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第18話
しおりを挟む「うわあ、こりゃ酷いね……」
「……うん」
「まったくじゃ……」
「ひでぇ……」
「俺らの聖域が……」
ジャイアントフロッグのダンジョンをクリアしたあと、青野さんらと合流した僕たちが訪れたのはGクラスの教室だ。
割れた窓ガラスや木片、石や泥がそこら中に散乱し、机や椅子も折り重なるように倒れて散々なことになっていた。
どうやら窓から巨大カエルに侵入されたみたいだ。
なんせここは校舎の一階だし、1メートルくらいのサイズのやつなら容易く入れるだろうしね。
画面の中央が無残に割れた巨大モニターには、『しばらく授業は中断する!』と書かれた貼り紙があった。この波打ったような汚い字は猪川先生のものだ。ってことは無事だったみたいだね。
もちろん、僕を含めてみんな彼を心配してここに来たわけじゃなくて、黒崎汐音があることを言っていたのでそれを確認するためだった。
ボスガエルとの熾烈な戦いが終わって一息ついたあと、汐音に保健室で最後に何を言おうとしたのか尋ねたんだ。
そしたら、彼女は思い出したのか少しだけ目を見開いて『あのとき……もしかしたら、優也君の座っていた席って、いわくつきの席かもしれないって言おうとしたの……』って零したんだ。
汐音によると、今から1年前ほど前、同級生たちから挙って嫌がらせを受けていた生徒がいたという。今は昇格した彼もそこに座っていたことから、僕が同じ席でいじめられていたのもあって、何かを仕掛けられてるんじゃないかって睨んだらしい。
僕の席はちょうど教室の真ん中のほうだったから、多分この辺のはずだってことでその周辺を隈なく探す。まずはごちゃごちゃになってるのを片付けないと。
腕力値が30くらいあるためか、片手でひょいひょいと机を持ち上げられるので凄く楽だ。なんか空の段ボール箱みたいな軽さだと感じる。
それなりにステータスの高い汐音も傍で手伝ってくれてるけど、やっぱりなんら苦にした様子はなかった。さすが、あのやたらと重そうな死神の大鎌を軽々と振り回せるだけあるなあ。
……って、なんかやたらと視線を感じると思ったら、片付けていた青野さんたちが作業をやめて、僕たちのほうを見てあんぐりと口を開いていた。
なんでだろうと一瞬思ったけど、すぐに理由がわかった。そりゃそうか。僕らが軽々と持ち上げてるこの机は、生徒が暴れて壊さないように頑丈に作られてて、結構な重さがあるからね。例の火に強い特殊な竹製で、一つ30キロもあるんだ。
あ、見つけた! 僕のネームプレート付きの机だ。ちょっとした凹みや傷がある程度で、全体的にはほとんど無傷なのでよかった。さあ、調べてみるか。
「……」
ん-……何か変わったところがないか、机の中や表裏をつぶさに確認するも、ダメだ。特におかしな点なんてどこにも見当たらない。何かが仕掛けられてるっていうのは汐音の勘違いだったのかな?
「……優也君。私にもちょっと見せて」
「あ、うん」
汐音が僕の机をじっくり調べてる。なんだか自分が調べられてるみたいで照れちゃうな。僕が変わってるだけだろうか?
「――あった……」
「えっ……⁉」
凄いや、もう見つけちゃったのか……。さすが、彼女はこのクラスにずっといただけあって観察力が養われたのかもしれない。汐音が手に持っていたのは赤い糸だった。
「そんなの、どこにあったの?」
「付け根の辺り……」
「あー、そこか。なるほどね……」
どうやらこれが机の脚の付け根に巻かれていたらしい。道理で気づかないわけだ。よーし、早速『鑑定眼』で詳細を調べてみよう。
名称:『呪いの赤い糸』
種別:『道具』
レア度:『B』
効果:『呪われている血染めの糸。対象の所有物、あるいは居場所のいずれかに括りつけることで、時間が経つにつれて対象への周囲の悪意が増幅していく』
「……」
な、なんだこれ……。運命の赤い糸の逆パターンみたいだ。つまり、僕に対してちょっとした悪意があった場合でも、それが徐々に憎しみに変わるってことか。
うわ、想像するだけで寒気がする。でも、これで僕がGクラスのほぼ全員から敵対視された挙句、サバイバルゲームで狙い撃ちされたのも納得できた。とんでもない罠を仕掛けられてたもんだ……。
それについて青野さんたちにも説明すると、みんな見る見る青ざめながらお互いの顔を見やっていた。
「ふむうぅ……おっかないのう。そりゃあれか、五寸釘を打ち付けられた藁人形みたいなものかの? それにしても、一体どこの誰がこんな恐ろしいものを仕込んだというんじゃ……」
「げへへっ、意外と犯人は青野爺さんだったりしてなぁ?」
「あ、そーいや青野爺って優也を裏切ったよな?」
「ちょっ……サバイバルゲームで裏切ったのは事実だが、わしはこんなもの仕掛けとらん! 無実じゃ潔白じゃっ! そもそも、わしがこの学園に入ったのは今年の4月じゃから、歳はともかく白石のあんちゃんとは同期じゃぞ⁉」
「そうだモ?」
「そ、そうじゃっ! 頼むからわしを信じてくれ、スライム君っ!」
「でも、一度主を裏切ったから、怪しいモ……」
「むっ、むぐぐっ……」
「あははっ、クロム、あんまりいじめちゃダメだよ。僕は信じてますって、青野さん」
「おおぉっ、さすがわしの無二の親友、白石のあんちゃんじゃっ! 信じてくれてわしは嬉しいぞいっ! 小鳥の彼氏にしてやってもよいくらいじゃあぁっ!」
「い、いやいや……」
恋人にしてやってもいいって、小鳥ちゃんにも選ぶ権利はあると思うんだけど……っと、今はそれどころじゃなかった。
「この糸を巻いた人って、僕より以前に座ってた人に恨みがあったっぽいよね。汐音はその人についてなんかわかる?」
「私、その席にいた人についてはよく知らないけど……恨んでいた人なら知ってるかも……」
「えっ。恨んでた人って、一体誰なんだ?」
「……茜だと思う」
「……あ、茜って、汐音の友達だった人だよね? なんでその人が?」
「……だって、茜はそこの席に座ってた人と仲が良かったみたいだから……」
「えっ……⁉ 仲が良かったのに、呪いの赤い糸を仕掛けたってこと?」
「……確か、あの人は成績が良かったのもあって、昇格が間近だったの。茜はそのことで、『もし私をここに残していくなら呪ってやるもん』って笑顔で呟いてたから……」
「……」
その町村茜っていう子、友達の汐音に対してもそんな感じっぽいし、かなり嫉妬深い子だったのかな? 仲がいいからこそ、その人に昇格の可能性が出てきて疎遠になれば、好きが転じて恨みが生じるのも充分にありえる話だからね。
ただ……なんとなくだけど、原因は彼女の性格だけじゃないように思うんだ。根っからの悪人なんてそうそういないっていうのが僕の考えでもある。
もしかしたら、この道具自体も呪われていて、人を呪わば穴二つになるっていう隠し効果があったのかもね。それで茜って子が暗黒面に落ちて汐音を裏切ったって考えると合点がいく。
「この糸……誰か欲しい人いる……?」
「い、いやっ、黒崎さん、わしはそんな気味が悪いもの、絶対にいらんぞっ」
「お、俺もいらねぇ。黒崎ぃ、そんなもの早く捨てちまえよぉ」
「そ、そうだそうだ、タクヤの言う通りとっとと捨てちまえって、黒崎。つーか、そんなの誰も欲しがるわけねーっ!」
「……」
みんな後ずさりしつつ全力で呪いの赤い糸を拒んでるけど、そりゃそうか。嫌いなやつの足を引っ張るくらいしか使えそうにない上、下手したら自分まで呪われそうな道具だからね。
「じゃあこれ、私が貰うね」
「えっ……? し、汐音、ちょっと待ってよ。なんでそんなものを?」
「……私、赤いものが好きだし、茜の形見でもあるから。それに……優也君以外なら、別に嫌われてもいいかなって……」
「ちょっ……⁉」
「ふふっ……」
今更かもしれないけど、僕は汐音のことがほんのちょっとだけ怖いと思ってしまった。まあ、道具として使わずに所持する分なら問題ないみたいだし、これでいいのかな……。
さて、と。気になってた謎が解明されてスッキリしたあとは、端末で素材ガチャ、さらには合成でレアアイテムをゲットしたいところだ。
今度は納得がいくまで合成シャッフルをやってみようと思う。もちろん、前回みたいに最初に滅茶苦茶いいものばかりが出なければだけどね。
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