道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

文字の大きさ
13 / 66

十三話 道具屋のおっさん、キレる。

しおりを挟む
 チュンチュンッ。ピチュチュッ。

 小鳥たちの歌声が俺の瞼と耳を優しくノックする。

「ふああ。もう朝かぁ……」

 気持ちが充実しているときっていうのは、見慣れた天井さえもなんとも愛おしく感じてしまうもんなんだな。しみったれてて蜘蛛の巣もあって汚らしいのに……。

 昨日のことは大体覚えている。カードを神様に見せてすぐ、視界が変わって俺の部屋に着いたわけだが、エレネも側にいたからベッドインしたんだ。もちろんスェックスはしてないが。あまりにも眠くて、勃起はしたものの手をつなぐくらいしかできなかった……て、あいつが横にいないだと……?

「おい、エレネ?」

 慌てて周りを見渡すも、エレネの姿はない。ベッドの下やクローゼットの中も見てみたがいない。タンスの中もいるはずもないのに。まさか、俺が寝てる間に逃げられたっていうのか?

「――はっ……」

 まさかと思ってコートの裏ポケットを確認したら……ない……。無限のカードが……。ちょ……。しかも迅雷剣までも……と、盗られたああああぁぁぁ!

「うぬうぅぅ……」

 あの小汚い雌豚めがああああぁぁぁぁぁ……ふざけやがって……。トゥサツしてやるぞ畜生、ルェイプしてやるぞ畜生、てやんでぇバロー畜生おぉぉっ!

「……おっ」

 涙目になりつつズボンの中をまさぐってみたら、カードの感触があった。

「こ、これは……!」

 水晶玉のマークと30の数字が描かれたカードが入っていた。そういや昨日、眠気が酷くてコートの内ポケットじゃなくて咄嗟にズボンのベルト通しに挟み込んでいたんだった。

 あいつも俺の隆起した汚いズボン探るの嫌だっただろうしそれが功を奏したな……。でもこれってなんの効果なんだろう。神様に聞く前にループのスタート地点に戻っちゃったからな……。

 多分占いかなんかだろーな。藁にも縋る思いでカードをおでこにつけてみると、右上に表示された1という数値がどんどん30に近付くにつれ、何やらドタドタと騒がしい音が迫ってきて、乱暴に扉が開けられて勇者パーティーが俺の部屋に乗り込んでくるシーンが浮かんできた。

「――ちょ、ちょい待って……」

 カードをおでこから離すと、映像はピタリと止んだ。……なんだ今の。怖すぎて少しちびったわ……。

 これはあれか、未来予知かなんかか? じゃあこの30って、もしかして俺がこのまま何もしなかったことを想定した30分後ってわけか……?

「ま、まさか……」

 急いで店のほうに走ってしばらく窓から外を見ていると、やがて勇者パーティーが遠くからこっちに向かってきているのが見えた。しかもエレネまでいる……。

 あいつ、俺に復讐するために勇者パーティーを引っ張ってきたわけか……。無限のカードもあるしな。なるほどなるほど……って、納得してる場合じゃない。クソッタレが。急いで道具屋を飛び出し、雪が積もった堀の後ろに屈んで身を隠した。

 ――来た来た。勇者パーティーが来た……が、いつもと様子が違う。かなり急いでる感じだった。エレネと何やら言葉を交わしたあと、扉を蹴破り、エレネを残して全員店の中に雪崩れ込んでいった。もし俺がまだあそこにいたらと思うとぞっとする。さっきカードで見たシーンが繰り広げられるわけだからな……。

 よし、また予知してやろう。カードをおでこにやると、早回しで右上の数字が15に達したとき、道具屋から勇者たちが怒った様子で出てきてエレネを中に引きずり込み悲鳴が上がった。うわっ。艶のある喘ぎ声まで聞こえ出したぞ。どうやらギシアンしてるっぽい。

 ……なるほど。中に俺がいなかったから嘘をつかれた形になるわけで、標的がエレネに変わったってわけか。いいお仕置きになるとも思ったが、それだと処女じゃなくなっちゃうからまずいな。それにエレネが無限のカードを持っていた場合、勇者たちに奪われるかもしれない。それだけは避けたい。

 今から15分後にやつらが道具屋から出てくるのはわかっているので、その前にエレネにそっと近寄り、羽交い絞めにしつつ口を塞いでそのまま拉致してやった。

「む、むぐっ……」

「来いよ雌豚」

 道具屋からなるべく離れる。あそこにいたら野次馬も集まってきて危険だからな。

「――よし、この辺でいいか」

 昨日通った裏路地をずっと進んだところで立ち止まった。

「エレネ、わかってるな?」

「ちゅーですよね?」

「あ? んなわけねえだろ」

「……えっと、じゃあなんでしょう……?」

 白々しいやつ……。ごまかそうとしても無駄だ。俺は執念深いんだ……。

「ま、とりあえずボコボコの刑ね」

 せめてもの慈悲として歯茎剥き出しの笑顔を見せてやる。

「……ぇ」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオアラオララ!」

「もぶぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇ!」

「――……はぁ、はぁ……。ま、こんなところでいいかな」

「……ヒュー、ヒュゥゥ……」

 ウッワ、ヤッベ……。殴りすぎちゃってこいつの顔が岩みたいになってる。超絶ブスだし息も絶え絶えだし何度見ても笑える。いやあ危ない危ない。もうちょっとで殺すところだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...