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晴れ姿
しおりを挟む武具屋『双竜亭』の店主――ロゼリアの父親――から装備品をタダで譲ってもらえるということで、俺はまず武器として一番マシに見えるリュートを選択した。
フルートがあれば木刀代わりになりそうなのでもっとよかったんだが、ないんだから仕方ない。
リュートは一見棍棒に見えなくもないとはいえ、やはり扱い辛そうではあるし、楽器でモンスターを殴るというのもちょっと抵抗あるな……。
というか、武器にしては全然洗練されてなくて、ただの楽器を殴り続けても耐えられるように丈夫に作ってあるだけらしい。【吟遊詩人】というジョブ自体稀だからって適当すぎるが、頑張っても商売にならないなら仕方ないか。
ネック部分を両手で掴んで持ち上げてみたが、壊れないように補強してあるとのことで割りと重い。自分の体格も前世と違って一回り小さく、筋力もあまりないせいか余計に負担を感じる。
「わー、とってもお似合いですよ、シオン様……」
「そ、そうか……?」
リュートに加え、鍔の広い羽帽子に派手な色合いのケープと地味なマント……。それまで実感がなかったものの、店内の鏡で確認したらそこそこ立派な【吟遊詩人】が映っていて感動した。
「それじゃ、モンスターを倒しにいこうか、エリュ」
「ですね。シオン様なら大丈夫かと思われます……」
「ん、エリュ、なんか顔が赤いぞ。風邪か?」
「い、いえ、そうではないですよ? シオン様の晴れ姿を見て興奮してるだけだと思います……」
「……」
エリュネシアが手でパタパタと扇ぎ始めた。晴れ姿、か……。彼女はずっとシオンに仕えてきた身なんだろうし、今の自分の姿に対してきっと感慨深いものがあるんだろう。
「それじゃ、早速レベル上げに行くとするか」
「はいっ!」
そういうわけで、俺とエリュネシアは弱いモンスターが出るというフィールドへ向かって歩き始めたんだが、そこで妙な気配を感じた。
「……」
これは……間違いない。何者かが俺たちのあとを追ってきている。
「シオン様、どうかなされましたか?」
「いや、なんでもない――」
「――あ、催されたんですね! わたくしめは目を瞑っているので、どうぞその辺でなさってください!」
「あ、あぁ……」
全然違うんだが、このほうが都合がいい。尾行してきている相手にこっちが気付いたと悟られぬよう、俺は壁に体を近付けて用を足す振りをしてみせた。
その際、こっそり周囲を窺ってみたんだが、誰もいないし気配もすっかり消えていた。
一体、何が目的だったんだろう。俺に対する領民の反応を見る限り、敵は多そうだし気を付けるに越したことはなさそうだな。それこそ、無能で知られる旧シオンを倒して新たな領主に成り代わろうとしてる輩もいるかもしれないわけで……。
「お、終わられましたか?」
「……」
「シオン様……? きゃっ!」
「あっ……」
俺のほうを向いたエリュネシアが、両手を顔に当てながら赤面していた。まあこういう体勢だし誤解するのも仕方ない。しかし、指と指の間隔が離れすぎだろ。あわよくば見ようとしてたな……。
それから、俺たちはやがて目当てのフィールドへと到着した。
「おお……」
フィールドはフィールドでも、あくまでも領地内にあるフィールドって聞いてたから、どうせ空き地みたいな狭い場所だろうとあんまり期待してなかったんだが、いい意味で裏切られることになった。
城壁の扉の向こう側は、壁の内側にあるとは思えないほど広々としていて、なおかつぴょんぴょんと飛び跳ねる青い小型の生き物も見ることができた。
「あ、あれはもしかしてスライムじゃないか……?」
早速情報開示してみる。
名前:ブルースライム
レベル:1
種族:スライム族
サイズ:小型
習得技:なし
やはり思った通りスライムだった。レベル1で技もないなら簡単に倒せそうだな。
「シオン様……まるで最初からスライムを知っていたかのような口振りでしたね。戦ったことはおろか、見たこともないはずですが……」
エリュネシアが不思議そうに目をしばたたかせている。
「ちょ、ちょっとな、以前町に出かけたとき、初心者っぽい冒険者と話す機会があって、スライムをいっぱい倒したって自慢話をされて、それで知ったんだ。つい最近のことだったせいか、覚えてたみたいだな……」
「なるほど……」
もちろん俺の作り話だ。ゲームで戦ったことはあるなんて口が裂けても言えないし。
「ところで、あのスライムたちは一体どうやって発生してるんだ?」
「自然発生ですよ。モンスターが出現する領域は大体決まっていて、そこを壁の内側に取り込む格好で作られたんです」
「なるほどな。これも領地開拓の一環みたいなもんか。向こうのほうの壁に扉があるが、あれは領地の外に通じてるのか?」
「いえ、外はまだずっと向こう側にありまして、同じフィールドでもここはスライムが発生するエリア、あそこはゴブリンが発生するエリア、という具合に分けられているんです。シオン様を育成するために、先代様が考案して作られたんですよ」
「そうか、思ったよりずっと広い領地を持ってたんだな……でも俺専用ってわけじゃなさそうだ」
このフィールドには、俺たち以外にも人がかなりいて、スライムとの交戦に夢中になっている様子だった。
「冒険者も、お金を払えばここに入れるようになっているんです」
「へえ……」
「シオン様はタダなのに、せめて見学だけでもしましょうといっても怖いと言って聞きませんでしたが……」
「も、もう昔の俺じゃないから……」
「つい最近のことだったような……?」
「ははっ……そんなことより、レベル上げするぞ!」
「あっ、待ってくださぁい!」
正直、今の俺はモンスターなんかよりエリュネシアの尋問のほうがよっぽど恐ろしかった……。
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