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5.目標設定
しおりを挟む「――で、出たあっ……」
ヤカンの水を注いだコップに、関連掘りを30回ほど試したときだった。コップの中の水が、湯気の立つ黒い液体に変わったんだ。こ、これはなんだろう? 漂ってくる香りはいかにもアレだ。試しに恐る恐る飲んでみる。
「あつっ……! ペッペッ……こ、これは……」
やっぱりコーヒーの味がしたんだけど、熱い上に恐ろしく不味い。これで美味しいならカフェでも開けそうなんだけどねえ。こんなんじゃ、いくら増やしたところで商売にはならない……って、そうだ……。あの方法があったじゃないか。
クオリティ掘りっていう、種類は同じでも質が向上したものを掘るっていうやり方。よーし、早速試してみるか……。
「はあ……」
そういうわけで早速挑戦してるわけなんだけど、しばらくして僕は溜め息とともに掘るのを一旦やめることになってしまった。
とにかく掘れないんだ。もう二百回はやってるんだけどね……。ランダム掘りや関連掘りと比べると、相当に確率が低いのがわかる。ただ、確率が低いのはわかっていたことだし、もうちょっとだけ頑張ってみよう……。
「――あっ……!」
それでも諦めずに掘り下げていると、コップの中の闇色は変わらなかったけど、漂ってくる香りが全然違ってて、濃厚だけどどことなく上品でいかにも美味しそうだった。
「っ!?」
味わってみて、まさにコーヒー専門店の味だったので驚いた。このマイルドな苦みと深いコクは、喉元を過ぎても舌に絡みついているほどで、追いかけるように何度でも味わいたくなる……って、待てよ? クオリティの高いものを掘り出したなら、今度は関連掘りでいいんじゃないか?
ってことでやってみたら、似たような味の上質なコーヒーが次々と出てきた。凄い、凄いぞ、この調子なら本当にカフェを開けそうだ――
「――あらぁ、いい匂いですねぇ……」
「あ……」
司祭様がニコニコとした顔で小屋から出てきた。
「セインさん、もしかして、例のスキルでコーヒーを発掘なさったんですかあ?」
「そうです。このコーヒーを増やしてカフェでも開こうかと……」
「なるほどぉ……ズズッ……まあっ、とっても美味しいですうぅ……」
「ど、どうもっ」
嬉しいなあ。僕が一から作ったってわけじゃないけどね。ただ、一応何もないところから作り出してるわけで、似たようなものなのかも。
「でもぉ……カフェを開くのはちょっと厳しいかもです……」
「え、えぇ……?」
司祭様から思わぬダメ出しを食らってしまった……。ってことはあれかな、美味しいけどカフェにしては物足りない味で、もうちょっとクオリティを高めるべきって言いたいんだろうか……?
「ちょっとこっちへ来てくださいな、セインさん」
「え……?」
「早く」
「は、はい……」
司祭様、いつもと違ってなんか様子がおかしい。僕がカフェを開こうとすることに対して、見通しが甘いからって怒ってるのかな……? あんまり近付くと、彼女の大きな胸や手に持った斧が目前に迫るから色々と毒になりそうなんだけど……。
「サービスですよお」
「サ、サ、サービス……?」
「そうです。わたくしは、サービス精神が必要になると言いたかったのです……。コーヒーの質に関しては問題ないのですが……こんな辺鄙なところにカフェを開くなら、相当なサービス精神がないとダメだと思いますよお」
「な、なるほど……」
「ようやく理解してもらえたようですねえ」
「は、はい……」
僕はやっと理解できた。なるほどね、いくら美味しいコーヒーを掘り出しても、椅子やテーブル、人員等を用意するのは当然として、看板娘とかあるいは見世物とか……何か客に喜んでもらえる要素がほかにもないと、辺鄙な場所だし厳しいかも。
うん、どう考えてみても足りないものばっかりだね。でも、掘り出したものじゃないと関連掘りはできないし、そういうのが出て来るまでランダム掘りを地道に根気よく続けるしかなさそうだ。
「それではぁ、相応の覚悟を持って頑張ってくださいねえ」
「はい!」
「あ、おはようのチューを忘れてましたあ――」
「――い、いえっ、結構です!」
「うふふっ……セインさんって照れ屋さんなんですねえ。それじゃ、わたくしは薪を取りに山へ行ってきますねえ」
「行ってらっしゃい!」
まったく……あの人といるといつ理性が飛ぶかわかったもんじゃないね。というか、色んな意味で完璧すぎる人なのに、なんで教会から追放されたのかわかった気がする。ある意味、神様より崇められてそうだしね。それでも彼女のおかげで元気が出てきたし、カフェのオープンを目指してとことんやってやろうと思う。
「やるぞおおおおおぉぉぉっ!」
あれ? 僕ってこんなキャラだったっけ? 思ったより大きな声が出たので自分にびっくりしつつ、僕はランダム掘りを始めるのだった……。
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