6 / 50
第六話 蜘蛛の巣
しおりを挟む暗くて長い階段を下り終えた俺たちの前には、ダンジョンへの転送ポイントと重厚な扉があった。
扉には幾何学模様とともに古代語が長々と刻まれているが、さっぱり読めない……。
なんせ俺は古代語検定1だからな。単語を幾つか知ってる程度なんだ。所々読める単語から察するに、おそらく攻略したことがある者は転送ポイントを、攻略したことがない者は扉を開けよと書いてあるのだと思う。
ここまでは田舎から王都まで上京してきたときに一度見に行ったことがあるんだ。あの日からダンジョン入場試験を合格するまで結構かかったけどな。
試験には実技と筆記があって、両方で計150点以上取らないといけない。どっちも王都の北部にある訓練学校内で一年に一度行われる。六度目の挑戦でようやく合格しただけに喜びもひとしおだった。
その過程でアパートの自室の壁に頭突きしまくって大家に叱られたことや、飲み屋で喧嘩して一方的に殴られたことも、今となってはとてもいい思い出だ。
「では、入りますね」
シルウが扉の窪みに手を入れると、認証されたらしく光の線が蜘蛛の巣のように扉全体に張り巡らされていく。ダンジョン初挑戦の俺がパーティーにいる以上、転送ポイントは使えないだろうしな。
……あー、ドキドキしてきた。
「すーはー、すーはー……」
まず深呼吸で気持ちをリラックスさせる。いよいよこれから、俺は初めてのダンジョンに突入するわけだからな。最高の伴侶や仲間たちとともに……。みんなちょっと変人ではあるが、今までの苦労が報われた気分だ。本当に『サンクチュアリ』って、俺のためにあるようなギルドだな。
「ケイス様」
「ん? どうした、シルウ」
「……いい加減、腕を組むの止めませんか?」
「あ、ああ……」
思いっ切り凄まれたから渋々外したが、シルウってこんなに怖かったっけ? みんなの前だし、いちゃつくのは恥ずかしかったのかもしれないな。
「ククッ……」
怒った顔が何故かロンには受けてるっぽいけど、俺としてはシルウの笑顔のほうが見たいんだよな。
「もう二度と……」
「え?」
「いえ、なんでもありません。そのうちわかります」
「そ、そっか」
あ、今シルウが悪戯っぽく笑った。
なーんだ、まだ機嫌が悪いのかと思ったがそうでもなさそうでよかった。もう二度と……なんだろう? まあ、いずれわかるならいいか。もう二度とあなたを放しません、とかだったらいいなあ。
……お、光り輝く巨大な蜘蛛の巣が完成したと思ったら、扉がゆっくりと開き始めた。
ダンジョンの中は思っていたより広かったし明るかった。何より天井がとても高い。
俺はネタバレされるのが嫌なタイプだからあまり情報を仕入れてなかったっていうのもあるが、ずっと暗くて狭苦しいイメージを持ってたから意外だった。壁が発光してるせいか、割と遠くまで見渡せる。
これなら一人で行ってもよかったかな? もう頼りになる仲間がいるからその選択肢は消えたけど。
「――チキショー! 早く始末しろよ!」
「うるせえな。わかってるって!」
「あわわ……」
おお、ほかのパーティーの姿も見られるな。ボーンバットっていうアンデッド系の蝙蝠の群れに囲まれていてよく見えないが、徐々に減らせてるしそれなりに奮闘してる様子。ガシャガシャと羽音が鳴っててうるさい。
『ギィィッ……!』
あ、こっちにも一匹やってきた……かと思ったら見事に俺たちを素通りしていった。マガレットのスキルがまだ効いてるみたいだ。しかもさっきの蝙蝠、なんかフラついてるんだが……隠し効果か? 敵から察知されず、さらに弱らせることができるなんて凄いスキルだな。……あれ? よくよく考えてみれば、こんなことができるなら俺の【転送】いらなくないか?
……いや、考えすぎかな。だってほら、ここはまだ地下一階だし、雑魚モンスターしか出てこないだろうしな。シルウはタフなモンスターを飛ばしてほしいって言ってたし、もっと深い階層にいるモンスターの話なんだろう。それならマガレットのスキルを見破る能力もありそうだし……。うん、きっとそうだな。この階は通過点に過ぎないのか、エルフィを先頭にみんな黙々と先に進んでるし……って、止まった?
「マスター、そろそろ始めたほうがいいかと」
「……そうですね、始めますか」
「ククク……やっと本当の宴が始まるわけだね」
「楽しみ……」
なんだ? みんなお互いに顔を見合わせてやたらと楽しそうだ。これから何が始まるんだ……?
49
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する
鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】
余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。
いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。
一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。
しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。
俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる