回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し

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第十六話 変な夢でも見てる?


 古代地下迷宮のボスから出た魔石は、鑑定屋へ持っていくとおよそ200ギルスで売れた。結構な額だ。

 これを【狼の魂】パーティーのリーダー、戦士ベホムが清算して、一人大体50ギルスだと言って山分けしてきたから感動した。

 ちなみに、そうなる前はみんなが僕のおかげだからって全額を渡そうとしてきたんだ。

 みんなの力があってこそだから受け取れないって全力で否定したらこうなったってわけ。

 前のパーティーだと、ボスドロップの魔石を売ったお金は山分けどころか、ディランの財布に収まったままだったからね。その数日後くらいに高級のコーヒーカップに変わったんだ。

 ウルスリは個人主義というだけあって、パーティーでゲットしたお金はいつもこうして分け合ってきたんだとか。

 ただ、すぐに使い果たすやつもいるとベホムが笑いながら言って、ロランが苦しげに咳き込んでいた。どうやら図星だったらしい。

 そのあとは自由行動だってことで、僕は例の豪邸へ帰ることにした。あんまり帰らないとエルシアが心細い思いをするかもしれないしね。

 ベホムたちも、あの郊外の宿舎へ戻るときもあれば、中心部に留まって宿に泊まることもあるんだとか。

 ウルスリのこういう柔軟なところ、ホント好きだな。メンバーも良い人ばかりだし。いきなり目覚めて、追放後におかしな夢を見てたってことにならなきゃいいけど。

 もし、このパーティーを抜けた人が、新しいパーティーに馴染めなかったら今頃凄く後悔してるかもね。悪い夢なら醒めてくれって。

「……」

 ん、なんか跡をつけられてるような。僕は帰る途中、そんな気配を感じて振り返った。

 気のせいかな……? そう思って再び歩き出したときだった。周りから飛び出してきた屈強な男たちに囲まれたんだ。

「だ、誰だ……⁉」

「あなたはピッケル様ですね?」

「失礼いたします」

「悪いようには致しません」

「是非、我々にご同行お願いします」

「……」

 びっくりしたけど、彼らは揃って跪いてきたので、悪い人たちじゃなさそうだと感じた。

 というか、身なりもかなり良い。どこかの貴族の配下なのかな?

 彼らの立場を考えると、ここで僕が断ったら後で上の人に酷い仕打ちをされるかもしれない。

 そういうわけで、僕は大人しくついていくことにした。そもそも危害を加えるつもりならここでやればいいわけだし。

 もし何かあったら、遅延の回復術で切り抜ければいいだけだ。

「「「「「こちらへ」」」」」

 彼らは入り組んだ狭い路地を迷いなく進み、前と後ろで僕を守るようにして目的地へと案内してくれてるみたいだった。

 この辺で暮らしてる僕でも、ここまでスムーズには進めない。とても土地勘があるんだろうね。

「「「「「到着いたしました」」」」」

「うあ……」

 路地を抜けた先には、広大な敷地と屋敷が広がっていた。まさに小さなお城といった感じで、広さは僕の所有する豪邸とほぼ変わらないものの、とにかく華やかなんだ。

 二階建ての幅広い建物の中央玄関の左右には外側に面した列柱の回廊があり、四角形や球形に刈り取られた植物が置かれた庭を取り囲んでいた。

 男たちに案内され、僕は中へと入った。もう自分の屋敷で慣れてるのでそこまで緊張しなくて済んだんだけど、ここって相当に身分の高い人が住んでそうだ。

「「「「「お嬢様、ピッケル様をお連れ致しました」」」」」

「入りなさい」

「……」

 女性の声がしたと思ったら、二階の通路奥にある部屋のドアが男たちによって開かれる。

 そこには、優雅なドレスに身を包んだ少女がいた。射抜くような視線を向けられたので僕は思わずたじろいだけど、その華やかさと甘い匂いに蕩けそうになる。

 なんていうか、僕より背が低いのに見下ろされてる感覚がする。この子、絶対に只者じゃないな……。

「あなたはピッケル様ですわね」

「あ、うん。そうだけど、君は?」

「わたくしは公爵令嬢のマリベルと申しますわ」

「マリベルさんですか……って⁉」

 まさかの公爵令嬢。貴族の中でも最上位の人じゃないか。そんな人がただの回復術師の僕に一体なんの用事があるっていうんだろう?

「ふふっ。わたくしのことをマリベルさんだなんて、おかしいですわ」

「あ、ご、ごめん……じゃなくて、申し訳ありません。マリベル様……」

「いえいえ、マリベルさんで結構ですわよ。わたくしが無理にあなたをここに招待したんですもの」

「は、はあ……それで、なんのご要件でしょう?」

「あなた、ドルーデン侯爵の屋敷に住んでますわよね」

「え……」

「知らなかったのですか? あそこは、元々ドルーデン侯爵の屋敷だったのですよ」

 あそこは、侯爵家の屋敷だったのか。道理で凄まじい規模なわけだ……。

「侯爵家は、身内に不幸が続いて凋落してしまいましたが、その屋敷はずっと現存していました。お化け屋敷と呼ばれるようになってからも。ところが、最近になってそれを買い取った人がいると聞いて、どんな物好きなのかと手下の者に調べさせましたの」

「……」

 そういえば、僕のことを追ってくる気配は一つじゃなかった気がする。複数だった。それがマリベルの手下だったってわけだね。

「屋敷がずっと以前の状態に生まれ変わっていると聞いて、わたくしは信じられませんでしたけれど、この目で見て初めて目玉が飛び出るかと思いましたわ……」

「な、なるほど――」

「それで、どうやったのですの⁉」

「うっ⁉」

 マリベルに詰め寄られる。物凄い迫力だ。

「え、えっと、回復術を……」

「か、回復術ですって? 確かにあなたのことは調べさせてもらって、回復術師であり、使えないからと【超越者たち】パーティーに追放され、最近【狼の魂】パーティーに入団して、古代地下迷宮でボスを倒したことは存じてますけれど……屋敷を回復⁉」

「……」

 そこまで知ってるのか……。

「ピッケル様は、調べれば調べるほど、興味を抱かせる存在でしたの。使えないようでいて、実は正当に評価されていないだけでとても有能な回復術師なのではと。それを確認するためにも、回復術をここで披露していただけませんですこと?」

「それくらいならいいですけど、何を?」

「これをお願いしますわ」

 公爵令嬢が持ってきたのは、なんとも高級そうな皿だが、ひび割れてしまっていた。

 というわけで、早速時間を戻す回復術を使うと、皿は見る見る元通りになった。

「し……信じられませんわ。こんなことが本当にあるのですの……」

「……」

 マリベルは皿に顔を近づけて隅々まで観察していた。

「これもこれもこれも、あ、これにも回復術をお願いしますわ!」

「――ぜぇ、ぜぇ……」

 僕はそれから、マリベルが持ってきた色んなものの回復をすることになった。弱った猫から枯れた花まで。はあ、疲れた……と思ったら、涙目のマリベルに抱き着かれた。ちょっ……⁉

「ピッケル様は、わたくしが見た中で最高の回復術師ですわ……。このことは、あまり人には言わないでくださいまし」

「え、あ、はい……」

「それと、ここに泊っていってくださいます?」

「え……そ、それはちょっと……」

 僕の帰りをメイドのエルシアが待ってるからね。

「……そうですわよね。世界最高の回復術師であるピッケル様なら、恋人の一人や二人、掃いて捨てるほどいますわよね……」

「えっと、それは――」

「皆まで言わずとも、承知しておりますわ。それなら……せめてわたくしを愛人にしてくださいまし!」

「え……」

 僕はマリベルから両手を握られたかと思うと、跪かれて唇を当てられた。

「これから、わたくしに敬語は一切禁止いたします。ピッケル様……」

「……りょ、了解……?」

 僕は変な夢でも見ているんだろうか……?
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