17 / 47
第十七話 居た堪れない
「ピッケル様、またお越しくださいませ」
「う、うん。またね、マリベル……」
夜になって、マリベルはようやく帰してくれた。夕食まで用意してるっていうから、それを無碍にするわけにもいかなかったんだ。ご馳走だし美味しかったけど、色んな意味で疲れた。
ただ、僕の家の近くまで馬車で送ってもらえたのでよかった。配下の男たちが周りで目を光らせてたのでちょっと怖かったけど……。
それにしても、こうして自分の屋敷に帰ってみると、ここも公爵令嬢の屋敷に負けず劣らずの豪邸なので圧倒される。
本当に僕の家なのかって疑うレベルの規模だ。
庭とか屋敷とかの見た目は令嬢の家ほど洗練されてないけどね。ただ、その分男性的な力強さを感じさせた。
マリベルはドルーデン侯爵の屋敷だって言ってたっけ。食事の席で、マリベルはこの侯爵の話もしてくれた。
彼はとても人柄がよく、父親同士の付き合いも長かったが、50歳の若さで亡くなり、その跡継ぎの子も病弱で早逝してしまったのだという。建物が強く見えるだけに皮肉な結果だ。
残った屋敷を親戚がしばらく使っていたものの、維持するのが難しくなって不動産に売却し、僕が購入するまでほとんど手入れもされず、お化け屋敷として知られるようになったんだとか。
でも、なんでお化け屋敷なんだろう? お化けが出そうなくらいボロボロっていうのはわかるけど、それだけじゃそう呼ぶには弱いような。まさか幽霊が出るとか?
まあいいや。僕はその足で屋敷まで歩き、その門を潜った。庭の芝生の状態は良好だし、玄関の照明もついていて、メイドのエルシアがちゃんと管理してくれてるのがよくわかった。
お、玄関の戸を叩くと、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「ピッケル……!」
「うわっ……⁉」
ドアを開けた途端、エルシアに飛びつくように抱き着かれて、僕は思わず転びそうになった。
「ひっく……心配したよ……もう、帰ってこないんじゃないかって……」
「エルシア……そんなわけないだろ? それに、僕がいなくても悪いことばかりじゃない。こんなおっきい家を独り占めにできるんだからさ」
「あたいね……どんなに広くても、ピッケルがいない家なんかいらない!」
「エルシア……ごめん。寂しい思いをさせちゃったね」
僕は涙目のエルシアの頭を撫でてやる。思えば、彼女は施設でずっと独りぼっちだったんだ。それをもう少し配慮してあげるべきだった。
「今日は一緒に寝ようか?」
「うん!」
僕は同じベッドでエルシアと寝ることにした。
「ねえ、ピッケル……一つお願いしてもいい?」
「何……?」
「あたいが眠るまで、あれ使って!」
「あれって?」
「ほら、スローになるやつ」
「ああ、あれね……」
「ピッケルも疲れてるのに、ごめん。でも、手を繋いで一緒にこうしてる時間を、少しでも長くしたいって思って……」
「……」
いや、こんなこと言われたら使うしかないって!
かなり消耗するとはいえ、寝る前だしいいだろうってことで、早速使用する。やばい。目が回る。
ふとエルシアのほうを見やると、彼女は僕と手を繋いだまま、いつの間にか眠っていた。とても楽しそうな寝顔で。
僕と一緒にいることが、そんなに嬉しいなんてね。
「――う……?」
どうやらいつの間にか寝ちゃってたみたいだ。エルシアがいないので探すと、玄関近くでとんでもないことになっていた。
なんと、公爵令嬢のマリベルが来ていたのだ。エルシアと舌戦になっている様子で、僕は玄関近くで思わず隠れてしまった。
「お前は誰……⁉」
「使用人の癖して、お前呼ばわりは失礼ですわね。わたくし、マリベルと申しますの。ピッケル様の愛人ですわ」
「あ、愛人⁉ ピッケルは、そんなの作らないもん!」
「はぁ? まさか、あなたが正妻なわけありませんわよね」
「せ、正妻……? あ、あたいがそうだもん……」
「フンッ。まだ子供の使用人の癖いて、すぐにバレる嘘はつくもんじゃありませんわ。で、本物の正妻はどこにおりますの?」
「そんなものいないもん! あ……」
「ほら見たことか、ですわ。それにしても、あれだけ偉大な方なのに、正妻がいないというのは意外ですわね。それとも隠しておられるだけ? もしそれが事実だというなら、わたくしにもチャンスがあるのかしら?」
「あるわけない!」
「……子供は相手になりませんわ。ピッケル様はいずこ?」
「うー……い、今はいないもん!」
「……」
今のところエルシアが一方的に押されちゃってるなあ。
僕は彼女を密かに応援する意味でも、裏口から脱出することにした。これといった用事もないけど、このままじゃ居た堪れないのでベホムたちの宿舎にでも行こうかと思って。
「行ってらっしゃい……」
「うん、行ってくる……って⁉」
思わず返しちゃったけど、振り返っても誰もいなかった。今のは気のせい……だよね?
あなたにおすすめの小説
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~
たくみさん
ファンタジー
「攻撃力ゼロのポーターなんて、配信の邪魔なんだよ!」
3年尽くしたパーティから、手切れ金の1万円と共に追放された探索者・天野蓮(アマノ・レン)。
絶望する彼が目にしたのは、ダンジョン深層で孤立し、「お腹すいた……」と涙を流すS級美少女『氷姫』カグヤの緊急生放送だった。
その瞬間、レンの死にスキルが真の姿を見せる。
目的地と受取人さえあれば、壁も魔物も最短距離でブチ抜く神速の移動スキル――【絶対配送(デリバリー・ロード)】。
「お待たせしました! ご注文の揚げたてコロッケ(22,500円)お届けです!」
地獄の戦場にママチャリで乱入し、絶品グルメを届けるレンの姿は、50万人の視聴者に衝撃を与え、瞬く間に世界ランク1位へバズり散らかしていく!
一方、彼を捨てた元パーティは補給不足でボロボロ。
「戻ってきてくれ!」と泣きつかれても、もう知らん。俺は、高ランク冒険者の依頼で忙しいんだ!
クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?
ばふぉりん
ファンタジー
中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
【完結】魅了の魔法にかけられて全てを失った俺は、最強の魔法剣士になり時を巻き戻す
金峯蓮華
ファンタジー
戦に負け、国が滅び、俺ひとりだけ生き残った。愛する女を失い、俺は死に場所を求め、傭兵となり各地を漂っていた。そんな時、ある男に声をかけられた。
「よぉ、にいちゃん。お前、魅了魔法がかかってるぜ。それも強烈に強いヤツだ。解いてやろうか?」
魅了魔法? なんだそれは?
その男との出会いが俺の人生を変えた。俺は時間をもどし、未来を変える。
R15は死のシーンがあるための保険です。
独自の異世界の物語です。
ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム
前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した
記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた
村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く
ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた
そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた
私は捨てられたので村をすてる
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。