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24.仕事人
しおりを挟む「ディルの旦那、どうかお達者で……!」
「ディル様、元気でねっ」
「どうか、ご無事でいてくださいましね。ディル様……」
「ディル様、あたしずっと待ってるのー」
「「「「うるるっ……」」」」
「……」
まるでみんな俺がこれから死んでしまうかのような悲しみ方だな……。まあそれだけ依存してきたからではあるんだろうが。
とにかく一旦みんなと離れなきゃいけない。というのも、今回の犯人は異常に用心深い性格らしくて、単独でいる者しか狙わないだけじゃなく、近くに誰かいるかどうかも念入りに調べてから犯行に及ぶってことで、俺が変装して単独で行くことにしたんだ。
最近売り出し中の【魔王の右手】だってバレたらそもそも寄ってこないだろうしな……ってなわけで、頭髪や顎鬚を染料で白くして、なおかつ腰を曲げながら杖をついて歩くというお年寄りスタイルで行くことにした。これなら相手も大いに油断することだろう。
「――ッ!?」
ラルフたちと別れてからしばらくして、刺すような視線を背中に感じた。
まさか、もう犯人が網に引っ掛かったのか? いくらなんでも早すぎるような……。振り返ろうかと思ったが、こっちの勘が鋭いことがわかると相手も警戒するだろうし俺はそのまま何もなかった振りをして歩くことにした。
てか、普通に犯人かもしれないがそうじゃない場合もあるんだよな。俺は【魔王の右手】なんて呼ばれてるくらいだから、手柄欲しさに誰かに狙われていても不思議じゃない。こういう格好をしててもそれなりに場数を踏んでるやつだとバレてる可能性だってあるし……。
いずれにしても只者じゃないと感じた俺は少し早歩きにならざるを得なかった。どこかで休憩する振りをして敵の正体を掴まなくては。
「あの店で買うパンはどれも美味しいよなあー」
「だねぇ」
「……」
前方からカップルらしき美男美女の二人組が、美味しそうにパンを食べながら仲睦まじげに歩いてくる。ったく、呑気なもんだ。
「「今だっ!」」
「はっ……!?」
二人組が急に駆け寄ってきたかと思うと頭にパン袋を被せてきた。おいおい、普通こんなの予測できない――
「――がっ……」
頭部に強い衝撃が加わるとともに意識が遠のくのがわかった……。
◆◆◆
「ねえねえ、マイザー! あの依頼を受けようよ!」
僧侶ミーヤが指差した依頼の貼り紙は、ギルドでも特に注目されている無差別連続誘拐事件を取り扱う内容であった。
「ミーヤ……君は勇者というジョブを根本から勘違いしてるよ」
「えぇっ? こういうときに人助けするのが勇者の仕事でしょ!?」
「もちろんそういう一面もあるけど、危険なことにいちいち首を突っ込んでたら命が幾つあっても足りないじゃないか。多くの人々を救うのが勇者の仕事だっていうなら、ああいう忌避されるようなアンタッチャブルな依頼はなるべく避けたほうがいいんだよ」
「もー、何達観しちゃってるのよ! 今はそんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!?」
「そうだぜ、マイザーの言ってることもわかるけどよお、俺もミーヤの言う通りだって思うぞ?」
「な、なんなんだよ、バイドンまで……」
「だってほら、あれ見ろってんだよ」
「……」
バイドンが呆れ顔で指差したのは、テーブルに突っ伏して寝ている召喚術師エルグマンであり、どれだけ体を揺さぶっても起きることはなかったため一人だけ取り残された格好だった。
「あの腑抜け野郎を入れてから、依頼もろくに達成できなくなった俺たちがなんて呼ばれてると思う?【勇者とお茶目な仲間たち】だぜ!? こんなことが許されるかよ! ディルがいたときよりひでえじゃねえか!」
「もう、バイドンったら声が大きいわよ!」
「バカ、あいつを起こすためでもあるんだよ! とにかくマイザー、このままじゃ俺たちは例の悪党の活躍の陰に埋もれるだけだ、違うか!?」
「例の悪党……?」
「「【魔王の右手】!」」
「あっ……またそれか……」
「またそれかって、マイザー、悔しくないの!? あんなしょうもない悪党でも、そんな異名がつくくらい活躍してるし人気急上昇って話よ! こっちだって勇ましい二つ名を頂いちゃいましょうよ!」
「そうそうだ! しかもよ、例の悪党は義賊面してるっていうから胸糞悪いってもんじゃねえぞ! ここで勇者が動かなかったら嘘だろうがよっ!?」
「……わ、わかったから、引き受けるからミーヤもバイドンもそんなに怖い顔で詰め寄らないでくれ……」
勇者マイザーが後ずさりしながら渋々といった様子で引き受けると、ミーヤとバイドンがにんまりとした顔を見合わせた。
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