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第14話

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 あれ、もうこんな時間なのか……。

 視界の片隅に表示されている残り時間は、いつの間にかもう2時間を切っていて、あと1時間52分になっていた。

 もしこのまま何も起きずに制限時間になったとしても、僕たちはサバイバルゲームの勝者としてワンランク昇格となるだろう。

 しかも、残った敵はたった一人だ。どう考えてもこっちが圧倒的優位なわけで、普通ならこの時点でリラックスムードになってもおかしくない。

 なのに、今の空気はまったくそんな感じじゃなかった。今までのものを遥かに凌ぐような、途轍もない緊張感に包まれていたんだ。

「「「「……」」」」

 あれから僕たちの中で、先頭を歩くクロムを含めて、みんな一言も発さないのがそれをよく表してる。

 何故なら、僕を害するための作戦を考えた黒幕であろう、陰の支配者がまだ存在するからだ。

 その名も、黒崎汐音。会話したこともないのに、一体なんの恨みがあるのか見当もつかないけど、僕を付け狙ってくる謎の多い人物だ。

 なんせ、黒崎はすぐにでも上がれる実力があるにもかかわらず、ずっとGクラスに留まってるっていうからね。おそらく昇格には興味がないわけで、なんとしても僕と決着をつけようとしてくるはず。

 何より気味が悪いと思うのは、彼女の情報についてだ。タクヤとマサルによると陰の支配者とか闇の帝王とか、そういう真偽もはっきりとしない抽象的な話ばかりで、具体的なものについてはほとんど何も判明していないということ。

 唯一の救いがあるとしたら、メタリックスライムの従魔クロムが味方にいるってことだ。この子の磨き抜かれた警戒心によって、すぐに敵の居場所を感知してくれるはずだ。

 もちろん、向こうだって僕を亡き者にするべく、竹林の中を必死に探し回ってるはず。それになんとしても打ち勝ってやるのはも当然として、僕を害そうとする理由を聞き出さなきゃいけない。

 もし、僕を亡き者にするためにクラスメイトを焚きつけたっていうのが真実だった場合、そこにどんな事情があろうと絶対に許すつもりはない……。

「――主、東北東の方角だモ。200メートルくらい先に何かいるモ……」

 やがて、クロムが足を止めてそう呟いた。遂に黒崎汐音らしき気配を察知したみたいだ。

「そっか。よくやった、クロム。みんな、とうとうやつが来たみたいだね」

「ふむう。いよいよ最終決戦なんじゃな……」

「ぐへへっ、ここまで来たんだからよぉ、やるしかねえぜぇ……」

「おう。やってやんよ。漲ってきたぜ……」

「……」

 僕は青野さんたちの反応を見て地味に感動していた。これまでになかった強烈な緊張感の中でも、誰一人引き下がろうとはしなかったからだ。

 プレッシャーに慣れてきたってのもあるんだろうけど、今までと違って青野さんを含めてみんな成長してるみたいだ。

 もちろん、僕自身もそれに引っ張られるようにしてサバイバルゲームを勝ち抜いてこられたんだと思う。もうあと一人、陰の支配者を倒して、晴れてみんなと一緒にF級に昇格するだけだ。

 重たい空気を無理矢理こじ開けるが如く、竹林の中をしばらく進んでいくと、無表情でゆっくりとこっちに向かってくる女子生徒の姿が見えてきた。

 あ、あいつだ。黒崎汐音で間違いない……。ただ、僕は正直、目の前の光景に軽くショックを受けていた。

 本当に、なんら警戒心や敵愾心のようなものを見せることもなく、武器も防具も持たず、隙だらけの格好でおもむろに歩いてきたのだ。

 おいおい、どういうつもりなんだ……? それだけ自信があるってことなのか。

 だったらこっちも堂々と戦ってやろうってことで、僕たちは彼女の前に出て待ち構える格好になった。

「黒崎汐音……君が陰の支配者だな……?」

「……なんのこと? 陰の支配者って……」

「え……」

 わけがわからない。逆に質問されてしまった。青野さんたちも状況が吞み込めないのかぽかんとしている。

「え、いや、だって、君は陰の支配者として、クラスのみんなと結託して僕を害しようと画策してたわけでしょ?」

「……そんなことしてないけど」

「「「「えっ……」」」」

 僕たちは困惑した顔を見合わせる。一体どういうことなんだ? 彼女は悪い人じゃなかったってこと?

 いや、それじゃ整合性がなくなってしまう。

 彼女が僕をなんらかの理由で憎んでいて、それで陰の支配者として恐怖政治を行い、Gクラスを操っていたって感じのストーリーをイメージしてたのに。

 そうじゃないと、今まで起こった事象についての説明がつかなくなる。

「君が僕を嫌っていたのは事実だよね? だって、あの転校生の五十嵐竜也って人をけしかけたわけでしょ。僕が番長ってことにして」

「……別に、嫌いだなんて思ってない……。五十嵐って人に、質問されたの……。このクラスで一番強い人は誰かって。それで私が白石君って答えただけだから……」

「……そうだったのか……って、まさか鑑定系のスキルを……?」

「……うん。持ってるよ」

「……」

 黒崎が嘘をついてるようには見えない。なんせ、彼女は強いのになんらかの理由でずっとこのクラスにいたわけだから。

「えっと……君のステータス、鑑定しちゃってもいいかな?」

「……」

 コクリと頷く黒崎汐音。許可なんて必要もないのに思わず聞いてしまうくらい、この子は普通に良い子のように見えてしまったんだ。

 僕が思っていたような展開とは、まったくといっていいほど違っていた。てっきり陰の支配者っぽく腕を組んで不敵な笑みを浮かべながら、理不尽な逆恨みをここぞとばかり披露すると踏んでいたのに。

 ステータス

 名前:『黒崎汐音』
 年齢:『16』
 性別:『女』
 称号:『Gクラス』『死神』『陰の支配者』『闇のカリスマ』『悪の帝王』

 レベル:『20』
 腕力:『22』
 俊敏:『20』
 体力:『19』
 技術:『21』
 知力:『24』
 魔力:『22』
 運勢:『20』

 MP:『0』
 DP:『0』

 スキル:『鑑定眼レベル3』
 従魔:『無し』
 武器:『死神の大鎌』
 防具:『無し』
 道具:『無し』
 素材:『無し』

「……なっ……」

 この黒崎汐音という子、めっちゃ強かった。レベルが20なのもそうだし、僕と同じ『鑑定眼』スキルもある上、いかにも強そうな武器まで所持していた。これの詳細もついでに調べてみよう。

 名称:『死神の大鎌』
 種別:『武器』
 レア度:『SS』
 効果:『半径1メートル以内にいる敵全員に必中させることができる。当たった相手は例外なく即死する。また、相手の攻撃を高確率で受け流すパリィの効果もある』

「……」

 レア度がSSなのも即座に納得できる、凄まじいまでの効果だった。射程は短いけど、範囲系で即死かよ。なのになんで最底辺のG級にいつまでも留まってるんだよ。おかしいだろ……。

「な、なあ。あんた、そんなに強いのになんで昇格しないんだ?」

「……あなたに言う必要はない」

「……そ、そりゃそうかもしれないけどさ、単純に疑問なんだよ。なんで?」

「……言いたくない」

「……そ、そっか。それなら無理して言わなくても――」

「――お、おいぃ、優也ちゃん、なんでそんなに弱腰なんだよぉ⁉ こんな鬼畜女にいいように言わせておくなってぇ!」

「優也。タクヤの言う通りだっての! どうせ、自分を振った彼氏に白石が似てるからとか、そういうくだらねー理由で大勢の連中をけしかけて、こんな大がかりな作戦を立てたんだろ!」

「多分そうだぜぇ。この女が優也ちゃんに固執するのは、大方マサルの推理通りだろうなぁ。いつまでも昇格しねぇのも、上位のクラスで競争に負けたくなくてよぉ、底辺でお山の大将を気取りたいだけだろおぉ……⁉」

「……あなたたちに何がわかるの……?」

「「「ひっ……⁉」」」

 無表情で言葉に抑揚がないのは変わらないのに、黒崎のたった一言でタクヤとマサル、さらに巻き添えで青野さんまで縮み上がってしまった。彼女の声にはそれだけの圧が孕んでいたんだ。

「……それで、白石君。やるの、やらないの……?」

「……あ、あぁ。もちろんやるよ。やるけど……君を倒せば、昇格しない理由とか、色々話してくれる?」

「……別にいいよ。そんなに聞きたいなら……」

 よーし、約束を得た! やったー……って、まるでデートの約束にでも取り付けたみたいじゃないか。

 とにかく、この子を倒して過去を聞き出したいという気持ちが今は強かった。そうすれば、色々と謎の部分も解明されるかもしれないしね。
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