外れスキル【転送】が最強だった件

名無し

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第四五話 鼠

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「おい! よってたかって女の子をいじめてんじゃねー!」
「……はっ……」

 シルウたちがはっとした様子で周囲を見回すも、誰の姿もなかった。

「い、今……ガウロの声がしましたですよね……?」
「僕も聞こえた……」
「あたしもだよ」
「……ん、貴様……」

 エルフィが素早くミケから離れる。

「ど、どうしたんですの、エルフィ? ガウロに絡まれる前にさっさと片付けてとんずら――」
「――マスター、ガウロのやつはそこにいる……」
「え……?」
「……あ、あわわ……」

 ミケの驚いた表情は、自身の腹部についた逆毛の男の顔に向けられていた。

「へへっ……また会ったな、お嬢ちゃん?」
「え……ええっ?」

 ミケが不思議そうに目をまたたかせる。かつてガウロと遭遇したのは【転送】スキルの隠し効果でミケに乗り移ったケイスであり、彼女自身は初対面だったからだ。

「なんだよ、感動の再会だって思ってたのに忘れちまったのか? まあ驚きもあるだろうがしゃーねえなあ。つーかダンジョンに一人で入ったらダメだと伝えにいったらこのザマ。目も当てらんねえよ……」

 謎の男の顔が腹部についているというのに、ミケは何故か落ち着き払っていた。髪を逆立てたこの男が、棘のある空気を放つ『サンクチュアリ』とはあまりにも対照的な明るさだったというのもあるが、独りぼっちではないという事実が彼女にとってはそれ以上に大きかったのだ。

「あ……じゃあ、あのとき私を覗いてたのは……」
「おう、ありゃ俺だ! あれから通路の壁を伝ってきたらこういう状況になってたってわけよ」
「エルフィ、何をしているのです、早く仕留めなさい!」
「了解」
「まったく、せっかちな連中だ。ちっと体を操らせてもらうぜ」
「あっ……」
「ぬう。鼠め……」

 エルフィの攻撃を巧みにかわすミケだったが、コントロールしているのはガウロであった。

「お、この体キレッキレだな? いい鍛え方してるぜ!」
「エルフィ! 鼠一匹に何をモタモタしているのです! いい加減に黙らせなさい!」
「……それが、こいつ避けることに徹底している……」
「おうおう、よくわかってるな! ホムニ族のエルフィだったか? まともにやり合って勝てるやつじゃねえってのは百も承知よ!」
「……っていうかさ、なんであたしの【朦朧】スキルの隠し効果が効いてないのさ。もうかなり弱ってるはずなのに……」
「知らねーよ、そんなのよ! ま、おそらくこのお嬢ちゃんの力だな! この子の体の中にいるとパワーがみなぎってくるぜえっ!」

 野太い笑い声を発しながらミケの小さな体が小気味よく動き回る様はまさに異様だった。

「シルウ、まずいよ。このままだと【朦朧】が解けちまうじゃないのさ。再使用できるようになるまで結構間が空くし、それまでに人が来る可能性もあるし……」
「構いません、マガレ。誰も来やしませんよ」
「いいのかー? もし誰か来て、こんなところ見られちゃったら大変だぞ? 全てのギルドが結束して、鬼畜ギルド『サンクチュアリ』の打倒を宣言してくるかもなあ……?」
「そんなこと言って、焦ってるのは丸わかりですよ、ガウロ。私の能力のことくらいは知っているでしょうに」
「……知ってるぜ。【差別】だろ? お前らしいスキルだ」

【差別】とは、味方でない者に対して自身の魔法とは逆の効果を与えるものであり、たとえばシルウの範囲回復魔法はアンデッドだけでなく、周囲にいる味方以外の者の体力を削っていくことができるのである。

「よく知ってますわねえ。あなたのようにおバカが滲み出ている人は嫌いですけど、特別に褒めてさしあげますわ。というか声に力がなくなってますわよ?」
「……あぁ、んなのわかりきってら……。このお嬢ちゃんはもうとっくに意識がなくなってるくらいだからなあ。ワハハッ……」
「泰然自若とした振りをしていられるのも今のうちだけです。そうなったっということは、もうご自慢の回復力も望めないということ……。それとも、力尽きてしまう前に誰かの体に【寄生】しますか? それだとその子は確実に命を落とすでしょうけれど……」

 シルウはとても薄く、そして残酷に微笑むのだった。
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