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1.用済み

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「はぁ、はぁ……」

「「「「……」」」」

 そろそろ地面を掘り続けることに疲れてきたけど、仲間たちの僕を見る目が怖くてゆっくり休めそうにない……。

「ちょ、ちょっとだけ休んでもいいかなあ、なんて――」

「――はあ? ダメに決まってるだろ。早く掘れよ、ゴミセイン」

「うむ、宝石が出るまで掘り続けるのだよ、役立たずの奴隷めが……」

「聞こえないのぉ? さっさと掘ってよねぇー、このモグラ野郎っ!」

「グルル……」

「わ、わかってるよ……」

 大きな頬傷が目立つビスケス、長身かつ痩躯のエギル、露出した肩のタトゥーが特徴の短髪の少女ステファー、それに立派なたてがみを持つ魔狼グルドに威圧される。

 彼らに加え、あまり特徴のない僕で構成された自分たちのパーティーは、宝石をゲットするべく都からほど近い鉱山に来ていて、そこに着いてからずっと休みなく僕が土を掘り起こしてるっていう状況だった。

 今まで散々、彼らに無能だのゴミスキルだの言われてきた僕のスキル【スコップ】が唯一輝ける場所といってよかった。

 その効果は、使用すると周囲を50センチほど掘ることができるというもので、念じるだけでよくて道具もいらないので便利だけど、結構精神力を使うし疲れるんだけどなあ……。

「――ふう……」

 大分掘ったので一旦休憩する。少しは休まないと本当に死にそうだしね。普通に掘ったら半日程度かかるところを、このスキルなら一時間ほどでやれるんだからちょっとくらい休んでもいいじゃないか。

「ゴミセイン、休むなっての!」

「う、うわっ!?」

 後ろからビスケスの怒声とともにお尻を蹴られて、掘った穴に転落したもんだから笑い声が上がった。ち、畜生……。

「ん? セイン、何睨んでるんだ? 何か文句があるのか!?」

「い、いや……なんでもない……」

 悔しいけど、仕方がない。力がない者は強者には逆らえない。項垂れる僕の様子を見て、これがまたツボだったらしくて失笑が上がる。

 自分たちは幼馴染の間柄で、スキルを授与される2年ほど前までは良好な関係だったんだけど、そこで僕がゴミスキルをゲットしちゃったもんだから流れが変わった。今じゃすっかり舐められてしまって奴隷的な扱いをされてるんだ。

 一方で彼らは、リーダーのビスケスが【頑強】、エギルが【剣術】、ステファーが【テイム】といった具合にいずれも当たりスキルの持ち主で、使い魔の魔狼グルドまで従わせてるもんだから、パーティーから抜け出したくてもすぐ捕まるので諦めてるんだ……。

「――あっ……!」

 それからほどなくして、異変があった。何か強力なモンスターや盗賊が現れたわけじゃなくて、【スコップ】をやり始めたところで光り輝くものが見えたんだ。夢中で掘っていくと、信じられないほど大きな宝石が出てきた。今までで一番の大物じゃないかな、これ……。

「おー、やったな!」

「す、素晴らしい。この大きさ、輝きを見よ……」

「これは最高の宝石ねえっ!」

「オオンッ!」

「……」

 ビスケスたちが興奮した様子で次々とこっちへ降りて来るのもうなずける。使い魔のグルドは除外するとして、これを宝石商に売って僕たち四人で山分けしても一人金貨10枚分くらいにはなりそうだ。散々ハズレスキルだってバカにされてきたけど、挫けずに頑張ってきた甲斐があった……。

「よっしゃあ、俺とエギルとステファーで山分けするぜ!」

「うむ、しばらくは遊んで暮らせそうだ」

「そうだねっ。グルドにもたっぷり美味しい食べ物買ってあげるねぇ」

「ハッ、ハッ……!」

「うんうん……って、ぼ、僕の分は……?」

 僕がそう声を発した直後だった。急に静まり返ったかと思うと、ビスケスたちが一斉に睨みつけてきた。

「はあ? ゴミセイン、お前の分なんてあるわけないだろ」

「奴隷風情が、身の程をわきまえたまえ……」

「ほんっと、こいつ勘違いしすぎじゃないのぉ? なんで無能のモグラ野郎に金を渡さなきゃいけないかなぁ? 一人じゃなーんにもできないくせにぃ……」

「グルル……」

「そ、そんな……。山分けとまでは言わないから、ほんの少しだけでもお願いできないかな……? だって、曲がりなりにもこうして役に立ったじゃないか……」

「「「「……」」」」

 ま、まずい。みんなの目がギラギラ輝いてる。でも、僕は間違ったことなんて言ってないよね……?

「よーし、みんな、こいつに自分の立場ってもんをわからせてやろうぜ」

「うむ、賛成だ」

「やっちゃいましょぉっ!」

「ガルルッ!」

「ご、ごめん。もう逆らわないから許して――」

「「「――死ねっ!」」」

「グルルァッ!」

「ぐはぁっ!? うごおっ……!」

 穴の中で僕はみんなからボコられていた。い、痛い。本気だ……これは本気で僕を殺しにきてる。素手ではあるけど、一切の遠慮を感じないんだ。

 自分の血が周囲に飛び散るのがわかる。嫌だ、まだ死にたくない……。僕はなんとか生き残りたくて、頭を両腕でガードするようにしてうずくまるけど、それでも全身を引き裂かれるような痛みが続いた。

「――はぁ、はぁ……つ、疲れたな……」

「う、うむ……」

「ホ、ホント……。意外としぶといよぉ、このモグラ野郎っ。グルドもこんなの相手して疲れちゃったよねぇ。ごめんねえぇ……」

「クゥーン……」

「……」

 みんな、息が荒いし疲れたのか攻撃してこなくなった。助かったのか……? でも、僕は全身の感覚が麻痺しちゃったみたいで、ろくに体を動かすことさえもできない。

「それでもさ、ゴミセインはこの様子じゃ当分動けないだろ。用済みだし生き埋めにしようぜ」

「うむ、それはいい」

「いいねえっ」

「ワオンッ!」

「うぅ……」

 ビスケスたちの無情な言葉に打ちのめされる。畜生……僕はここで……こんなところで生き埋めにされてしまうっていうのか……?
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