道具屋のおっさんが勇者パーティーにリンチされた結果、一日を繰り返すようになった件。

名無し

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六十五話 道具屋のおっさん、昔を懐かしむ。

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「ただいまー……って、モルネト君……!?」

「会いたかったよ、オルグ……」

 俺は涙を浮かべて帰ってきたオルグに抱き付いた。もちろん演技だ。俺自身こいつは好きじゃないが、悪人モルネトが今まで散々な目に遭わせてきたから、その謝罪の意味もあった。

「……き、君が僕に会いにくるなんて思わなかったよ……」

「……ふと、懐かしくなってね……」

「うんうん、僕も君が懐かしいよ。昔はよく遊んだなあ。覚えているかい? 君が転んで、お尻の部分が破けて泣いていたとき、僕が後ろを歩いて隠してあげただろう……」

「……あ、ああ。覚えてるよ」

 隠してくれたのは嬉しいが、一番笑ってたのはオルグなんだよなあ……。後ろで奴隷たちも笑ってやがる。あとでお仕置きだ、こん畜生……って、俺らしくもない。悪人モルネトとの格の違いを見せてやらねば……。

「それにしてもこの店の商品、凄いな。どれも一級品だ」

「ふふっ。君にもわかるかい。凄いだろう。特にこの迅雷剣、絶対にほかでは手に入らない至高の一品さ……」

 うっとりと看板娘の剣を見やるオルグ。普段ならむかつくが、もう何も感じないな。あれにはお世話になった、ただそれだけだ。

「――というわけさ……」

 オルグの自慢話はしばらく続いたが、平気だった。むしろ刺激が足りなくて眠りそうになったくらいだ。

「いやー、凄いな。本当に凄いよ、オルグ」

「……う、嬉しいよ。君に褒められるのが、僕は一番嬉しいんだ……」

「そ、そうか……」

「何を隠そう。僕は君に嫉妬していたんだよ……」

「……え?」

 それは初耳だった。貧乏道具屋の息子でしかなかった俺に、一体何を嫉妬していたというんだ……。

「笑顔さ……」

「笑顔?」

「君のように僕も思い切り笑いたいと思うことが何度あったか。でも、できなかった。最初の父さんがいなくなったりとか、色々あったからね。ストレスが続くと、人は上手く笑えなくなるものなのさ……」

「……」

 こいつなりに色々苦労したんだな。そういえば、オルグが笑うときはいつもどこか影がある感じだった。俺も勇者パーティーにやられてからはそうだったからこいつの気持ちもわかるような気がした。

「僕は正直、今までモルネト君を見下していた。苦労も知らない、笑顔を周りに振り撒けばいいと思っているお人よしの道具屋だって……」

 オルグの野郎、ずばずば言いやがって……。

「でも今日こうして話してみて、モルネト君もなかなか苦労してるって感じたよ。一体何があったか知らないけど……」

 まあ結構色んなことを経験したからな。顔に出ているかもしれない……。

「僕には父親は違うんだけど、妹がいるんだ。エレネっていう……」

「……」

「もしよかったら、エレネを嫁にしてやってくれないか……」

「お、オルグ……俺でよければ……」

「まあ冗談なんだけど……」

「おい……」

 今本気で殴ろうとしてしまった。なんか悪人モルネトに影響されまくりだな、俺……。

「あ、ごめんごめん。まずは友達からってことだよ……」

「ああ、そうか……」

 もうエレネのほうから嫁にしてくれって頼まれてるんだけどなあ……。

「彼女が気に入れば、だけどねえ」

「……じゃあ、向こうが気に入ったら嫁にしてもいいのか?」

「そりゃそうだよ。でもエレネは特に男性には人見知りだから、苦労するよ。それに、君はイケメンでもないしね……あ、失礼……」

「そ、そうか。頑張るよ」

 既に悪人モルネトにウサビッチにされちゃってるけどな。それを知ったら泡吹いて倒れそうだ。

「ま、精々頑張ることだね。君には無理だとは思うけど……」

 もう我慢ならん……。やっぱりこいつは根っからの武器商人だ。良い武器でもやるくらいじゃないと態度が悪すぎる。悪人モルネト、お前の力を借りるぞ……。

「……エレネ、来るんだ」

「はーい」

「ええ!?」

 裏から出てきたエレネと俺は腕を組んでやった。

「エレネ、こ、これは一体……」

「オルグ兄さん、ごめん。黙ってて。道具屋に通ってるうちに、モルネトさんを好きになっちゃったんです……」

「そ、そんな……」

「ん? オルグ、何か異論でもあるのか?」

「……い、いや……ないよ。グスン……」

「「ちゅうぅぅ……」」

 俺たちは涙ぐむオルグの前で勝利のキスを味わった。
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