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六十三話 道具屋のおっさん、歌舞く。

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「アルタス、おせーぞ」

 今まで順調に来ているだけに緊張する。ここで失敗するわけにはいかないが、守りにだけは入るな。とにかく攻めるんだ……。

「お、クリス。今度は魔術師さんですかい」

「ん?」

 勇者を呼び捨てにしたら、軽く睨まれた。心臓に悪い。頼む、このまま何事もなく終わってくれ……。

「魔術師さんって、お前にしては丁寧な言い方だな。モルネト。紹介するぜ。こいつはグロムヘルの天才魔術師アルタスだ」

「よろしく、魔術師アルタス!」

「……誰だね、この男は……」

「モルネトっていう底辺道具屋なんだけどよ、すげー面白いやつでさ」

「キチガイだよこいつ。自分で商品ぶち壊すしさ」

「ほう……」

 俺の握手は、目の前にいる眠い顔の男に軽くスルーされた。なんだよこいつ、俺みたいなおっさんが好みじゃなかったのか……?

「――クリス、ライラ、アルタス。もうっ、私一人置いていかないでください!」

「ミヤレスカ、おめーがおせーんだよ……」

 軽く動揺してるところに僧侶ミヤレスカまでやってきた。心臓がバクバクして苦しい。暖炉がいらないんじゃないかってくらい体が熱かった。悪人モルネトの凄さが改めてよくわかる……。

「こりゃたまらん、すげー可愛い子じゃねえかあ! かっかっか!」

 攻めるんだ。とにかく攻めるんだ……。

「クリス、誰ですかその汚いおっさんは」

「モルネトっていうんだ。すげー面白いぜこいつ」

「そうなのです?」

「ああ、あたいも暇つぶしになるくらいには楽しんだよ」

「へぇー」

「うるせえぇっ! 俺はてめえらの暇つぶしのために産まれてきたんじゃねえ!」

 白目をむき、豪快に唾を吐き捨ててやる。

「な? おもしれーだろ」

「エクストラヒールッ! きゃははっ、おもしろーい!」

 ……お、大分緊張が和らいだ。特別なヒールを貰うと精神も安定するんだな。今のは本当にありがたかった……。

「うおおっ! オラ、もうこのミヤレスカっていう女を抱くしかねえよ!」

 ……うわ、まずいな。俺の台詞でみんなシーンとなった。さすがに調子に乗りすぎたか? 頼む、空気よ変わらないでくれ……。

「……はあ。モルネト、お前すぐ気が変わるぜ。ミヤレスカはよ、顔はいいけど頭おかしいからな」

「ちょっとー、クリスったら、何それですよー」

「同類同士、気が合うんじゃないのかい?」

「そんならオラにも脈ありそうだな! ワクワクしてきたぞおぉ!」

「「「あははっ!」」」

 よし、クリス、ライラ、ミヤレスカには俺の台詞が好評だったらしく、腹を抱えて笑っていた。

 ……魔術師アルタス、ただ一人を除いては……。

「つまらん。実につまらん……」

 やつの発言でみんな黙り込んでしまった。まずいな……。よく考えたらこいつ、俺が弱ってるところを見て特に喜んでたし、特殊なんだよな……。

 こうなったら……俺はヤケクソで服を全部脱いだ。もう、あれしかない……。

「つまらねえだと? ふざけるんじゃねえっ! 俺はジーク・モルネトだぞ!」

「「「ブハッ!」」」

「……フン……」

 三人には受けてるが、アルタスは笑わない。頼む、笑ってくれ。もう今度こそ最後の手段だ……。

「……イツデモキノコー!(高音」

「……我の勝ちだ」

「へ?」

 アルタスはニヤリと笑った。まさか、キノコの大きさのことか……。

「ふむ。まあまあだった。行くぞ、お前たち」

「ちょ、待てよアルタス! モルネト、またなっ」

「あたいもまた来るよ、モルネト」

「また来ますねー」

「おう! また来いよ! かっかっか! ……か……」

 豪快に笑いながら勇者パーティーが立ち去るのを見届けたわけだが、俺は気が付けば座り込んでいた。

「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 これだけ緊張したの、産まれて初めてかもしれない……。

「――ど、道具屋のおじさん!? きゃああっ!」

 誰かが入ってきたと思ったら、いつもここのポーションを買ってくれる馴染みの客、エレネだった……。

 俺の姿を見たあと、びっくりしたのか出て行ってしまった。このままじゃ変な噂を立てられそうだってことで、急いで服を着て追いかけようと店から飛び出すと、すぐ横にエレネが立っていた。

 よかった……。変態とは思われなかったみたいだな。多分、着替えてるところだと解釈されたんだろう。

「……ジーク・モルネト!」

「……え?」

「さっきのは演技です。モルネトさん、会いたかったです……」

「え、エレネ……」

 記憶を維持していたのは俺だけじゃなかったのか……。

「「ちゅうぅ……」」

 エレネとキスをする。悪人モルネトでもない俺が。まるで夢のようだ……。

「モルネト様あっ、私も混ぜてくださいまし……」

「「あ……」」

 僧侶ミヤレスカだ。片目だけ見開いて例の淫らすぎるカーテシーを見せてきたか思うと、俺たちの間に割って入ってきた。この子も芝居してたのか……。

「「「ちゅー」」」

 トリプルキッス。善人の俺にも出来たっ……。
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