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第2章 嫌われた英雄
80話 突入準備
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翌日。朝食をすませた後に俺達は馬車に乗りキャンプ場を後にした。
ウェイアス草原に作られた馬車が通る道から外れて小さな丘を何度も超える。
そのまま一時間半ぐらいが経過しただろうか。俺の目に簡易的な小屋が建てられている集落がうつってきた。
「どうやら、あそこみたいですね」
左側に座るスイがそう言うと同時に手に取った地図と集落へ交互に視線を移す。
「本当にあそこがコボルトの住処なのか……?」
思わずそんな言葉が口から出てきてしまう。
正直、俺は内心でこの地図の事を疑ってしまった。
見た感じでは人が住むような場所にも見えるからだ。
「あんだけの拠点ができてるなら、討伐隊とか組まれないもんすかね? 大丈夫なのかな」
アイネも同じような感想を抱いたらしい。
怪訝な表情でじーっと遠くの集落を見つめている。
「シュルージュからトーラまで移動する人は少ないからなぁ。依頼を出す程の脅威が無かったのかも。キャンプからもそこそこ遠いし……」
そう言いながらもスイも不安げな表情を見せた。
ここまでくる間にそれなりの時間をかけてきている。ただの人が住む集落だとすれば完全に無駄足だ。
その原因を作ってしまったのが俺なだけに、もしそうなったら申し訳なさすぎる。
「んで、どうするんすか? 遠くからリーダーの魔法でぶったおすとか?」
アイネが後頭部の後ろで手を組みながら楽しそうにそう言ってきた。
トワが苦笑いで返す。
「そんなことしたら探し物も壊れちゃうんじゃないのー? それに、もし人が住んでいたら大変だよね?」
「あ、そうか……でもどうやって確認するんすか? 正面からつっこむとか?」
「正面から堂々と返してくださいって言っても大丈夫だと思いますよ。私達なら戦いになっても負けないと思います」
昨日コボルト達と遭遇した時は、あまりにも一方的に相手を倒してしまったのだ。戦闘というより蹂躙といった方が適切な程に。
ドン・コボルトがボスモンスターとはいえレベルのこともあってスイが苦戦するとは思えない。
「でもさ、馬達はどうするの? 戦いになったらやばくないかな」
ふと、唯一といっていい懸念材料をトワがあげてきた。
スイはそれをきくと馬に合図を送る。ゆっくりと馬車は速度を落とし停止した。
その後にスイは上半身を少し倒して俺の右側に座るアイネに話しかける。
「そうですね、馬車はある程度離れた場所に置いていこうかと。アイネ、馬車を守ってくれる?」
「えーっ、連れてってくれないんすか?」
不満げに口をとがらせるアイネ。
スイが少し申し訳なさそうに眉をまげた。
「で、でも馬達を守らないと……それに、ドン・コボルトのレベルは50なんでしょう。コボルト達ならともかく、アイネが余裕で勝てる相手じゃないと思うんだけど。私も実際に戦ったことはないからちゃんとアイネを守れるかどうか……」
「うぅ。名誉挽回のチャンスがないっす……別に守ってもらわなくてもいいのに……」
しゅんと、アイネが耳を垂らす。
──少し可哀そうか?
馬車の見張りも重要な役割だとは思うのだがパシリのような位置づけになっている感じがぬぐえない。
「じゃあボクの出番かな?」
ふと、トワがふふんと鼻で笑いながら俺達の前に飛んでくる。
何故かやけにドヤ顔だった。
「どういうことだ」
「忘れたの? まぁ言うよりやった方がいいね、ほら」
トワが人差し指をたてて、小さく指を振る。
すると、俺の視界が白で染まった。
「うわっ」
「ひぁ……」
それは二人も同じだったのだろう。小さな悲鳴が左右から聞こえてきた。
その後にだんだんと視界から白色が消えていく。
「えっ、ここは……え?」
少しの間を置いて、スイがはっと息をのむ音がきこえた。
周囲の景色には見覚えがある。円形に整備され、中央には焚き火の跡。椅子がわりに置かれた丸太、たくさんの木々。
「ファルルドの森……?」
スイが唖然とした顔でそう呟く。
彼女の言うとおりこの場所はファルルドの森の仮キャンプ場だ。
ここに来るのは三度目になる。
「ジャンジャジャーン! これがボクの転移魔法だよ」
トワが自分の存在をアピールするように俺達の前を飛び回る。
それに意識をひっぱられたのか、アイネが声をあげた。
「う、うおーっ! 本当に移動したっ! これ、トワちゃんがやったんすか?」
「……凄い」
「だから言ったじゃんっ。やっぱ信じてなかったの?」
わざとらしく半目になりながらトワが二人に視線を送る。
「そういう訳ではないのですが、本当に人を動かす魔法を見たのはこれが初めてだったので……」
周囲をキョロキョロと見渡していたスイだったが改めて彼女はトワを見つめる。
「リーダーの魔法もそうですがトワの魔力も得体がしれませんね……」
「ふふっ。ま、ボクは妖精だからね」
「そういう問題なのですか? 妖精族について詳しくありませんが……絆の聖杯といい、いったい貴女は……」
「まぁまぁ、それはいいじゃない。とりあえずこれで皆一緒に行動できるでしょ。ここにいれば馬車も安全だろうし」
「……そうですね。イレギュラーもありえますが、ひとまずは」
さりげなくはぐらかすトワにスイが諦めたようにふっと笑う。
「よーっし、これでウチもついていけるっすね!」
反対側からアイネの明るい声が聞こえてきた。
嬉しそうにはしゃぐその姿を見ているとこれから魔物の住処に特攻するという事を忘れそうになる。
それを思い出させるようにトワが声をあげてきた。
「じゃあもう一回さっきのところに戻すよ、準備はいい?」
その言葉に全員が頷く。すると再び白い光が俺達を包み込んできた。
ウェイアス草原に作られた馬車が通る道から外れて小さな丘を何度も超える。
そのまま一時間半ぐらいが経過しただろうか。俺の目に簡易的な小屋が建てられている集落がうつってきた。
「どうやら、あそこみたいですね」
左側に座るスイがそう言うと同時に手に取った地図と集落へ交互に視線を移す。
「本当にあそこがコボルトの住処なのか……?」
思わずそんな言葉が口から出てきてしまう。
正直、俺は内心でこの地図の事を疑ってしまった。
見た感じでは人が住むような場所にも見えるからだ。
「あんだけの拠点ができてるなら、討伐隊とか組まれないもんすかね? 大丈夫なのかな」
アイネも同じような感想を抱いたらしい。
怪訝な表情でじーっと遠くの集落を見つめている。
「シュルージュからトーラまで移動する人は少ないからなぁ。依頼を出す程の脅威が無かったのかも。キャンプからもそこそこ遠いし……」
そう言いながらもスイも不安げな表情を見せた。
ここまでくる間にそれなりの時間をかけてきている。ただの人が住む集落だとすれば完全に無駄足だ。
その原因を作ってしまったのが俺なだけに、もしそうなったら申し訳なさすぎる。
「んで、どうするんすか? 遠くからリーダーの魔法でぶったおすとか?」
アイネが後頭部の後ろで手を組みながら楽しそうにそう言ってきた。
トワが苦笑いで返す。
「そんなことしたら探し物も壊れちゃうんじゃないのー? それに、もし人が住んでいたら大変だよね?」
「あ、そうか……でもどうやって確認するんすか? 正面からつっこむとか?」
「正面から堂々と返してくださいって言っても大丈夫だと思いますよ。私達なら戦いになっても負けないと思います」
昨日コボルト達と遭遇した時は、あまりにも一方的に相手を倒してしまったのだ。戦闘というより蹂躙といった方が適切な程に。
ドン・コボルトがボスモンスターとはいえレベルのこともあってスイが苦戦するとは思えない。
「でもさ、馬達はどうするの? 戦いになったらやばくないかな」
ふと、唯一といっていい懸念材料をトワがあげてきた。
スイはそれをきくと馬に合図を送る。ゆっくりと馬車は速度を落とし停止した。
その後にスイは上半身を少し倒して俺の右側に座るアイネに話しかける。
「そうですね、馬車はある程度離れた場所に置いていこうかと。アイネ、馬車を守ってくれる?」
「えーっ、連れてってくれないんすか?」
不満げに口をとがらせるアイネ。
スイが少し申し訳なさそうに眉をまげた。
「で、でも馬達を守らないと……それに、ドン・コボルトのレベルは50なんでしょう。コボルト達ならともかく、アイネが余裕で勝てる相手じゃないと思うんだけど。私も実際に戦ったことはないからちゃんとアイネを守れるかどうか……」
「うぅ。名誉挽回のチャンスがないっす……別に守ってもらわなくてもいいのに……」
しゅんと、アイネが耳を垂らす。
──少し可哀そうか?
馬車の見張りも重要な役割だとは思うのだがパシリのような位置づけになっている感じがぬぐえない。
「じゃあボクの出番かな?」
ふと、トワがふふんと鼻で笑いながら俺達の前に飛んでくる。
何故かやけにドヤ顔だった。
「どういうことだ」
「忘れたの? まぁ言うよりやった方がいいね、ほら」
トワが人差し指をたてて、小さく指を振る。
すると、俺の視界が白で染まった。
「うわっ」
「ひぁ……」
それは二人も同じだったのだろう。小さな悲鳴が左右から聞こえてきた。
その後にだんだんと視界から白色が消えていく。
「えっ、ここは……え?」
少しの間を置いて、スイがはっと息をのむ音がきこえた。
周囲の景色には見覚えがある。円形に整備され、中央には焚き火の跡。椅子がわりに置かれた丸太、たくさんの木々。
「ファルルドの森……?」
スイが唖然とした顔でそう呟く。
彼女の言うとおりこの場所はファルルドの森の仮キャンプ場だ。
ここに来るのは三度目になる。
「ジャンジャジャーン! これがボクの転移魔法だよ」
トワが自分の存在をアピールするように俺達の前を飛び回る。
それに意識をひっぱられたのか、アイネが声をあげた。
「う、うおーっ! 本当に移動したっ! これ、トワちゃんがやったんすか?」
「……凄い」
「だから言ったじゃんっ。やっぱ信じてなかったの?」
わざとらしく半目になりながらトワが二人に視線を送る。
「そういう訳ではないのですが、本当に人を動かす魔法を見たのはこれが初めてだったので……」
周囲をキョロキョロと見渡していたスイだったが改めて彼女はトワを見つめる。
「リーダーの魔法もそうですがトワの魔力も得体がしれませんね……」
「ふふっ。ま、ボクは妖精だからね」
「そういう問題なのですか? 妖精族について詳しくありませんが……絆の聖杯といい、いったい貴女は……」
「まぁまぁ、それはいいじゃない。とりあえずこれで皆一緒に行動できるでしょ。ここにいれば馬車も安全だろうし」
「……そうですね。イレギュラーもありえますが、ひとまずは」
さりげなくはぐらかすトワにスイが諦めたようにふっと笑う。
「よーっし、これでウチもついていけるっすね!」
反対側からアイネの明るい声が聞こえてきた。
嬉しそうにはしゃぐその姿を見ているとこれから魔物の住処に特攻するという事を忘れそうになる。
それを思い出させるようにトワが声をあげてきた。
「じゃあもう一回さっきのところに戻すよ、準備はいい?」
その言葉に全員が頷く。すると再び白い光が俺達を包み込んできた。
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