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第1章 はじまりの村
第43話 大嘘つき
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アーロンが声を張り上げる。
俺から見ても何がなんだか分からない。
流石に水晶玉に自分のレベルを示す数字が浮かび上がるなんてことはないと思っていたがこんなことでレベルを判定できるのだろうか。
「なんですか、これ」
スイが俺の横から水晶玉を覗き込んでくる。
水晶玉は中で色水が混ざっているような、透き通る様々な色の光を放ち続けている。
「……この反応は初めてみるわ。パッとみるだけじゃどの程度のレベルか察することもできないわね」
「どういうことだ。アナライズできんのか?」
「大丈夫よ。理論的にはどんなレベルであっても最大誤差0.01レベル未満まで把握できる水晶だから。スキルを使ってじっくり見れば分かるはず……」
アーロンはそう言いながら水晶玉の横から両手をかざす。
「アナライズ」
そのスキル名を口にした瞬間、水晶玉の上に魔法陣が出現した。
アーロンはその魔法陣から水晶玉を覗き込むように、顔を魔法陣に近づける。
そしてそのままじっと水晶玉を見つめ始めた。
「ん、ん~……ん?」
アーロンの表情が目まぐるしく変わっていく。
俺は……というか、おそらく俺達はアーロンが何をしているのかさっぱり分からないのでただ黙ってアーロンを見守っていた。
「……なによ、これ」
と、アーロンがすっと顔をあげる。
その表情は無表情すぎてどういう結果が出たのか察することはできない。
そうでなくても自分のレベルを鑑定されているのだ。少し緊張する。
「あの、どうだったんですか?」
誰も声をあげない事に耐えかねたのか、スイがアーロンに話しかける。
しかしアーロンはスイのことなど目に入っていないかのように視線をそらさない。
と、数秒ほどそんな状況が続いた後、アーロンがゾンビの如くゆらりと体を揺らしながら俺に視線を移す。
「貴方っ! とんだ大嘘つきじゃないっ!」
「えっ、えっ?」
アーロンはうわずった声を出しながら俺の肩を一気につかんできた。
その興奮した様子及び巨体が放つプレッシャーに俺は動揺して何も言葉を返せない。
大嘘つき、という言葉から俺のレベルが200に全然届いていないことは察することができたが……
「落ち着けアーロン。いったい彼のレベルはいくつだったのだ」
アインベルが淡々とした低い声でそう言い放つ。
その言葉で若干冷静さを取り戻したのかアーロンはふぅ、とため息をつくと小さな声をあげた。
「……ゃく」
──小さすぎた。
何を言っているのか分からない。
「すいません、ちょっと聞こえなかったです」
それはスイも同じだったようだ。
スイの言葉にアーロンは顔をそらしながら返事をする。
「……んひゃ……よ!」
「はっきり喋らんか。お前らしくもない」
少しアインベルが苛立っているようだった。
正直俺も同じような気持ちだったのでアインベルに便乗しアーロンをじっと見つめる。
するとアーロンは一度深呼吸をすると覚悟を決めた表情を見せた。
すぅ、と息をはき大声を出す。
「2400! この子のレベルは2400よっ!!」
──なんですと?
流石に耳を疑った。
それは俺だけではないだろう。誰もそれに反応していない。
「……いや、アーロン。落ち着け」
と、アインベルが額に手を当てながらアーロンに話しかける。
それに対しアーロンがキッと睨み返す。
「落ち着いてるわっ! 何よこの子! こんなレベルが存在するなんて……こんなっ!」
「ちょっ、ちょっと。アーロンさん、アーロンさん」
頭を抱えてぐねぐねと体をよじるアーロン。
その腕をスイがつかんで、無理やりその動きをやめさせた。
──って、どんだけ怪力なんだよ……スイ……
「くっ……はぁ、はぁ……ご、ごめんなさい……あまりに驚きすぎて、私……」
机に両手をつきながらアーロンはそう答えた。
そんなアーロンにアイネは苦笑しながら声をかける。
「いや、さすがに見間違いっすよね? アーロンさん、もう一度アナライズしてみたらどうっすか?」
「そ、そうね……アナライズ……」
もう一度アーロンは水晶玉に手をかざし、出現した魔法陣からそれをのぞきこむ。
そして十秒ほど動きを止めたと思ったら、ふぅとため息をついて体を起こした。
「……だめ、2400よ。本当に2400……」
「うそ……」
アイネがひきつった笑顔で俺を見つめてくる。
──ひかれているようで、なんかきついなぁ。
「あの。それで……俺のレベルは結局それなんですか? 本当に?」
だが俺だってそんな数字は信じられなかった。
ゲームではカンストレベルは200だったのだ。
何がどうなったらそんな数字になるのやら。
「…………」
アーロンは何も答えない。少し表情が青ざめて見える。
「いや、なんだ……その、今日は疲れただろう。部屋に戻って休むといい。うん……」
その異様な緊張感の中、アインベルが口を開いた。
内心でアインベルに感謝する。
正直、今日は色々なことがありすぎた。
時間帯としてはまだ早いが何も考えず寝転がりたい気分である。
「そ、そうですね。私もなんか頭がくらくらしてきました……」
それは皆も同じだったのだろう。
スイはよろよろと歩きながらアーロンの部屋の扉の方向に歩いていく。
俺とすれ違う時におつかれさまです、と声をかけてくれたが無理して作ったとみえみえな笑顔が少し痛ましかった。
「じゃ、じゃあウチいったん……新入りさん、また後で……」
「あ、あぁ……」
スイに続いて皆がアーロンの部屋から出ていこうとする。
アーロンの方へと振り返るが、机に肘をついたままアーロンは動かない。
──こりゃあ、そっとしておいた方がよさそうだ。
そう考えて俺は皆の後を追うように部屋から出ていくのであった。
ここでの会話が、旅立ちの契機になる事なんて知らずに。
俺から見ても何がなんだか分からない。
流石に水晶玉に自分のレベルを示す数字が浮かび上がるなんてことはないと思っていたがこんなことでレベルを判定できるのだろうか。
「なんですか、これ」
スイが俺の横から水晶玉を覗き込んでくる。
水晶玉は中で色水が混ざっているような、透き通る様々な色の光を放ち続けている。
「……この反応は初めてみるわ。パッとみるだけじゃどの程度のレベルか察することもできないわね」
「どういうことだ。アナライズできんのか?」
「大丈夫よ。理論的にはどんなレベルであっても最大誤差0.01レベル未満まで把握できる水晶だから。スキルを使ってじっくり見れば分かるはず……」
アーロンはそう言いながら水晶玉の横から両手をかざす。
「アナライズ」
そのスキル名を口にした瞬間、水晶玉の上に魔法陣が出現した。
アーロンはその魔法陣から水晶玉を覗き込むように、顔を魔法陣に近づける。
そしてそのままじっと水晶玉を見つめ始めた。
「ん、ん~……ん?」
アーロンの表情が目まぐるしく変わっていく。
俺は……というか、おそらく俺達はアーロンが何をしているのかさっぱり分からないのでただ黙ってアーロンを見守っていた。
「……なによ、これ」
と、アーロンがすっと顔をあげる。
その表情は無表情すぎてどういう結果が出たのか察することはできない。
そうでなくても自分のレベルを鑑定されているのだ。少し緊張する。
「あの、どうだったんですか?」
誰も声をあげない事に耐えかねたのか、スイがアーロンに話しかける。
しかしアーロンはスイのことなど目に入っていないかのように視線をそらさない。
と、数秒ほどそんな状況が続いた後、アーロンがゾンビの如くゆらりと体を揺らしながら俺に視線を移す。
「貴方っ! とんだ大嘘つきじゃないっ!」
「えっ、えっ?」
アーロンはうわずった声を出しながら俺の肩を一気につかんできた。
その興奮した様子及び巨体が放つプレッシャーに俺は動揺して何も言葉を返せない。
大嘘つき、という言葉から俺のレベルが200に全然届いていないことは察することができたが……
「落ち着けアーロン。いったい彼のレベルはいくつだったのだ」
アインベルが淡々とした低い声でそう言い放つ。
その言葉で若干冷静さを取り戻したのかアーロンはふぅ、とため息をつくと小さな声をあげた。
「……ゃく」
──小さすぎた。
何を言っているのか分からない。
「すいません、ちょっと聞こえなかったです」
それはスイも同じだったようだ。
スイの言葉にアーロンは顔をそらしながら返事をする。
「……んひゃ……よ!」
「はっきり喋らんか。お前らしくもない」
少しアインベルが苛立っているようだった。
正直俺も同じような気持ちだったのでアインベルに便乗しアーロンをじっと見つめる。
するとアーロンは一度深呼吸をすると覚悟を決めた表情を見せた。
すぅ、と息をはき大声を出す。
「2400! この子のレベルは2400よっ!!」
──なんですと?
流石に耳を疑った。
それは俺だけではないだろう。誰もそれに反応していない。
「……いや、アーロン。落ち着け」
と、アインベルが額に手を当てながらアーロンに話しかける。
それに対しアーロンがキッと睨み返す。
「落ち着いてるわっ! 何よこの子! こんなレベルが存在するなんて……こんなっ!」
「ちょっ、ちょっと。アーロンさん、アーロンさん」
頭を抱えてぐねぐねと体をよじるアーロン。
その腕をスイがつかんで、無理やりその動きをやめさせた。
──って、どんだけ怪力なんだよ……スイ……
「くっ……はぁ、はぁ……ご、ごめんなさい……あまりに驚きすぎて、私……」
机に両手をつきながらアーロンはそう答えた。
そんなアーロンにアイネは苦笑しながら声をかける。
「いや、さすがに見間違いっすよね? アーロンさん、もう一度アナライズしてみたらどうっすか?」
「そ、そうね……アナライズ……」
もう一度アーロンは水晶玉に手をかざし、出現した魔法陣からそれをのぞきこむ。
そして十秒ほど動きを止めたと思ったら、ふぅとため息をついて体を起こした。
「……だめ、2400よ。本当に2400……」
「うそ……」
アイネがひきつった笑顔で俺を見つめてくる。
──ひかれているようで、なんかきついなぁ。
「あの。それで……俺のレベルは結局それなんですか? 本当に?」
だが俺だってそんな数字は信じられなかった。
ゲームではカンストレベルは200だったのだ。
何がどうなったらそんな数字になるのやら。
「…………」
アーロンは何も答えない。少し表情が青ざめて見える。
「いや、なんだ……その、今日は疲れただろう。部屋に戻って休むといい。うん……」
その異様な緊張感の中、アインベルが口を開いた。
内心でアインベルに感謝する。
正直、今日は色々なことがありすぎた。
時間帯としてはまだ早いが何も考えず寝転がりたい気分である。
「そ、そうですね。私もなんか頭がくらくらしてきました……」
それは皆も同じだったのだろう。
スイはよろよろと歩きながらアーロンの部屋の扉の方向に歩いていく。
俺とすれ違う時におつかれさまです、と声をかけてくれたが無理して作ったとみえみえな笑顔が少し痛ましかった。
「じゃ、じゃあウチいったん……新入りさん、また後で……」
「あ、あぁ……」
スイに続いて皆がアーロンの部屋から出ていこうとする。
アーロンの方へと振り返るが、机に肘をついたままアーロンは動かない。
──こりゃあ、そっとしておいた方がよさそうだ。
そう考えて俺は皆の後を追うように部屋から出ていくのであった。
ここでの会話が、旅立ちの契機になる事なんて知らずに。
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