19 / 30
第十九話 出鱈目
しおりを挟む「あ、ミリーヌ、ねえ、どうだったの? 怪しい人は見つかった……?」
「うん」
アセンドラの都にある救助者ギルドにて、シェリアの部屋にお下げ髪の少女が入るなり、耳打ちしてみせた。
「――と、こういうわけなのよ……」
「元盗賊――!?」
「――しーっ! 声が大きいわよ、シェリア。誰かに聞かれちゃったらどうするのよ?」
「ご、ごめん……でも、びっくりした。まさか、ギルドメンバーの中にそんな人がいるなんて……」
「しかもね、その元盗賊のフォーゼって人、つい最近足を洗ったばかりの人らしいのよ」
「……ライルったら、なんでそんな怪しい人をここに入れたんだろう……?」
「どう考えても変だよねえ。冒険者ギルドなら宝箱を開錠する役が必要だし、性質上ある程度過去を許容するのはわかるけど、あたしたちの仕事ってあくまでも救助なのに……」
「ミリーヌ、そのフォーゼって人についてもっと深く掘り下げてみて。あなたのスキル【気配】があれば、余程のことがない限り誰にも気付かれないと思うから」
「うん……。ダンジョンで【気配】を大きくして囮役になったり、逆に小さくして現場調査するよりはずっと気楽だからあたしはいいけど、シェリア、ちょっと疲れが見えるから、たまには休んだほうがいいわよ?」
「ありがと、ミリーヌ。あなたも、頑張りすぎないようにしてね」
「はいはい」
ミリーヌが立ち去ったあと、考え込んだような表情でテーブルに頬杖をつくシェリア。
(ライルはギルド員を募集するときは身辺調査もしっかりしてるって言ってたのに、このフォーゼって人が簡単にギルドに入り込めるのもおかしいし、もし指輪事件の真犯人なら、どうして盗んだものを自分のものにせずにテッドに押し付けたんだろう? ま、まさか……)
はっとした顔になるシェリアだったが、すぐに首を横に振った。
(私ったら、なんてことを考えてるんだろ。ライルがテッドを罠に嵌めるなんて、そんな酷いことを指示するわけないよ。だって、私たち三人は幼馴染だもん……)
自分にそう言い聞かせるように心の中で呟くシェリア。しかし、その表情は晴れないままだった。
◆ ◆ ◆
「ひっく……ち、畜生、こんな姿で再会しちまうなんて……」
ダンジョンの入り口前、棺に入れられた女性の遺体を前に沈痛な表情を浮かべる人物。その隣には、厳めしい顔で合掌するローブ姿の男がおり、その胸元には手乗りのハートマーク――救助者ギルドのエンブレム――があった。
「アーメン……」
「なあ……あんた、救助者ギルドの遺言伝達係なんだろ? だったらいつまでも祈ってないで教えてくれ。シンシアは最期にどんなことを思いながら死んでいったんだ?」
「えーっと、まあそう慌てずに、あともう少しだけ待っててください。ん-と……この方はですなあ……」
遺言伝達係の男が、いかにも勿体ぶったようにゆっくりと語り出す。
「コホンッ……シンシアさんはだね、モンスターとの戦いで深く傷つき、逃げ惑いながらも、あなたのことをね、えー、心の底から大事に思いながら、そうやって死んでいきました。これはなんとも切ない……」
「はあ?」
「ん? 自分、何かおかしいことでも言いましたかね?」
「俺はシンシアとは最近知り合ったばかりなんだけど?」
「え、え? で、では、あなたはシンシアさんの家族ではなく、パーティーの方……?」
動揺した様子で声を上擦らせるローブ姿の男。
「うん、そうだよ。俺は一昨日、シンシアと初めて冒険者ギルドで出会って、一緒に狩りをしたんだ。宿で色々と語り合ったから結構打ち解けたけどな。シンシアの家族は遠いところにいるらしいから、それで家族が来たら俺が遺言を伝えてあげようって思ったんだけど……出鱈目すぎるな。何が遺言伝達係だ、インチキ野郎」
「い、いや、待て。インチキ野郎とは失礼な! そもそも、最近知り合ったばかりとはいえですね、結構打ち解け合ったというのが答えになっているではないですかっ! シンシアさんはあなたに片思いしていたのかもしれないし、恋心に時間は関係ないでしょーが!?」
「おい……一応言っておくがな、俺はこういう口調だが男じゃなく女だし、それはシンシアにも伝えてある」
「…………」
性別を明かした冒険者に対し、救助者ギルド員の顔が見る見る青ざめていく。
「しかも、シンシアには彼氏がいるそうだ。普通、大事に思うならそいつか家族だろーが!」
「……え、えっと、今日はどうにも調子が悪いようで……それではっ!」
「お、おいっ、逃げるな! 今回の件、ギルド協会に報告してやるから覚悟しとけ!」
21
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜
ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。
その一員であるケイド。
スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。
戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。
それでも彼はこのパーティでやって来ていた。
彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。
ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。
途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。
だが、彼自身が気付いていない能力があった。
ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。
その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。
自分は戦闘もできる。
もう荷物持ちだけではないのだと。
見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。
むしろもう自分を卑下する必要もない。
我慢しなくていいのだ。
ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。
※小説家になろう様でも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる