固有スキルが【空欄】の不遇ソーサラー、死後に発覚した最強スキル【転生】で生まれ変わった分だけ強くなる

名無し

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第四階 不遇ソーサラー、宗教に入る

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「クアゼル。私、ギルドに入ろうって思う」
「えっ……ソフィア?」

 宿から出て、さあこれからダンジョンだと意気込んでたときに寝耳に水だった。

 せっかくお互いに25レベルになってキャパシティが5になり、どんなスキル構成で臨むかとわくわくしてたのに。あくまで狩りの相方でしかない俺には止める権利なんてないんだろうけど。

「最初は断ったんだけどね」
「勧誘されてたのか……」
「うん。でも相方がいるからって断ったんだ。クアゼルと一緒にいるほうが楽しいし」
「ソフィア……それなら何故?」
「昨日、ジュナさんに迷惑かけちゃったから。またあんなことが起きたら嫌だし」
「で、でもあれは……」

 ジュナとかいうやつ、これを計算してやったとしか思えない。まるで当たり屋だ。

「うん、クアゼルの言いたいことわかるよ。私もこっちが一方的に悪いとは思えないし。でも、ギルドに入っていればああいうことも起きないって思うから」
「ソフィア……」

 パーティー同様、ギルド員同士だとああいう事故は起きないようになっている。『九尾の狐』は少数精鋭だと聞くが、事故は完全になくならなくても減るのは間違いないだろう。エンブレムをちゃんとつけていればの話だが。

「クアゼルも一緒に入ろう?」

 いきなり言われてもな。ただ、納得はいかないけど一応俺のスキルが原因なんだし入っておいたほうがいいかもしれない。

「じゃあ一緒に入ろうか」
「うん!」

 というわけで俺たちはギルド『九尾の狐』のアジトを目指し、城壁に囲まれた由緒正しい街をソフィアと並んで歩く。ダンジョンで一攫千金を目指す冒険者で今日も嫌というほど溢れかえっていた。

 熱気の中、発酵したパンの匂いに鼻腔がくすぐられる。一度働いたこともあるおしゃれで美味しいパン屋だ。あれは二年前だったか……パンを作るだけだろうから楽そうだと思って入ったのが間違いで、パン屋って結構きつい仕事なんだよな。ここでは人間関係でも痛い目に遭ってて、働いてたやつの一人がよく俺を小馬鹿にしてきたのを覚えている。

 当時はまだ17歳の少年だったかな。レビーノっていう名前で、冒険者も兼ねていて俺のことを弱虫おじさんだのカビパンだのとよくニヤニヤ笑いながら陰口を叩いてきた。知らないところできゃんきゃん吼えるならともかくわざと聞こえるように言うから鬱陶しいんだ。ダンジョンでの経歴がものをいう世界だからしょうがないのかもしれないが、思い出すとやっぱり腹が立つ。

 いつかはボスを倒して新聞に載ってみたいもんだ。ボスは十階層ごとに現れる。ソロで挑めるのは【二刀流】を持つアルフォードくらいで、パーティーで挑むのが常識らしいが最初のボスでも死人が出ないケースはほぼないという。

 ゆえにボスが出る時間帯を避ける者も多い。一匹でも倒すとマジックフォンから情報が発信されてどんなパーティーが倒したのか、みんなが知ることができるようになっている。当然倒した冒険者たちの名前もわかるので取材が来る。もっと有名になればテレビにも出られるし、あっという間に世界が広がり他人の見る目も変わるってわけだ。

「――クアゼル、着いたよ」
「あ……」

 かなり強いギルドって聞いたからどんなところかと思ったが、意外にこぢんまりしていた。窓が小さくて中が見えにくい喫茶店みたいな感じだ。屋根にぶら下がった、九つの狐の尻尾が描かれた旗が微風で揺らめいている。

「よくわかったな、ソフィア」

 旗も一本しかない上に小さくて目立たないし、気付かずに通り過ぎようとしたほどだ。

「地図をよく見てたから。誘われたときに貰ったの」
「一度断ってるのに地図まで渡すとか、強引すぎるな」
「そうだね」

 やっぱりジュナは当たり屋だろうな。そんなのと同じギルドに入るのは癪だが、ソフィアと一緒だし我慢しよう。

「――では、そこでしばらくお待ちください。マスターを初め、幹部の方々が面接にいらっしゃいますので」

 マジックフォンを弄る受付嬢。たかだかギルドに入るってだけで面接までするのか。大仰なことだ。ソフィアと一緒に長椅子に座って辺りを見渡すと、ギルドは中もいたってシンプルだった。ダンジョン前にある冒険者登録所でさえ、隅に鉢植えとかあったけどここはそういうものも一切なくて、外見もそうだが徹底して目立たないようにしてあるのがわかる。なんか盗賊の隠れ家みたいだな。

 待ちきれずに眠りそうになっていたとき、ギルドの扉が開いて誰か入ってきた。例の幹部だろうか。受付嬢が深々とお辞儀している。

「そこにいる二名の方です」
「あ、ソフィアさんならエルミスが誘ったんです。もう1人のほうは全然知りませんが」

 ミトスをつけてないし服装も違うからわからなかったが、あの冷たい声は間違いない。当たり屋プリーストのジュナだ。なんでこっちが睨まれているのか正直わからない。

「ねーねー、もう1人の変なのってどんな子?」

 また誰かが入ってくる。これも見覚えがある。同じギルドで組んでいた3人パーティーの1人で、ソフィアと仲良さそうに話していたアーチャーの子だ。おそらくあいつがジュナの言う、ソフィアをギルドに勧誘したエルミスって子なんだろう。

「あー、あのお間抜けさんかー。微妙ー」

 随分な言われようじゃないか。

 最後に筋肉質の女の子が入ってきた。分厚い鎧じゃなくて軽装だからか盛り上がった筋肉が目立つ。あれが例の女ファイターで間違いないだろう。

「ねー、ローザ。あれも入るんだってー」
「あれもか……」

 ローザと呼ばれた女ファイターのやつ、エルミスに指差された俺に対して露骨に顔をしかめた。

 俺を変なの扱いした受付嬢といい、どいつもこいつも偉く感じ悪いんだな。まるで俺の固有スキルが【空欄】なのを知っているみたいだ。これだけ見下されてることに違和感がある。どこから漏れたのやら。

「「「あ、ギルドマスター!」」」

 女たちの声がぴったり重なる。声色がそれまでとは全然違っていた。甲高くて猫なで声に近い。ギルドに入ってきた一人の男に向けられたものだとわかる。頭に白い翼を模った髪飾りをつけてる、色白のプリーストだ。

「天使の髪飾りつけてる。廃人さんだ。凄い……」

 ソフィアが見惚れるのもわかる。あれも深い階層でボスを倒すことで稀に手に入るアイテムで、効果はないに等しいが、見た目だけでなく廃人の象徴として欲しがる層は多く、買いチャットで10000ジェムはするものだ。ってことはあれがギルマスなんだろうか? あの格好のままということは、ダンジョンから戻ってきたばかりなのかもしれない。

「僕のギルドに入りたいって子と面接させてもらうよ」

 なんともいえない勿体ぶった歩き方でこっちに来たかと思ったら、ソフィアに手を差し伸べた。

「ソフィアさんだね、話は聞いているよ。よろしく、僕は『九尾の狐』ギルドのマスター、ルーサだ……」
「は、初めましてっ、ルーサさん……」
「おっと、僕のことはマスターって呼んでくれ。馴れ馴れしいと思われて、君が嫉妬深いメンバーに怒られちゃうと困るから……」
「あ、ごめんなさい、マスター……」

 ソフィア、立ち上がって凄く感激している様子だった。高価な物を身に着けてはいるが、こんな化粧したオカマみたいなやつのどこがいいのかがわからない。

「メンバーから話は聞いた。【効果2倍】って凄いね。我が伝統あるギルド『九尾の狐』に相応しいよ……」
「ど、どうもですっ!」
「それじゃ、ソフィアさん。カウンターで手続きを済ませておいてね。用事があるので僕はこの辺で……」
「はい……」

 ルーサとかいうやつ、背を向けやがった。まるで俺が初めからここに存在してないかのような扱いじゃないか。ソフィアも舞い上がってるのかすっかり俺のことは忘れてしまってるらしい。

「ちょっと待ってくれ」
「……ん?」

 わざとなのか、俺の怒気を孕んだ声に対し3秒くらい遅延して振り返ってきた。

「俺もギルドに入りたい。ソフィアの相方でクアゼルというんだ」
「あ、そこに誰かいたの……。初めて気付いた……」

 なんだ、このやる気を微塵も感じない声は。絶対気付いていたはずだが、嫌がらせか。

「で、君の固有スキルは?」

 言葉が出なかった。やつの後ろにいるメンバーが口を押さえて笑っているのが見える。やはりバレてしまっているらしい。

「時間がないんだ。早く答えてほしい」
「【空欄】だ」
「え? 声が小さくてよく聞こえなかった。もう一回お願いするよ」

 やつが俺に耳を近付けると、噴き出すような笑い声が上がった。これは面接じゃない。ただの公開処刑だ。これ以上恥辱を浴びせるつもりなら俺はもう我慢することはできない。

「もう一度だけ言う。【空欄】だ」
「プ……プププッ! し、失礼。まあ、そんなに怒らないで。認めてあげるよ。ほら、仲直りの握手っ……」

 俺はやつの手を握りたくなかった。手が汚れるんじゃない。魂が穢れるような気がして。それが気に入らなかったのか、後ろにいる3人が近寄ってきた。

「そこのゴミクズ、早く握手しなさい。マスターに失礼だと思わないんですか」
「そうよそうよ。マスターがあんたなんかと握手してあげるって言ってるのに、それを拒否するわけ?」
「早くしろ、愚図」

 なんだこのギルド。この状況がおかしいとは思わないのか。失礼なのはどう考えても幼稚な嫌がらせをしているルーサだろうに。このギルドはまるで胡散臭い宗教みたいだ。

「クアゼル、早く……」
「ソフィア……」

 ソフィアまでこの男と握手をしろと言うのか。さすがは教祖だ。洗脳が上手い。ここは歯を食いしばって、握り潰すくらいの気合でやるしか……。

「――おっと」

 教祖に寸前で手を引かれて笑い声が上がる中、俺は心底ほっとしていた。こんなやつと握手をするくらいなら笑われたほうが何百万倍もマシだからだ。
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