あの夏の嘘つき

suezu

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第1章 チャラ男の理由

違う世界

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この世界は二つに分かれている。
いつもそう思う。二つの世界。健康な人の世界と病気の人の世界。
千尋はその世界を行き来している。

千尋は生まれてすぐに大きな病気だと診断された。それは発症率が低い珍しい病気で、ウイルスだとか免疫とか言われているが、いまだに原因はよくわかっていない病気だ。
小さな頃は、すぐに熱が出て、入院して腕の血管から一日中点滴を受けていた。薬を身体の中に入れると楽になるとわかっていても、点滴が嫌でずっと泣いていた記憶がある。
病室の蛍光灯とぐるぐると手に巻かれたテープ、ポトポトと聞こえるわけではないのになぜか聞こえる点滴が落ちる音、それしかない日々をずっと頑張ったのに、結局は心臓に大きな腫れ物が出来たとかで、9歳の時に、心臓の手術をした。

 手術がうまくいき安定してきて、退院出来て、小学校は少し通えたから、中学生活は出来れば、普通に過ごしたい、と思っていた。そりゃ休むことも多いだろうけど、きっと仲間が出来て楽しい中学生活を夢みていた。
でも、中学校時代は思い出したくないくらいきつい日々だった。

「小宮千尋くんは、病気の関係で体育は見学です。重い荷物を持つこともよくないので、みなさんも気を付けてあげてくださいね。」
 中学生活最初の日に、担任の先生がクラス全員の前でそういって、最初のうちは、クラスのみんなは千尋を壊れ物のように、大切に扱ってくれた。
「小宮くん。荷物を持ってあげるよ」
「理科の実験は危ないから、小宮くんは見ててね。」
まあ、過剰に気遣われてるとは感じたが、ここで「理科の実験も出来るし、荷物も持てます」なんて言って、雰囲気を悪くするよりも、ありがたくそれにのっかっていた方がいい。
そう思っているうちに、次第にクラスの雰囲気が変わってきた。 

「掃除の班、小宮が一緒だ。ついてねー。」
「小宮には何も出来ないからさ、同じ班だと俺らが損するよな。」
「女みたいな顔してるくせに、女に媚売って、楽してんじゃん。」
 あえて千尋に聞こえるように、言ってるのだろう。
「掃除当番、俺できるからやるよ」
そういって、千尋がモップを手にとると、
「ふざけんなよ。小宮を働かせたら俺たちが先生に怒られるだろ。」
モップを乱暴に取り上げられた。
「病気なら、学校来んなよ。学校は健康なヤツが来るところだろ」
「そうだよ。みんなの迷惑になってんの、わかんないのかよ」
「学校行きたいんなら病気のヤツの学校へ行けよ。普通の人のところへ来るなよ」
そう言葉を投げられて、その時、ああーっと気がついた。

そうか。そうだったのか。
ショックというより、それまで感じていた違和感がいきなり晴れた感じだった。
 この世界では、健康な人と病気の人の世界が違うんだ。違う世界にいるから、だから、違和感があるんだ。
千尋が通っている病院は地元では一番大きな大学病院だ。ちょっとした風邪で行く病院ではなく、大変な病気を抱えている人たちが行く場所だ。そこに通う人たちは病気の種類や程度が違っていても、みんな病気の人という仲間だからなのか、なぜか、病院へ行くと安心する。
でも、学校は違う。みんな健康な人たちだから、健康でないと、仲間に入れてもらえない。
ああ、そうだったのか。
住む世界が違ったんだな。

何で、こんな簡単なことに今まで気がつかなかったのだろう。
だから高校は通信制を選んだ。通信制なら健康とか病気とか関係ない。もう中学の時みたいな目にはあいたくなかったし、家で勉強できるなら身体も楽だし、一人のほうが圧倒的に気楽だ。
でも――その先の人生はどうする?
病気と一緒に生きていく以上、将来のために資格とかスキルとかはあったほうがいい。だから大学には行っといたほうがいいんだろう。
大学かぁ…
結局はやっぱり、健康な人たちの集団に紛れ込むしかない。
まあ大学なら、さすがに中学みたいな露骨ないじめはないだろう。基本は一人一人自由に講義を取るし。
それでも、情報交換できるくらいの知り合いはいた方がいいな。試験やレポート、誰かと助け合える方が心強い。
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