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42話 泥
しおりを挟む「ええっ……あのことを誰にも言わないでほしいって、カレルさん……それ本気なんですか……?」
「ああ……。コレットの気持ちはわかるし俺も悔しいけど、今日を含めて残された時間はあと六日しかないんだし、みんなに余計なことで時間を使わせたくないんだ……」
あれからしばらく歩いたあと、俺はやむを得ずコレットに釘を刺す形になった。やり返したい気持ちはあるが、終わったことはもう仕方ないからな……。
「……でも、でももしまたあんなことがあったら、私……」
「大丈夫だ。今度はちゃんと逃げるから……」
「はい……! 私がカレルさんの手を引っ張って、どこまでも逃げます!」
「頼もしいな」
「えへへ……あ、もうすぐですよ……!」
「そっか。じゃあ、ここからは俺も歩いていくよ」
さすがにコレットに背負われたまま帰ったら、何かダンジョンでもめ事でもあったんじゃないかとメンバーに怪しまれるだろうしな。本物のモンスターからやられたにしては中途半端で不自然に見えるかもしれないし、洞窟で派手に転んだことにして泥でも塗って痣を隠すか……。
「ええっ? もう歩けるんですか……?」
「多分、杖さえあれば……」
「あ、はいこれですね!」
コレットが捨てずに持ってくれていた。まさか釣れたものがすぐ役に立つときがくるとはな。
「大丈夫ですか? 無理だけはしないでくださいね」
「……イテテッ」
「カ、カレルさん!? やっぱりまだ厳しいですよ……」
「だ、大丈夫。ちょっと痛むけど……」
ゆっくりだが、宿舎は目と鼻の先だし、杖があれば普通に自力で到達できそうだ。
「もー、カレルさんったら……」
「……」
ラシムの口癖だった『もー』をコレットの口から聞いても、不思議と前のような嫌な感じはしなかった。ようやく割り切れたってことかな。この子のおかげで……。
「そういや、弓とか槍はさすがに重いから捨てたんだろ? 結構いいものだったから惜しかったな」
「それもちゃんと持ってきてますよ。ほらっ……」
「お、おお……」
杖だけじゃなくて、弓や槍まで持ってきてくれてたのか。しかも俺を背負ってあの急な上り坂を……。よく考えると彼女は亜人だから、身体能力だけでいえば潜在能力は人間より遥かに上なのかもしれないが、それ以上に強い気持ちがないとできないことだと思えた……。
「「「――おかえりー」」」
「……おかえりなさい」
「「……」」
驚いたことに、ジラルド、ファリム、ルーネ、マブカのメンバー四人が揃って俺たちの帰りを待っててくれていた。
「た、ただいま……」
「ただいまです……」
「あまりに君たちの帰りが遅いから、心配になってみんなで雑談しながら待ってたんだよ。見たところ結構やられたみたいだねえ、平気かい?」
「そ、それが――」
「――平気だよ、全然……くっ……」
俺は何か言いたそうなコレットを制して問題のなさをアピールしたかったが、全身にピリッとした痛みが走って思わず声が出てしまった……。
「……ねえ、カレル。なんか泥だらけだけど、どうしたのよ……?」
ファリムが腰に手を置いて呆れ顔で俺を見てくる。まあそりゃそうだよな……。
「それが……ちょっと緊張して、トチって派手に転んじゃって――」
「――わ、私が足を引っ張ってしまったんです。カレルさんは私を庇おうとして転んじゃって……。ごめんなさいっ!」
「はぁ……。そんなことなら、私がコレットの代わりにカレルをサポートしてあげればよかったわね……」
「……で、ですよね。でも次は――」
「――次? もうあなたには任せてられないわよ。私がカレルを守ってあげる」
「……で、でも……」
「ファリム、あんたねえ……ちっとは空気読みなよ!」
「何よ、この子の一方的な片思いなんだし別にいいでしょ! ルーネこそいい顔して好かれようっていうのがバレバレなんだからっ!」
「……は、はぁ? うちはね、泥棒猫みたいな真似は辞めるようにって諫めてあげてるだけだよ!」
「その割にルーネは新メンバーが来るってことで激ヤセして露出も多い格好にしたんだよねー」
「くっ……もうあったまきた! お仕置きだよ!」
「へへーんだ!」
「「……」」
また喧嘩が発生したわけだが、そのおかげでごまかせたみたいでよかった。コレットもほっとした様子。俺たちの気持ちはともかく、先輩の顔にまで泥を塗るわけにもいかないからな……。
「さあ、カレルもコレットも、マブカが美味しい料理を作ってくれてるから一緒に食べよう!」
「「はい!」」
「では参りましょうか」
「あ、私が先よ!」
「うちが先だよ!」
「「あはは……」」
俺とコレットの笑い声が響く。戻ってきても宿舎の中は相変わらずみたいで安心した。
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