没落貴族に転生した俺、外れ職【吟遊詩人】が規格外のジョブだったので無双しながら領地開拓を目指す

名無し

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非現実的

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『お、いいところに来た。カタブツ、お前、剣道七段なんだってな?』

『え、そうですけど……』

『で、それがなんになるというんだ? そもそも現代の剣道など、子供のお遊びにすぎんと聞いたぞ。まったく実戦向きじゃないらしいしな』

『……』

『ん、なんだ、カタブツ。その目は? もしかして不満でもあるのか?』

『いえ、別に……』

『そんなに不満なら、お前のご自慢の剣道で私をやっつけてみるかね?』

『……』

『ふん。とにかく、ここでは私が偉い立場なのだ。それを忘れるな!』

『はい』

『声が小さいぞ!』

『はい――!』

「――あ……!」

 目覚めると、そこは屋敷の中――異世界――だった。

 心底夢でほっとした。いつもの糞上司がいないというだけで楽園といっていい。

 さて、気を取り直してレベル上げに行くか。なんせ、今日を含めて残り三日でルチアードにいいところを見せないといけないからな。なるべく上げられるだけレベルを上げておきたい。

「おーい、エリュ?」

「くー……」

「はあ……」

 メイドのエリュネシアはどうしたのかと思ったら、まだ寝ていた。しょうがないなあ。

 昨日、彼女はジョブレベルを4まで上げたから、きっと相当に疲れてるんだろう。俺はいつでも上げられるってこともあってほとんど狩りはしなかったから3で止まってるが。

「……」

 それからしばらく待ったが全然起きる気配がない。そろそろ起こすか……。

「エリュ、起きろ」

「むにゃ……」

「いい加減に起きろって」

「うにゅ……」

 起こそうとしたが、肩を揺さぶっても頬を軽くビンタしてもダメだ。起きる気配がまったくない。こうなったら旧シオンの真似をしてみるか。

「ぼ……僕だけのエリュたん、起きてよ……」

 若干ためらいはあったが、エリュネシアの耳元で囁いてみる。

 しかし、現実世界で散々カタブツ呼ばわりされてきた自分が、まさかこんな台詞を吐くなんて思わなかった。

 でも、旧シオンの真似をすると悪いことばかりじゃなくて不思議と心が安らぐような気もする。評判の悪かった彼からも学ぶことはあるのかもしれない。

「あなたは一体、誰なのです……?」

「え……」

 俺は彼女の発した寝言を耳にしてドキッとした。

 まさか、実はバレてしまっているのか? 中の人が違うということに……。

「シオン様は、絶対にお渡ししませんっ」

「……」

 なんだ、俺のことじゃないのか……。

「言っても聞かない人ですね。シオン様は、わたくしめがずっと世話をしてきたのですよ……?」

 どうやら夢の中で俺の争奪戦が行われている模様。

「クククッ、これでシオン様はわたくしだけのものです……」

「おいおい……」

 夢とはいえ、一体どんな結末になってるのやら。現実じゃなくてよかった。血の気が引く思いだ。

 それからまもなく、エリュネシアが起きてきたので何事もなかったように一緒に出掛けることに。どんな夢を見ていたのかはあえて聞かないことにした。レベル上げをする前に無駄に気力を消耗したくなかったんだ。

「――ぎゃあああぁぁっ!」

「「っ……!?」」

 ゴブリンエリアに向かう途中だった。けたたましい悲鳴が聞こえてきたんだ。

「あっちのほうからだ。行こう、エリュ!」

「はい!」

 俺たちは声がした方向へ走る途中、そこら中が血だらけなことに気付き、塀の横から様子を覗き込む。

「「なっ……」」

 するとそこには、現実なのかどうか疑うほどの地獄絵図が広がっていた。

「わははははははっ! 死ねええぇっ、皆死ねやあああぁぁっ!」

 逃げ惑う人々に対して、狂ったように笑いながら次々と弓矢を放つ男がいたのだ。

「な、なんて野郎だ……」

「ひ、酷い……」

 なんらためらいもなく領民を殺していく男にも驚いたが、それ以上に衝撃を受けたのはその弓矢の動きと連射性能だ。

 絶対に外れるような軌道であっても、放った矢が微妙に動いて最終的には心臓付近に命中し、一発で仕留める形になっているのだ。足元がフラついてて顔も赤いことから、相当に酔っ払っているのは明白なのに。

 また、ありえない速度で矢を放っているのがわかる。あれをいちいち剣で弾くのは至難の業だろう。

 一向に矢が減る気配もないし、よく見ると命中してからしばらくすると消えているのがわかる。これはどう考えてもスキルによるものだ。やつのステータスを開示してみよう。

 名前:アレン=レグナス
 性別:男
 年齢:24
 身分:C級冒険者
 職業:弓術士
 ジョブレベル:17
 習得技:コンセントレイション イーグルアイ エナジーアロー ムービングアロー レインアタック ラピッドブレイク

「……」

 これは……やはりとんでもなく危険な相手だ。覚えたスキルを駆使して全力で殺しにかかってきている。もし戦うなら、こっちも相当なリスクを背負わなければならないだろう。

「シオン様、相手が悪すぎるので、駐屯地へ行ってルチアードさんたちを呼びましょう! わたくしめが行ってきますので、シオン様は冒険者ギルドへ援護を要請――」

「――いや、俺はここで戦う」

「えぇっ!? いくらなんでも無茶ですよ……」

「呼びに行ってる間に被害が拡大してしまう。大丈夫だ、俺がなんとかする。エリュはみんなを呼びに行っててくれ……」

「シ、シオン様、ダメです……」

「エリュたん、頼むよ。僕は男になりたいんだ……」

「ですが……」

「エリュたん……」

「うぅ……わ、わかりました……。ですが、わたくしめが戻るまで、絶対に、絶対に無理だけはなさらないでください……!」

 エリュネシアが泣きながらダッシュしていくのを見届けたのち、俺はソードギターを握りしめた。こういうときに領民を命懸けで守るのが領主の勤めなはずだ……。
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