外れスキル【転送】が最強だった件

名無し

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第六話 蜘蛛の巣

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 暗くて長い階段を下り終えた俺たちの前には、ダンジョンへの転送ポイントと重厚な扉があった。

 扉には幾何学模様とともに古代語が長々と刻まれているが、さっぱり読めない……。

 なんせ俺は古代語検定1だからな。単語を幾つか知ってる程度なんだ。所々読める単語から察するに、おそらく攻略したことがある者は転送ポイントを、攻略したことがない者は扉を開けよと書いてあるのだと思う。

 ここまでは田舎から王都まで上京してきたときに一度見に行ったことがあるんだ。あの日からダンジョン入場試験を合格するまで結構かかったけどな。

 試験には実技と筆記があって、両方で計150点以上取らないといけない。どっちも王都の北部にある訓練学校内で一年に一度行われる。六度目の挑戦でようやく合格しただけに喜びもひとしおだった。

 その過程でアパートの自室の壁に頭突きしまくって大家に叱られたことや、飲み屋で喧嘩して一方的に殴られたことも、今となってはとてもいい思い出だ。

「では、入りますね」

 シルウが扉の窪みに手を入れると、認証されたらしく光の線が蜘蛛の巣のように扉全体に張り巡らされていく。ダンジョン初挑戦の俺がパーティーにいる以上、転送ポイントは使えないだろうしな。

 ……あー、ドキドキしてきた。

「すーはー、すーはー……」

 まず深呼吸で気持ちをリラックスさせる。いよいよこれから、俺は初めてのダンジョンに突入するわけだからな。最高の伴侶や仲間たちとともに……。みんなちょっと変人ではあるが、今までの苦労が報われた気分だ。本当に『サンクチュアリ』って、俺のためにあるようなギルドだな。

「ケイス様」
「ん? どうした、シルウ」
「……いい加減、腕を組むの止めませんか?」
「あ、ああ……」

 思いっ切り凄まれたから渋々外したが、シルウってこんなに怖かったっけ? みんなの前だし、いちゃつくのは恥ずかしかったのかもしれないな。

「ククッ……」

 怒った顔が何故かロンには受けてるっぽいけど、俺としてはシルウの笑顔のほうが見たいんだよな。

「もう二度と……」
「え?」
「いえ、なんでもありません。そのうちわかります」
「そ、そっか」

 あ、今シルウが悪戯っぽく笑った。

 なーんだ、まだ機嫌が悪いのかと思ったがそうでもなさそうでよかった。もう二度と……なんだろう? まあ、いずれわかるならいいか。もう二度とあなたを放しません、とかだったらいいなあ。

 ……お、光り輝く巨大な蜘蛛の巣が完成したと思ったら、扉がゆっくりと開き始めた。



 ダンジョンの中は思っていたより広かったし明るかった。何より天井がとても高い。

 俺はネタバレされるのが嫌なタイプだからあまり情報を仕入れてなかったっていうのもあるが、ずっと暗くて狭苦しいイメージを持ってたから意外だった。壁が発光してるせいか、割と遠くまで見渡せる。

 これなら一人で行ってもよかったかな? もう頼りになる仲間がいるからその選択肢は消えたけど。

「――チキショー! 早く始末しろよ!」
「うるせえな。わかってるって!」
「あわわ……」

 おお、ほかのパーティーの姿も見られるな。ボーンバットっていうアンデッド系の蝙蝠の群れに囲まれていてよく見えないが、徐々に減らせてるしそれなりに奮闘してる様子。ガシャガシャと羽音が鳴っててうるさい。

『ギィィッ……!』

 あ、こっちにも一匹やってきた……かと思ったら見事に俺たちを素通りしていった。マガレットのスキルがまだ効いてるみたいだ。しかもさっきの蝙蝠、なんかフラついてるんだが……隠し効果か? 敵から察知されず、さらに弱らせることができるなんて凄いスキルだな。……あれ? よくよく考えてみれば、こんなことができるなら俺の【転送】いらなくないか?

 ……いや、考えすぎかな。だってほら、ここはまだ地下一階だし、雑魚モンスターしか出てこないだろうしな。シルウはタフなモンスターを飛ばしてほしいって言ってたし、もっと深い階層にいるモンスターの話なんだろう。それならマガレットのスキルを見破る能力もありそうだし……。うん、きっとそうだな。この階は通過点に過ぎないのか、エルフィを先頭にみんな黙々と先に進んでるし……って、止まった?

「マスター、そろそろ始めたほうがいいかと」
「……そうですね、始めますか」
「ククク……やっと本当の宴が始まるわけだね」
「楽しみ……」

 なんだ? みんなお互いに顔を見合わせてやたらと楽しそうだ。これから何が始まるんだ……?
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