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第十八話 黒々
しおりを挟むあくる日の早朝。まだ空も眠りから覚めないうちから、いよいよ俺は家族を含めてグラスデン家の一族総出で魔物狩りへと出かけることになった。
といっても、俺への視線が悉くギラついてることからもわかるように、王族の前でただ魔物を狩ることが目的なわけじゃない。
大仰に伝統行事だと謳っているが、俺を懲らしめるためのイベントでもあるのだ。もちろん、それを逆手にとって逆に痛い目に遭わせてやるつもりだが。
とはいえ、その自信が油断に繋がる可能性もあるってことで、念のために『レインボーグラス』で自身の死亡フラグを確認してみよう。
名前:ルード・グラスデン
性別:男
年齢:15
魔力レベル:2.7
スキル:【錬金術】
テクニック:『マテリアルチェンジ』『レインボーグラス』『ホーリーキャンドル』『クローキング』『マンホールポータル』『インヴィジブルブレイド』『スリーパー』『ランダムウォーター』『サードアイ』『トゥルーマウス』
死亡フラグ:『呪術に頼る』『実技演習《デモンストレーション》で失敗する』
「……」
やはりそうか。だが、伝統行事に参加すること自体が死亡フラグになってないのでなんの問題もない。王女の前でデモンストレーションを成功させればいいだけの話だ。
「「「「「――きゃあああぁっ!」」」」」
屋敷前の広い庭を歩き、門前で何台も並んだ馬車へと向かう途中のこと。複数の悲鳴が起きたのでその方向を見やると、父のヴォルドが胸を押さえながら苦し気に片膝を突いているところだった。
メイドたちが一斉にそれを支えようとしたが、ヴォルドは大丈夫だといわんばかりにそれを手で制止した。
そんな当主に対し、正妻のシアや側室のレーテ、家庭教師のヘラ、弟のクロードが心配そうに駆け寄って見守っている。ヴォルドのやつ、見た感じかなり体調が優れない感じだ。まさか、ここに来て急遽イベント中止なんてことにはならないよな……?
「あ、あなた、大丈夫ですこと……?」
「ヴォ、ヴォルド様……?」
「……これくらい、問題ない。いささか動悸が激しくなっただけだ」
ヴォルドは眼光をより一層鋭くし、顔をしかめながらも立ち上がって周りにそう言い放つ。
同行していた医者がその脈を測り、『寝不足気味なため、立ち眩みしただけでしょう』と説明してみせたことから特に問題はなさそうだ。さすが、魔力レベルが家族の中で一番高いだけあってしぶといな。
「きっと、アレのせいで心労が祟ったのですわね……」
「ええ、おそらくアレのせいでしょう……」
「アレのせいザマスねえ……」
「……」
シア、レーテ、ヘラの言うアレとは間違いなく俺のことだ。とうとうアレ扱いまでされてしまったか。まあ別にアレでもいいんだけどな。三馬鹿のやつらに名前で呼ばれることのほうが気分悪いし。
「父上。アレ……ププッ……いえ、兄上のことは気にするべきではありません。あのような小物、元より相手にする価値などありはしないのですから」
クロードのやつ、俺を相手にする価値はないだと? 頻繁に干渉してくるくせによく言う。
というか、黒々とした本性を隠さなくなったな。俺の【錬金術】スキルのテクニック『トゥルーマウス』で本音を語らせたし、今更隠しても無駄だと思ってるからかもしれないが。
「……そうだな。その通りだ。クロードの言うように、心配などいらんわ」
ヴォルドが苦し気に顔を歪めながらも言葉を続ける。
「もしルードめが反逆を企て、私の家族を危険な目に遭わせるようなら、この弱った体であっても一瞬で消し炭に変えてやるわ……」
……今更かもしれないが、信じられるだろうか? これが息子に対する父親の台詞である。周りでは当主のヴォルドが尊敬される人のような言われ方をしているが、実像はご覧の有様だ。原作のルードがグレるのもよくわかる。
そういえば、『賢者伝説』だとヴォルドは途中で心臓病で亡くなるんだったか。確か、悪役貴族となっていたルードが主人公に討たれた翌日のタイミングだったと思う。つまり、本編の序盤でルードとほぼ同時期に息絶えるわけだ。
そのため、『ルードがクソ親父を地獄に連れて行った』、『息子がヴォルドの野郎を道連れにした』、なんていう悪意と祝福が入り混じった言葉が一部のプレイヤーからは飛び交ったものだ。
現状、俺は闇落ちなんてしてないしヴォルドの思い通りには進んでないので、より心身へのダメージが積み重なって死期が原作よりも早まることは充分に考えられる。
そうなると、予想もつかないイレギュラーな事態が発生する可能性も出てくる。なので、ルードにとって厄介な父が死んだとしても油断はできない。
ん、アイラの様子がおかしい。彼らのほうをずっと睨んでいる。
「もう我慢なりません……。ルード様に向かって、よくもあのようなっ……!」
「おっと、やめるんだ、アイラ」
「しかし……!」
「俺を国賊にするつもりはないんだろう?」
「う……そ、そうでしたね。何か一つ、文句でも言い返してやろうと思った私が浅はかでした……」
「その気持ちだけでありがたいよ」
「はい……」
まさか、本来ならアイラに止められるはずのルードのほうが止める側になるとはな。変われば変わるもんだ。
馬車に乗ってからほどなくして、暗い空とともに薄らと見えてきたのは、その下にあるシルル山を含めた霊王山脈の稜線だ。それも、今まで俺が戦っていた下級の魔物だけが出るような場所じゃない。中級の魔物も出現することがある恐ろしい山なんだ。
元々は、魔物たちや霊魂が集う山として霊妙山という名がつけられていた。それが、いつしかシルル山という名前に変わったのは、今から十年ほど前からなんだとか。
シルルという名の女性があそこで修行していたところ、いつしか悪霊に取り憑かれて中級の魔物と化したことが始まりだともいわれている。
それ以前もシルルはとても勇敢なことでよく知られていた女性で、山麓にあるレムテス村に住まい、そこを襲撃する魔物たちから何度も村を守ってきたんだそうだ。
そんな彼女が皮肉にも魔物となって村を壊滅させてしまったというから、あまりにも悲劇的な結末を迎えたというわけだ。そういう衝撃的な経緯もあってシルル山と名付けられている。
ちなみに、下位の魔物と中位の魔物というのは、その差は人間でいうと魔力レベル2と5くらい違うといわれる。纏っているオーラが物凄いため、一目でその違いがわかるほど桁外れの強さを誇っているのだ。
中でも強力だといわれているのが、山の名前にもなっている中位の魔物【シルル】だ。しかし、それが出現する可能性は非常に稀であり、遭遇する可能性は著しく低いとされている。
なので、主に下位の魔物たちが頻繁に出現し、時々【シルルの思念】という下位の中では一番強い魔物が出現することでも知られている。【シルル】の完全な下位互換とはいえ、恐ろしく強いために遭遇したら逃げることを推奨されているような相手だ。
それから数時間かけて、ようやくシルル山の麓へと到着したときだ。馬車を下りた俺の横をクロードが通り過ぎていった。
「ここが無能の墓場だね」
「……」
その際にやつが残していった意味深すぎる台詞。やはり、最初から罠が仕組まれたイベントというわけだな。まあいい。来るなら来ればいい。望むところだ……。
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