ねたいことが、ある……」
現国王の眠るカーテンに覆われた天蓋付き寝台の前にて、副女王リヒルの訪問に対して大臣がひざまずく。
「はっ、なんなりと仰ってください」
「お父様の、信頼していた主治医が、何故……いつまでも来ないの、か……?」
「はっ……女王様、誠に恐れながら申し上げます。残念至極ですが雲隠れしたのでございましょう……。王様の病を治せなければ当然、責任を取らざるを得なくなるわけでありまして、それを恐れたのです……」
「そ、そんなはずは――」
「――女王様あっ、今や一刻を争う状況でありますぞ……? 王様を見捨てて去ってしまった不埒な輩をいつまでも追うよりも、我々が用意した主治医に是非、お任せあれえぇっ……!」
「し、しかし……もう少し、待つことはできぬ、のか……」
「もう残された時間はありませぬううぅ。そ、それともっ……ま、まさか女王様は、王様に長らく仕えてきた私を信頼できぬ、と……? ももっ、もしも親愛なる女王様にそのような悲しいことを仰られたらぁ、最早私めがこの宮中で生きていくことなどできましょうかあぁぁっ……!」
大臣が涙ながらにそう訴えるとともに、頭を床に擦りつける。
「そ、そのようなことは……コホッ、コホッ……も、申してはおらぬ……」
「では、どうか私めにお任せあれ……」
「……わかった。あとのこと、そなたに任せ、る……」
リヒルが侍女とともにおもむろにその場を立ち去ったあと、大臣が指を鳴らして手元に白髪交じりの男を呼びつけたのち、にこやかな表情で折られた紙を手渡した。
「いいか、よく聞くのだ。この前話したとおり、本日よりお前が王の主治医となる。私の指示通りにやるのだ。これを少しずつ王様に飲ませるのだぞ」
「はっ……こ、こ、こ、これは、附子……! 猛毒ではないですか……。も、もしバレたら……」
中身を確認したあと、飛び出そうなほど目を見開き、わなわなと体を震わせる男。
「心配するな。附子は猛毒とはいえ、ほかの薬剤と混ぜ合わせることによって量さえ間違わなければ良薬にもなると聞いたぞ。違うか?」
「そ、そそそっ、それは……その通りではありますがっ……」
「うむ。つまりお前は、これをほんの少しだけ足したものを作ればよいのだ。あとはわかるな……?」
「し、しかし――」
「――成功すれば、金貨300枚、都に豪邸一軒、それに宮中きっての美人を10名用意しよう。どうだ、お前が一生かかっても手に入れることのできないものばかりだぞ……?」
「は、はい。是非やらせて頂きます……」
「よいよい、あとのことは私に任せるのだ」
男が何度も転びそうになりながら立ち去るのを大臣は満足そうに見届けたのち、自身に付き従う男に目配せする。
「それと、グレック。例の主治医の件はどうなったのだ? あれは優秀ではあるが賄賂も話も通じない極めて頭の固い男で、早いところ処分せねばこっちが火傷する。ちゃんとやったか?」
「はっ。ご命令通り、本日の早朝に処刑いたしました」
「うむ、ぬかりないな。だが、リヒルはああ見えて勘のいい女狐。何か動きがあれば、必ず私に知らせるのだ。緊急性を要する場合、間者らしき者は命令なしに処刑してもかまわん」
「はっ」
「それとな、勇者ランデルたちについても暴走しないかどうかちゃんと監視しておけ。見張っているのが仲間のお前ならやつらも油断するだろう」
「了解いたしました」
「よしよし、これはほんの僅かだが私からの手心だ」
「お、おおっ……!」
受け取った小袋の中身を見て目を輝かせるグレック。それを尻目に大臣がほくそ笑む。
(こうした救いようのないゴミどもには今のうちに喜ばせておけばよい。何か起こったときに私の盾になってもらわねばならんからな。この作戦は必ず成功させねばならんのだ。王が倒れれば、勇者ランデルとリヒルが実権を握ることになるだろうが、それを裏から操るのはこの私だ。この私こそが、真の国王として国を動かすことになるのだっ……!)
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