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第三章 魔法学園

私が知らないディルの胸の内

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(今回はディル視点のお話です。)


アロイス様からの連絡で迎賓館での信じられない事件の話を聞き、マリーが友達になったばかりのルルが被害者だと知って僕は急いで迎賓館を訪れた。

アロイス様に留守を頼まれていた以上少しでもマリーと関わることに気を配っておかなければいけなかったのに…

迎賓館でアンディーブ様やエドワード殿下と話をして外に出るとちょうどマリーとリーク殿下がやってきた。

駆け寄ってきたマリーはやはり気落ちした様子で美しい空色の瞳にも元気がない。

子猫のように無邪気にくるくると表情が変わるマリーが愛おしくて何とか励ましていたら
リークにジッと見られていることに気づいた。

まずいな…変に思われたかな。

急いでリークにも声をかけると何故か相談に乗ってほしいと言う。

エドワード殿下やアロイス様、アンディーブ様の方が頼りになりそうなのに何故僕に?

心の中で首をかしげながらも僕は急いでうなずいた。

リークが建物に入るのを見届けてマリーに目をやると寂しそうな顔をしている。

これはもしかして、リークに相談してもらえなかったと思ってしょんぼりしてるな。かわいいな。
浮かびそうになる笑みを押し込めてマリーの背中をポンポンっとたたく。

「同性の方が気兼ねなく相談しやすいこともあるだろうからあまり気にしないで。
マリーだってイライザやアイリーンにだけ相談してたことあるでしょう?」

ねっ。と笑いかけるとマリーの顔にジワジワ笑みが広がっていく。
本当に、感情が分かりやすい子だな。
貴族令嬢として生きていくにはあまり純粋で無防備だ。
アロイス様が自分やマリーは貴族として生きていくのは難しいと言っていた意味が分かる。礼儀作法や社交の問題ではなく(むしろそこは充分すぎる)二人にはドロドロとした貴族社会に身を置いてほしくない。
様々なしがらみに囚われた自分の父親のような人間が履いて捨てるほどいるそんな場所には…

「はぁ、やっぱりディルはすごいな~さすがヒロイン。」

?マリーが、たまに口にするヒロインとは何のことだろう。
聞いても笑って教えてくれないけど悪い意味ではないらしい。

「ディルは相変わらず忙しいの?今夜一緒に夕食食べれないかな?」

アロイス様が出かけてしばらくたつからマリーも寂しいのかもしれない。そうでなくともこんな風におずおずと見上げられて断れる人間なんているんだろうか。

「マリー以上に優先しなきゃいけないことなんて一つもないよ。」

にっこり微笑むとマリーは嬉しそうな顔をしつつポコっと僕の肩をたたく。

「ま、またディルは~アロイスに影響されてるんじゃないの?
はっ!!」

キョロキョロ辺りを見回すマリー。
本当に忙しい子だね~そこもかわいいんだけど。

「ディル。ちょっと離れて。また見られてディルを手玉にとってるとか言われたら…」

「あながち嘘とも言えないけど。」

「え?」

「だってマリーのお願いだったら僕はいくらでもマリーの手のひらで転がされるつもりだから。」

マリーは僕を見たまま顔を真っ赤にしてすごい勢いで後ずさった。
気持ち悪がられてるわけじゃないみたいだけど口をパクパクさせてうろたえているからちょっと困らせてしまったらしい。


「マリー、後ろ向きで歩いたら危ないよ。ほら。」

追いかけて手を差し伸べると恐る恐る腕につかまってくれるんだからやっぱりマリーは素直だな。

僕が恋人か婚約者を作ればおかしな噂を流されることもなくなるんだろうけど…

腕に置かれた小さな手。この手から驚くほど素早く的確な攻撃を繰り出せることはよく知ってるけど、それでも僕はこの子を守りたい。
かわいくて愛おしくて人はそれを恋と呼ぶのかもしれない。でも僕はアロイス様の代わりに自分が隣に立ちたいとは思わない。
アロイス様と並んで幸せそうにしているマリーが。いや、二人とも大好きでこの世の誰よりも幸せになって欲しいと思っている。

二人が無事に結婚して、そして貴族たちの手が及ばない場所に立つことができたら。その日がやってきたら僕はきっと安心してこの手を離し彼女たち以外の人に目を向けることができるだろう。

顔を赤らめてキョロキョロ辺りをうかがいながらもギュッと僕の腕につかまるかわいい義妹を温かく見つめながらその日があまり近くないといいな。とつい祈ってしまう。
 
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