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三十四話 道具屋のおっさん、花摘みをする。
しおりを挟む「爺さん、もう帰っていいぞ」
「帰っていいですよっ」
「……は、はあ……」
山の麓に到着したんだが、御者の爺さんきょとんとしてるな。そりゃそうか。
途中までは山の中腹でスノードラゴンを数匹倒したら帰るつもりだったんだが、どうせなら山頂を目指すことにしたんだ。
そこに伝説の剣が眠ってることを思い出したからな。もうそこまで行ったら死に戻りしたほうが早そうだから、爺さんにはここで帰ってもらおうってわけだ。
「「ちゅー……」」
「……」
爺さん、呆然と俺たちのキスを見ている。親と娘くらいの年齢差に見えるだろうから珍しいか。エレネ、見られているのが良かったのか、鼻息荒いな……。
「さあ、爺さん、ぼやぼやしてないで早く帰れ。ぶっ殺しちまうぞ?」
「ぶっ殺しますよー?」
「はっ、はいいぃぃっ!」
爺さん、慌てて馬車を出した。あんまり興奮して心臓発作起こさなきゃいいけどなあ。
※※※
山の中腹まで登ったとき、早速スノードラゴンが一匹現れたからレベル359の電撃をお披露目してやった。さあ、何発で倒せるかな?
『ガアアアアアアアアアアアァァァァッ!』
……全身を揺さぶるかのような断末魔の悲鳴とともに、スノードラゴンは息絶えてしまった。えええっ。一発って、マジかよ……。
「モルネトさん、凄いですっ。今ので50も上がって409ですよ……」
「……おおっ、そんなに上がったか……。エレネは?」
「288まで上がっちゃいましたっ……」
「「ちゅっちゅ……」」
とりあえずエレネとキスをする習慣ができてしまった。このウサビッチが可愛すぎるのがいけないんだ。
「――モルネトさん、霧が深くなってきましたね……」
「……そうだな……」
スノードラゴンを一発で倒せる俺でもさすがにこの濃厚な霧には手を焼いていた。視界が悪すぎて足元さえおぼつかない状況だ。
「はっ――」
嫌な予感が的中してしまった。一歩踏み出した俺の足元には何もなかった……。
「うわあああああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!」
「も、モルネトさん!?」
「――うっ……ここは……」
気が付けば、俺は突き出た岩の上にいた。
どうやら崖から転落する際、ここに引っ掛かって止まっていたようだ。ラッキーだった。しかも霧まで薄くなってる。見上げると、ここから落ちた場所からは30メートルほどの距離があるのがわかった。お、エレネが手を振ってるな。
俺、あんな高いところから落ちてよく死ななかったもんだ……。しかも痛みもほとんどない。骨折すらしてないようだ。さすがは409レベルといったところか。
「モルネトさーん! 大丈夫ですかー!?」
「大丈夫だ! エレネ、そこから飛び降りろ!」
「ええっ!?」
「俺が受け止めてやる! ダメなら俺も死んでスタート地点に戻るだけだ!」
「わ、わかりましたっ!」
さすが俺だけのウサビッチ。躊躇なく落下してきた。
「――うぐぅ!?」
……さ、さすがに体にダメージはあったが、ちゃんと受け止めることに成功した。
「「……ちゅうぅぅ……」」
いつもより長めにキスし合う。フウウゥゥ、爽快、リフレッシュ。恋は障害が多ければ多いほど燃え上がるんだ(キリリッシュ
……ん、あの花は……。
俺がエレネとキスしながら見たのは、近くで風に揺れる伝説の花、ヴァルキリーフラワーだ。
草や根の部分が青く、花弁は透き通るような白色だった。まさか、一年に一度しか咲かないという神の花に巡り合えるとは……。レベルがこれだけ上がったことで運も激増したんだろうな。さすがはジーク・モルネトといったところか。エレネも気付いたらしく、花に見惚れている様子。
「凄く綺麗な花ですねぇ……」
「ああ……」
エリクサーの材料になるし取っておこう。回復量が凄まじいらしくて、息さえあればどんな末期の状態からもすっかり元気になる奇跡の薬って言われてるんだ。
エリクサーさえあれば勇者パーティーとの決戦で役に立つだろうし、壮絶な暴力プレイも可能にできるな。使っても一日経つことで元に戻ることを考えれば、ある意味最高のアイテムと言えるだろう。
「行くぞ。せーのっ!」
「わあっ……」
エレネを抱っこしてジャンプすると、30メートルの高さをものともせず、元の場所に戻ることができた。レベル409は、最早常人のレベルではないということなんだろう。
「「ちゅうぅー……」」
もう癖になってきたなあ。
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