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第2章 嫌われた英雄
79話 裏
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「いや、男が複数恋人作っても浮気だよな?」
「は? そりゃただのハーレムでしょ。浮気じゃないじゃん」
「……なんで? なんで男はオッケーで女はダメなの?」
「さぁ……? ダメというか、そもそも女の人はそういうことしないよ。よほどの病的な性依存症があるか娼婦でも無い限り恋人を複数作ることなんてしないって。父親が娘を恋人にするぐらい異常なことだと思うよ」
──なんてこの世界の女性は高潔なお方なんでしょう。
驚きを通り越して感心してしまった。
「いや、でもなんで男だけ……?」
「そりゃあ男の人がスケベだからじゃない?」
「……そうか」
返ってきたのは、まごうことなき真理の言葉だった。
ほっとしたような、腑に落ちないような、複雑な気持ちが俺の胸を支配する。
──そういえばアイネはスイと一緒でもいいと言っていたっけ。
ふざけて言っていると思っていたがトワの話しをきいていると一概にそうとは言い切れないようだ。
どうもこの世界の恋愛観は日本、というか地球とかけ離れているらしい。
「ねぇ、男の人ってやっぱそういうのが好きなの?」
ふと、トワが俺の顔の前に近づいてきたことで思考が断ち切られた。
ニヤニヤと何を考えているのか分からない笑みを浮かべている。
「はぁ……?」
「アイネちゃんに抱き着かれて、嬉しそうだったじゃん。ボクにもされたいと思う?」
トワが俺の鼻を指でつんつん、とつついてきた。
「いやっ、何言ってるんだよお前」
顔を後ろにそらして羽虫を払うようにトワを追い払う。
──まぁ、されたいか、されたくないか、と言われればされたいが。なんだかんだ、トワも美少女だし……
「アハハっ、そうなんだ? でもごめんね。ボクはこんな体だから無理だよ。もしボクが人間になれたら抱きしめてあげるね。どんな感じになるのかボクもちょっと興味あるし」
──あれ? 俺、声に出していた?
ニヤニヤと笑うトワの姿を見ていると物凄く負けた気分になってくる。
「……からかうなよ。もう寝るぞ」
この話しはここで切るべきだろう。俺はそう言いながら上半身を倒す。
「ごめんごめん、でも一個だけきかせてくれないかな」
だがトワはもう一度俺の顔の前に飛んでくる。
「……ん?」
追い払おうと思ったが、やめた。
トワの雰囲気が変わったように見えたからだ。
トワが言葉を続ける。
「ねぇ。リーダー君はこの世界で何をしたいの?」
「……は?」
「キミには力がある。その力をどう振うつもりなのかなって思って」
体の筋肉に一気に緊張が走る。金縛りにあったような気分だった。
トワがじーっと俺を見つめる。
あまりその表情には色が無くどのような意図でそれをきいているのか察することができない。
「……分からないよ。まだそこまで実感があるわけじゃないし」
とにかく正直に気持ちを吐露することにした。変に考えても答えられそうにない。
だが答えが曖昧すぎたせいだろう。トワが少し不満げに質問を続ける。
「ふーん。そんなもの? スイちゃんと戦った時に実感わかなかったの?」
「まぁ少しは。でも、具体的に力をどう振うとかそんなことは考えた事なかったよ。でも、そうだなぁ……」
スイの名前を言われてふと思い出した。
「少しズルした気分だけど、スイに恩返しができると思った時は嬉しかったよ。アイネを守ることもできたし、それは誇らしいな」
しかも、美少女二人に感謝されるなんて役得に過ぎるのではないだろうか。
レベル2400というのはチートくさいが全てのクラスのレベルをカンストさせたプレイ時間が報われた気がする。
──あのレベル上げはなかなか辛かったからなぁ……
少しだけ自分の努力が肯定された気持ちになる。
それが凄く幸せというか、誇らしげに感じてしまった。
まぁ、それでも褒められた生活とはいえないだろうが。
「……ねぇ、リーダー君って元の世界では弱い人間だったでしょう?」
「えっ……?」
ふと、トワがくすりと笑う。
その表情に、心臓をつかまれた感覚が走った。
彼女の言葉は図星をつく確率が高い。
「な、なんでそんな……」
「なんとなく分かるんだ。強い人間が強い力を持った時、そんな優しい顔をするはずないからね」
反射的に自分の頬に手をあてる。
トワが言うような表情を自分はしていただろうか。
特に意識していないだけに恥ずかしい。
と、気持ちが緩んだ直後──
「だって、人間は醜いから」
胸騒ぎというか、冷や汗をかいた時のような感覚で凍りつく。
──なんだ、この表情は……?
見た目は普通の表情なのだが、何かが違うように見える。
顔の筋肉は笑顔を彩ってはいるのだが、目が笑っていない。
「トワ……?」
「ふふっ、リーダー君には期待しているよ。初めてなんだ。こんなイレギュラーは」
と、その表情から冷たさが消える。
転々と変わるその雰囲気に恐怖に近い感情を覚えた。
「……どういうことだ?」
「分からないかな。弱き者、強き者、それは最初から決まっている。それが生物の理だ。それなのに弱い人間が強い力を手に入れるなんてイレギュラー以外のなにものでもないでしょう? だからキミならもしかして……」
トワはそこで言葉を一度切り、数秒程沈黙する。
そして苦笑いを作りながら言葉を続けてきた。
「まぁでも上手く説明できないなぁ。言ったでしょ、ボクはこの世界に顕現したばかりだって」
──顕現、か……
その台詞はどうもトワがはぐらかす時の常套句らしい。
少し気になって追及をしてみる。
「……でも、この世界の常識は知っているみたいじゃないか」
少なくとも男が複数恋人を作るのが当然に行われているということは知っているのだ。
彼女の言葉には矛盾があるように思えた。
「そりゃあ、顕現するまえに世界の記録を見てきたからね。直接見たわけじゃないけど、ある程度は知っているよ。この世界、のことはね」
「世界の記録ってなんだよ」
「ふふっ、妖精は生まれる前にこの世界のことを勉強してくるんだよ。そう思ってくれればいいかな」
どうもトワに詳しく答えるつもりはないらしい。
それらしき言葉を言ってはぐらかすことしかしてこなかった。
「……よくわからないな」
こうなってはいくら問い詰めても無駄だろう。
俺はため息をついて体の力を抜く。
「そう? ま、そろそろ寝ようか。長引かせてごめんね」
そんな俺を見てトワは少し申し訳なさそうに眉を八の字にまげた。
「気にするな。まぁまぁ楽しかったよ」
社交辞令のような感覚で言った言葉だがトワは安心したように小さく笑う。
「そっか。じゃあおやすみ、リーダー君」
「あぁ……」
コートが置いてある場所へと飛んでいくトワを見送った数分後。
俺の意識は眠りに落ちた。
「は? そりゃただのハーレムでしょ。浮気じゃないじゃん」
「……なんで? なんで男はオッケーで女はダメなの?」
「さぁ……? ダメというか、そもそも女の人はそういうことしないよ。よほどの病的な性依存症があるか娼婦でも無い限り恋人を複数作ることなんてしないって。父親が娘を恋人にするぐらい異常なことだと思うよ」
──なんてこの世界の女性は高潔なお方なんでしょう。
驚きを通り越して感心してしまった。
「いや、でもなんで男だけ……?」
「そりゃあ男の人がスケベだからじゃない?」
「……そうか」
返ってきたのは、まごうことなき真理の言葉だった。
ほっとしたような、腑に落ちないような、複雑な気持ちが俺の胸を支配する。
──そういえばアイネはスイと一緒でもいいと言っていたっけ。
ふざけて言っていると思っていたがトワの話しをきいていると一概にそうとは言い切れないようだ。
どうもこの世界の恋愛観は日本、というか地球とかけ離れているらしい。
「ねぇ、男の人ってやっぱそういうのが好きなの?」
ふと、トワが俺の顔の前に近づいてきたことで思考が断ち切られた。
ニヤニヤと何を考えているのか分からない笑みを浮かべている。
「はぁ……?」
「アイネちゃんに抱き着かれて、嬉しそうだったじゃん。ボクにもされたいと思う?」
トワが俺の鼻を指でつんつん、とつついてきた。
「いやっ、何言ってるんだよお前」
顔を後ろにそらして羽虫を払うようにトワを追い払う。
──まぁ、されたいか、されたくないか、と言われればされたいが。なんだかんだ、トワも美少女だし……
「アハハっ、そうなんだ? でもごめんね。ボクはこんな体だから無理だよ。もしボクが人間になれたら抱きしめてあげるね。どんな感じになるのかボクもちょっと興味あるし」
──あれ? 俺、声に出していた?
ニヤニヤと笑うトワの姿を見ていると物凄く負けた気分になってくる。
「……からかうなよ。もう寝るぞ」
この話しはここで切るべきだろう。俺はそう言いながら上半身を倒す。
「ごめんごめん、でも一個だけきかせてくれないかな」
だがトワはもう一度俺の顔の前に飛んでくる。
「……ん?」
追い払おうと思ったが、やめた。
トワの雰囲気が変わったように見えたからだ。
トワが言葉を続ける。
「ねぇ。リーダー君はこの世界で何をしたいの?」
「……は?」
「キミには力がある。その力をどう振うつもりなのかなって思って」
体の筋肉に一気に緊張が走る。金縛りにあったような気分だった。
トワがじーっと俺を見つめる。
あまりその表情には色が無くどのような意図でそれをきいているのか察することができない。
「……分からないよ。まだそこまで実感があるわけじゃないし」
とにかく正直に気持ちを吐露することにした。変に考えても答えられそうにない。
だが答えが曖昧すぎたせいだろう。トワが少し不満げに質問を続ける。
「ふーん。そんなもの? スイちゃんと戦った時に実感わかなかったの?」
「まぁ少しは。でも、具体的に力をどう振うとかそんなことは考えた事なかったよ。でも、そうだなぁ……」
スイの名前を言われてふと思い出した。
「少しズルした気分だけど、スイに恩返しができると思った時は嬉しかったよ。アイネを守ることもできたし、それは誇らしいな」
しかも、美少女二人に感謝されるなんて役得に過ぎるのではないだろうか。
レベル2400というのはチートくさいが全てのクラスのレベルをカンストさせたプレイ時間が報われた気がする。
──あのレベル上げはなかなか辛かったからなぁ……
少しだけ自分の努力が肯定された気持ちになる。
それが凄く幸せというか、誇らしげに感じてしまった。
まぁ、それでも褒められた生活とはいえないだろうが。
「……ねぇ、リーダー君って元の世界では弱い人間だったでしょう?」
「えっ……?」
ふと、トワがくすりと笑う。
その表情に、心臓をつかまれた感覚が走った。
彼女の言葉は図星をつく確率が高い。
「な、なんでそんな……」
「なんとなく分かるんだ。強い人間が強い力を持った時、そんな優しい顔をするはずないからね」
反射的に自分の頬に手をあてる。
トワが言うような表情を自分はしていただろうか。
特に意識していないだけに恥ずかしい。
と、気持ちが緩んだ直後──
「だって、人間は醜いから」
胸騒ぎというか、冷や汗をかいた時のような感覚で凍りつく。
──なんだ、この表情は……?
見た目は普通の表情なのだが、何かが違うように見える。
顔の筋肉は笑顔を彩ってはいるのだが、目が笑っていない。
「トワ……?」
「ふふっ、リーダー君には期待しているよ。初めてなんだ。こんなイレギュラーは」
と、その表情から冷たさが消える。
転々と変わるその雰囲気に恐怖に近い感情を覚えた。
「……どういうことだ?」
「分からないかな。弱き者、強き者、それは最初から決まっている。それが生物の理だ。それなのに弱い人間が強い力を手に入れるなんてイレギュラー以外のなにものでもないでしょう? だからキミならもしかして……」
トワはそこで言葉を一度切り、数秒程沈黙する。
そして苦笑いを作りながら言葉を続けてきた。
「まぁでも上手く説明できないなぁ。言ったでしょ、ボクはこの世界に顕現したばかりだって」
──顕現、か……
その台詞はどうもトワがはぐらかす時の常套句らしい。
少し気になって追及をしてみる。
「……でも、この世界の常識は知っているみたいじゃないか」
少なくとも男が複数恋人を作るのが当然に行われているということは知っているのだ。
彼女の言葉には矛盾があるように思えた。
「そりゃあ、顕現するまえに世界の記録を見てきたからね。直接見たわけじゃないけど、ある程度は知っているよ。この世界、のことはね」
「世界の記録ってなんだよ」
「ふふっ、妖精は生まれる前にこの世界のことを勉強してくるんだよ。そう思ってくれればいいかな」
どうもトワに詳しく答えるつもりはないらしい。
それらしき言葉を言ってはぐらかすことしかしてこなかった。
「……よくわからないな」
こうなってはいくら問い詰めても無駄だろう。
俺はため息をついて体の力を抜く。
「そう? ま、そろそろ寝ようか。長引かせてごめんね」
そんな俺を見てトワは少し申し訳なさそうに眉を八の字にまげた。
「気にするな。まぁまぁ楽しかったよ」
社交辞令のような感覚で言った言葉だがトワは安心したように小さく笑う。
「そっか。じゃあおやすみ、リーダー君」
「あぁ……」
コートが置いてある場所へと飛んでいくトワを見送った数分後。
俺の意識は眠りに落ちた。
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