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9.炎
しおりを挟む「「おぉっ……!」」
僕とアリシアの弾んだ声が絡み合う。
人間椅子から掘り出した、上質な椅子やテーブルに対する関連掘りによって、その下に敷く絨毯やら床やら、さらには柱や屋根や設計図等、本当に感心するほど様々な物が出てきて、それらを組み立てる頃にはもう立派なカフェが出来上がっていた。
失礼な言い方かもしれないけど、司祭様のおんぼろ小屋とはあまりにも対照的な、都でも有数の高級カフェがある感じなんだ。
それらが並んでる格好だからかなり違和感はあるけど、その分目立ってるしこれでいいんじゃないかな。あとは都の冒険者ギルドとかで宣伝してオープンを待つだけだ。
「ついに、あたしたちのカフェが完成したのね……!」
「うん。アリシアが協力してくれたおかげだよ」
「そんなの当然でしょ……って! なんで手なんて握ってきてるのよ! キモッ!」
アリシアはそう言いつつ、僕の手を払いのけないのがいい。個人的に、なんだかいい雰囲気になってきたと思うし、ここは勇気を出して男になっちゃおうかな――
「――セインさんっ、アリシアさんっ」
「「はっ……」」
振り返ると、司祭様がすぐ背後に立っていた。一体いつの間に? 満面の笑みを浮かべながら斧を構えてるしめっちゃ怖いんだけど……。
「ただいま戻りましたぁ。お二人とも仲がよろしいですねぇ……正直、妬いちゃいますよお。斧で両断したくなるほどっ……」
「りょ、両断って……」
「うふふっ、両断なだけに半分くらい冗談ですよお……。それにしてもぉ、素敵なカフェが出来上がりましたねえ……」
そうだ、三人が眠れる程度のスペースはあるし、今日から司祭様も含めてここで暮らすのも悪くないかもね。
「司祭様も、あんなボロ……い、いや、古い小屋のほうじゃなくて、こっちで暮らすのはどうですかね?」
「ん……愛着があるので遠慮しておきますねえ。それにわたくし、完全なものよりも、こうした壊れかかったような……そんな危うい感じが好きなのですよぉ……」
「な、なるほど……」
ってことは、僕を助けたのも死にかけてたからなのかって思ったけど……その考えの延長線上が凄く嫌な感じだったので、僕はそれ以上考えるのをやめた。
「ふふっ……では、いつものように、お風呂とお食事の準備をしてきますねえ」
「あ、それじゃ僕たちも手伝おうか、アリシア」
「ちょっと、セイン! あたしは休憩したいんだけど!?」
そういうわけで、僕はアリシアの手を強引に引っ張って司祭様のサポートをすることに。カフェに関しては、看板とかカウンターとか、まだ細部が出来上がってないけど、別に急ぐ必要もないしね。明日以降にまた頑張るとしよう……。
◇◇◇
「「「はあぁ……」」」
「クゥーン……」
都から少し離れた鉱山から、溜め息をつきつつ渋い表情で下山する者たちがいた。
「ゴミセインのやつ、やっぱりあのあと脱出したっぽいけど……穴が途絶えてるし、モンスターに食われたんだろうな。マジ、使えないやつ……」
「うむ、その可能性のほうが高そうだ。やはり、所詮は奴隷。無能は最後まで無能であった……」
「ホントだよぉ。あー、モグラ野郎の間抜け面を思い出して腹が立つうぅぅ。折角助け出してやろうって思ってたのにぃっ……」
ビスケス、エギル、ステファーの顔に苛立ちの色がくっきりと浮かぶ中、まもなく使い魔のグルドが立ち止まり、毛を逆立てながらとある方向に向かって唸り声を上げ始めた。
「ガルルルルルッ……」
「グルドが何かを嗅ぎ取ったみたいだよっ。こっちの方向へ行きましょっ!」
「ま、まさか、ゴミセインのやつか!?」
「ならば面白いっ……!」
グルドを筆頭に目を輝かせて猛然と走り始めた彼らが、やがて一様に足を止めて注目したものは、古びた小屋の近くに立ついかにも真新しい建物であった。
「な、なんだよ、あれ……。ボロ小屋は見たことあるけどさ、あんなの前からあったっけ……?」
「いや、リーダー。あんなものは見たことがないし、おそらく最近になって建てられたものだろう……」
「とりあえず行ってみましょおっ!」
「オオンッ!」
ビスケスたちが建物のすぐ近くへと一斉に駆け寄り、窓から中を覗き込むと、そこには輝かしい椅子やテーブル等、高級品らしき物で溢れていた。
「多分、これ……オープン前のカフェかなんかだな」
「うむ、そのようだ。しかし、何故そんなものがこんな辺鄙なところにあるのだね……?」
「あれでしょ、金持ちの別荘みたいなものなんじゃないのぉ?」
「グルルァッ……」
彼らの面々に嫌らしい笑みが浮かび上がる。
「よーし、それなら誰もいないしありがたく貰ってくか」
「うーむ、相当な金になるぞ、これは……」
「いいねぇ」
「ハッ、ハッ……!」
中へ侵入したビスケスたちは、ありったけの物を外へ運び出すと、最後にステファーの命令によって魔狼グルドが口から火を噴き出し、建物は見る見る炎に包まれていった。
「へっ、成金の別荘かなんか知らないがいい気味だな。さー、とっととずらかろうぜ、エギル、ステファー、グルド」
「うむっ」
「そうだねぇっ……ん、グルド、何もたもたしてるの? 早くこっちへ来ないとお仕置きだよぉっ!?」
「クウゥン……」
ステファーが苛立った様子で呼びかけると、グルドはしきりに振り返って古い小屋のほうを気にしながらも、まもなく諦めたのか飼い主たちのほうへと戻っていくのであった。
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