陰湿悪役令嬢は黒猫の手も借りたい

石月六花

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2-3 陰湿悪役令嬢の決心

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 自室の奥にある、衣裳の置いてある部屋。

 魔術の修行旅行――と言ってしまうことにする――の準備の為に、ここへ足を踏み入れた私の心は重い。

「はぁ~……」

 何せ以前の服の趣味がアレである。
 どう考えても出発までに新しい服の手配は間に合わない。
 派手なドレスやワンピースを着続けるしかないと諦めて、少しでもまともなものを選ぼうと気合を入れたものの……目の前に並ぶ、観劇の衣裳のようなドレスやワンピースたちに心を打ち砕かれた。

 しかし、リリアナは何故か得意そうな顔をして奥から、裾が”ふんわり”どころか、転んでも大丈夫そうなくらいボリューム溢れたものや、袖にこれでもかとレースやひらひらのついた大変華やかなワンピースを何枚か持って戻ってきた。

「ご心配には及びません、お嬢様。実はですね、例えばこれ……」
 手にしていた中から、一枚のひらひらふわふわとしたワンピースを私に向ける。
 レモンイエローと少し明るめの色で、とにかくひらひらふわふわしている。

「ここを、こうして……」
 リリアナはブツブツと言いながら、手にしているリッパーで大胆に何箇所かの糸を切り始めた。

 何事かと思いながら見ていた私の目の前で、そのワンピースは、袖の形を変え、裾から除いていた何重にもなったレースが外れ、どこからか取り出した針と糸を器用に操るリリアナの手によっていつの間にかシンプルなデザインのワンピースに姿を変えた。

「まぁ……」

 絶句する私を余所に、さらに奥から何か引っ張り出してきた。そして、その手に持ってきたオフホワイトのボレロをそのワンピースに合わせると、満面の笑みで私に見せた。
「これを、こうして……完成です!」
「すごい! すごいわリリアナ!」

 本当に素晴らしかった。苦手だと思っていたひらひらとした華美な服が、一瞬でその姿をシックな雰囲気に変えたのだ。

「まだ仮縫いですが、早速……」
 くるり、と回れ右をさせられた私は、その場で先ほど着替えたワンピースを脱がされ、リリアナの仕立て直したセットに袖を通していた。
「リ、リリアナ?」
 そのままの勢いでストン、とドレッサーの前の椅子に腰掛けさせられる。
 目の前にはいつの間にか準備されていたヘアケア用品。

 最初の変身タイムで、派手な結い上げから緩めに巻かれていた髪は、さらに持ち前のストレートに戻され、小さな真珠で品良く作られたカチューシャで飾られた。
 

「完成です!!」
 仕立て直しに感動していた私はあれよあれよと言う間に、さっきまでとはまた違った雰囲気の令嬢に着せ替え終わっていた。

「あ、ありがとう、リリアナ」
「こちらこそです、コレットお嬢様! ありがとうございます!」

 彼女の手腕にお礼を言ったのは私の方なのに、満面の笑みでお礼を言われてしまう。

「いつでも仕立て直しできるようにした上で、さらに私の我儘に応えてくれていたのね」
「はい。この日がくるのを心待ちに……あ、もちろん全てではありませんけれどね。でもお直し自体はすぐにできます!」

 そう言いながらリリアナは、私の服装と髪型を、これまたあっという間に先ほどのものに戻した。


「出発までに数着揃えておきますね。あぁ、それから魔術の練習用に動きやすい……そうだちょうど良いものがあります! それにしてもお嬢様が魔術師団へ入ろうと思っていたなんて、吃驚しました。考えていたことってこれだったんですね!」
「え、えぇ」

 先刻のとっさの言い訳が良い方に解釈されていて助かった。

「これと、これと……あの、コレットお嬢様! また、ご試着とヘアセットをさせてくださいね!」

 興奮した様子のリリアナを見ていると、この後の試着は大変そうだが、これで修行旅行の心配が一つ解決となったので、良いことにした。
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