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第4章 魔の力
182話 王子様?
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「!?」
その言葉には結構驚かされた。
やや乱れそうな呼吸を抑えながら頭の中で言葉をまとめる。
「もしかしてミハさんの妹さんですか?」
「やっぱり! おねーちゃんを知ってるのですかっ?」
シラハの言葉を首肯すると、彼女は思い出したように部屋の中にいる女の子を指さす。
「あ、あの子はクレハ。私の妹で……ミハおねーちゃんとは三姉妹なんです」
「…………」
なるほど。確かに彼女達の顔は良く似ている。
しかしその表情は正反対だった。クレハは警戒の色を全く解いていない。
そんなクレハにシラハは少し声を曇らせる。
「もうクレハ。おにーさんがここに来ちゃったのは私のミスだけど……お客さんを前にその顔はだめなんだよ。シャルル亭はいつもキラキラの笑顔でサービス、サービス♪」
「わ、分かってます……きゃ、きゃはは……」
ミハの事をまねているのだろうか。しかしクレハのそれはあまりにぎこちない。
ギャグが滑った時に芸人が向けられそうな顔だ。頬と眉が僅かに痙攣しているのが見ていて痛々しい。
それはシラハも重々分かっていたのだろう。呆れたようにため息をつく。
「ごめんなさいおにーさん。クレハは人見知りなので……」
「そうみたいですね。すぐに出ます。申し訳ありませんでした」
これ以上この場に留まるのは無意味だし、クレハにとっても酷だろう。
そう思った俺は部屋を出ようとドアノブに手をかけようとした。
「待ってっ!」
その時、背後から鋭いクレハの声がきこえてきた。
反射的に振り返る。
「そのロザリオ、見せてくれませんか……?」
立ち上がり、びくびくとしながらこちらに近づいてくるクレハ。
「いいですよ。えっと……」
どう見ても俺を怖がっているクレハにその行動をとらせるのは忍びない。
そこでロザリオを外そうとしてみたのだが──やはり自力では外すことはかなわなかった。
どこに留め具があるのかも認識することができない。
「あ、あの……ちょっとしゃがんで、ください……」
そうこうしてるうちにクレハが俺の近くまで歩み寄ってきた。
やはり彼女は小刻みに震えている。それを見て少し自分が情けなくなってしまった。
とはいえこうなってしまっては仕方ない。俺はクレハがロザリオを見やすいようにしゃがんでみた。
「ほんとだ。お姉ちゃんのロザリオだ……」
どう判別しているのか分からないが、その表情から見るに確信しているらしい。
名前でも書いてあったのだろうか。
「でも、なんで……?」
ロザリオに触れながら、じっとクレハが俺の事を見上げてくる。
その疑問が警戒心を上回ったのだろうか。彼女の震えはいつの間にか消えていた。
「あぁ。シュルージュを出る時にミハさんからもらったんですよ」
「お姉ちゃんが? 渡した……?」
「ってことは!」
と、シラハがいきなり俺の近くに顔を寄せて口を挟んできた。
なにごとかと彼女に視線を移す。
「おにーさんはもしかして、王子様なのですかっ!?」
「ぶっ!?」
──王子様!?
思わず吹き出してしまった。
どういう会話の流れでそうなるのか。
「そ、そうなのですか……?」
やや潤んだ瞳で俺の事を見てくるクレハ。
「いっ、いやいやいや、違いますよ。王子様なんかじゃないですって」
「でもこのロザリオ……お姉ちゃんが大事に持ってた物……」
手にとったロザリオに視線を移して数秒間の沈黙。
と思ったらクレハはいきなり後ろに飛び下がり自分の腕を抱きかかえる。
「もっ、もしかして……貴方、泥棒……?」
「えぇ!?」
何故そうなるのか──と言いたくはなったが、冷静になってみると突拍子も無い思考をしている訳ではない。
その事から数秒程、沈黙をしてしまったがこれは悪手だった。
「おにーさん、そうなのですか?」
「違うっ! 違うって!!」
さっきまで無邪気に笑ってくれていたシラハからも疑いの目線がかけられてしまった。
慌てて否定するも、我ながらかえって怪しい雰囲気を醸し出してしまう。
「な、なら証拠……ありますか……?」
「えっ?」
「あ、貴方が……泥棒じゃない証拠……」
唯一の救いは相手が感情的にどろぼーっとか叫ばない点だろう。
まだ話せば分かるラインを越えてはいないはずだ。
そう自分に言い聞かせてクレハの言う証拠が自分にあるかを考えてみるが──
「えっと……それは……」
やってない事の証明などできるはずがない。悪魔の証明というヤツではないだろうか。
その理不尽さに言葉を詰まらせてしまうものの──そんな事情を彼女達が考えてくれるはずがない。
「…………」
「おにーさん……?」
二人の疑いの目線が痛い。
可愛らしいロリ二人にジト目を向けられるというのは──ある意味喜ばしい状況なのかもしれないが。まさに今、自分が犯罪者だと疑われている場面ではそんな事を気にする余裕などあるはずもない。
それに、もし俺に疑われてしまっては同室者のスイやアイネ、トワ──それどころかハナエにまで迷惑がかかってしまうのではないだろうか。
そう考えると焦りで心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
しかし証拠などいくら考えてもあるはずがない。
その言葉には結構驚かされた。
やや乱れそうな呼吸を抑えながら頭の中で言葉をまとめる。
「もしかしてミハさんの妹さんですか?」
「やっぱり! おねーちゃんを知ってるのですかっ?」
シラハの言葉を首肯すると、彼女は思い出したように部屋の中にいる女の子を指さす。
「あ、あの子はクレハ。私の妹で……ミハおねーちゃんとは三姉妹なんです」
「…………」
なるほど。確かに彼女達の顔は良く似ている。
しかしその表情は正反対だった。クレハは警戒の色を全く解いていない。
そんなクレハにシラハは少し声を曇らせる。
「もうクレハ。おにーさんがここに来ちゃったのは私のミスだけど……お客さんを前にその顔はだめなんだよ。シャルル亭はいつもキラキラの笑顔でサービス、サービス♪」
「わ、分かってます……きゃ、きゃはは……」
ミハの事をまねているのだろうか。しかしクレハのそれはあまりにぎこちない。
ギャグが滑った時に芸人が向けられそうな顔だ。頬と眉が僅かに痙攣しているのが見ていて痛々しい。
それはシラハも重々分かっていたのだろう。呆れたようにため息をつく。
「ごめんなさいおにーさん。クレハは人見知りなので……」
「そうみたいですね。すぐに出ます。申し訳ありませんでした」
これ以上この場に留まるのは無意味だし、クレハにとっても酷だろう。
そう思った俺は部屋を出ようとドアノブに手をかけようとした。
「待ってっ!」
その時、背後から鋭いクレハの声がきこえてきた。
反射的に振り返る。
「そのロザリオ、見せてくれませんか……?」
立ち上がり、びくびくとしながらこちらに近づいてくるクレハ。
「いいですよ。えっと……」
どう見ても俺を怖がっているクレハにその行動をとらせるのは忍びない。
そこでロザリオを外そうとしてみたのだが──やはり自力では外すことはかなわなかった。
どこに留め具があるのかも認識することができない。
「あ、あの……ちょっとしゃがんで、ください……」
そうこうしてるうちにクレハが俺の近くまで歩み寄ってきた。
やはり彼女は小刻みに震えている。それを見て少し自分が情けなくなってしまった。
とはいえこうなってしまっては仕方ない。俺はクレハがロザリオを見やすいようにしゃがんでみた。
「ほんとだ。お姉ちゃんのロザリオだ……」
どう判別しているのか分からないが、その表情から見るに確信しているらしい。
名前でも書いてあったのだろうか。
「でも、なんで……?」
ロザリオに触れながら、じっとクレハが俺の事を見上げてくる。
その疑問が警戒心を上回ったのだろうか。彼女の震えはいつの間にか消えていた。
「あぁ。シュルージュを出る時にミハさんからもらったんですよ」
「お姉ちゃんが? 渡した……?」
「ってことは!」
と、シラハがいきなり俺の近くに顔を寄せて口を挟んできた。
なにごとかと彼女に視線を移す。
「おにーさんはもしかして、王子様なのですかっ!?」
「ぶっ!?」
──王子様!?
思わず吹き出してしまった。
どういう会話の流れでそうなるのか。
「そ、そうなのですか……?」
やや潤んだ瞳で俺の事を見てくるクレハ。
「いっ、いやいやいや、違いますよ。王子様なんかじゃないですって」
「でもこのロザリオ……お姉ちゃんが大事に持ってた物……」
手にとったロザリオに視線を移して数秒間の沈黙。
と思ったらクレハはいきなり後ろに飛び下がり自分の腕を抱きかかえる。
「もっ、もしかして……貴方、泥棒……?」
「えぇ!?」
何故そうなるのか──と言いたくはなったが、冷静になってみると突拍子も無い思考をしている訳ではない。
その事から数秒程、沈黙をしてしまったがこれは悪手だった。
「おにーさん、そうなのですか?」
「違うっ! 違うって!!」
さっきまで無邪気に笑ってくれていたシラハからも疑いの目線がかけられてしまった。
慌てて否定するも、我ながらかえって怪しい雰囲気を醸し出してしまう。
「な、なら証拠……ありますか……?」
「えっ?」
「あ、貴方が……泥棒じゃない証拠……」
唯一の救いは相手が感情的にどろぼーっとか叫ばない点だろう。
まだ話せば分かるラインを越えてはいないはずだ。
そう自分に言い聞かせてクレハの言う証拠が自分にあるかを考えてみるが──
「えっと……それは……」
やってない事の証明などできるはずがない。悪魔の証明というヤツではないだろうか。
その理不尽さに言葉を詰まらせてしまうものの──そんな事情を彼女達が考えてくれるはずがない。
「…………」
「おにーさん……?」
二人の疑いの目線が痛い。
可愛らしいロリ二人にジト目を向けられるというのは──ある意味喜ばしい状況なのかもしれないが。まさに今、自分が犯罪者だと疑われている場面ではそんな事を気にする余裕などあるはずもない。
それに、もし俺に疑われてしまっては同室者のスイやアイネ、トワ──それどころかハナエにまで迷惑がかかってしまうのではないだろうか。
そう考えると焦りで心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
しかし証拠などいくら考えてもあるはずがない。
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