没落貴族に転生した俺、外れ職【吟遊詩人】が規格外のジョブだったので無双しながら領地開拓を目指す

名無し

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「このっ……!」

 俺はリュートを振り回してスライムを倒そうとしたものの、かわされるばかりで全然倒せそうになかった。

 このモンスター、見た目通り攻撃力はゼロに等しいらしいが、とにかくすばしっこいんだ。

「ヒールッ、ヒールゥッ……! はぁ、はぁ……」

「エリュ、もういいから」

「で、でも、シオン様がお疲れだと思って……はぁ、はぁ……」

「いや、エリュのほうがよっぽど疲れてるように見えるし」

「バ、バレてしまいましたか……」

「見たらすぐわかるって」

「うぅ……」

 エリュネシアもまだジョブレベル3だからな、仕方ない。

 俺はロゼリアと戦ったばかりなこともあり、確かに疲労が溜まっているんだが、それだけが原因じゃなかった。

 スライムが予想よりずっと俊敏だったというのと、このリュートが思ったより扱い辛いっていうのが大きかったんだ。

「でも、驚きです……」

「驚き? 俺が案外しょぼかったのが?」

「いえ、逆です。明らかにお疲れなせいで動きが悪くなっているのに、自分のことよりわたくしめの心配をなさるなんて……ご立派すぎて驚いているのですよ?」

「あはは……当たり前のことをやっただけなんだけどな」

「本当に、素晴らしい心がけですが……不安にもなりますね」

「不安?」

「はい。シオン様が私の元から離れていってしまうのではないかと。いくら記憶が欠けたとか心を入れ替えたとか仰られても、前のシオン様とは違い過ぎます。不自然です……」

「……」

 これはまずい。明らかに違和感を持たれてしまってるみたいだな。旧シオンの真似をさせてもらうか。あいつが言いそうなことといえば……。

「だ、大丈夫だよ、……」

「シ、シオン様……やっぱり、わたくしめがよく知っているあのシオン様なのですね……」

「あ、うん。たまには童心に帰ろうと思って。それで、下着の色は……?」

「はぁい、かしこまりましたっ」

 笑顔で下着を見せつけてくるエリュネシア。もちろん、その瞬間俺は目を瞑ったが。

「やっぱり、いつもの独占欲の強いドスケベなシオン様だったので安心しました……!」

「は、ははっ……」

 疑いは晴れたようだ。さ、気を取り直して打倒スライムといくか。

 といっても、リュートでスライムを仕留めるには相当な時間がかかりそうだしなあ。

 しばらく続ければまぐれ当たりは出るかもしれないが、それじゃ長続きはしないし厳しい。思えばゲームでもそうだった。レベル上げってのは効率が必要なんだ。何かほかに良い手段はないだろうか……。

「……」

 というか、俺のジョブは【吟遊詩人】なんだよな。本来なら、ジョブ特有の攻撃方法、すなわち技のようなものがあるはずなんだ。

 そういえば、ステータスに習得技の欄があったっけ。どうすれば技を覚えられるんだろう?

《まず覚えたい音を耳にしたあと、思い返すとともに心に刻みたいと念じることで習得となります》

「え……?」

「シオン様?」

「エ、エリュ……今、俺の脳内で声がしたんだが……」

「あ、もしかしてシオン様、ジョブについて心の中で質問とかされました?」

「あぁ、どうすれば技を覚えられるのかなって」

「それなら、心の声ですよ!」

「心の声?」

「はい。ジョブを貰うと、それについて知りたいことがあれば、念じることによって教えてもらえます。己の深層部分にあるといわれている心の声で、もう一人の自分に質問してる感じになるみたいです」

「なるほど……」

 心の声か。便利な機能だな。これなら自分のジョブについていちいち迷わなくても済みそうだ。

 早速質問してみよう。覚えるなら、どんな音でもいいってことか?

《どんな種類の音でも大丈夫です》

 まもなく答えが返ってきた。しかし、どんな音でもいいと言われると迷ってしまうな。なんにしようか……。

「あっ……!」

 そのとき、ビュウウと強めの風が吹き、エリュネシアのエプロンドレスが大きく捲れて下着が見えた。

「もー……シオン様みたいなエッチな風ですね」

「その手があった……」

「え?」

 俺は驚いた顔のエリュネシアを尻目に、さっき吹いた風の音を思い出し、心に刻んでやった。

《風の音を習得しました》

 おお……ただ幻聴の可能性もあるので、本当に覚えられたかどうか念のためにステータスで確認してみよう。

 名前:シオン=ギルバート
 性別:男
 年齢:15
 職業:吟遊詩人
 ジョブレベル:1
 習得技:風の音

 よしよし、ちゃんと習得できてる。

 しかし風の音ってどんな効果なんだろう?

《風の音の情報を提示します》

 名称:風の音
 習得可能レベル:1
 効果:俊敏・小
 副作用:体力の消耗・微小
 調和:可能

 俺の脳内に、風の音に関する様々な情報が表示された。

 中には意味のわからない項目もあるな。調和について、どういう意味か質問してみる。

《この音をほかの調和可能な音と合成させることができます》

 なるほど、音同士を組み合わせて別の音を作り出すこともできるのか……。

 これを使うと体力の消耗速度も通常よりほんの少し上がるようだが、使い方さえ気を付ければかなり有用そうだな。

 よーし、それじゃ試しに使ってみよう……って、どうやるんだろう?

《風の音をイメージして、演奏してみてください》

 こうかな? 俺は風の音を想像しながら、リュートの弦を爪弾いてみた。

 お……おおぉっ、途端に体が軽くなるのがわかる。これならスライムを倒すのも楽になりそうだな。

 あと、もう一つ知りたいんだが、音の持続時間は?

《楽器を手放すか、演奏者が音を消したいと思うまでは持続します》

 なるほどな、音は音でも、技なだけあって普通の音じゃないわけだ。持続時間が無限っていうのは地味に凄いな……。
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