あの夏の嘘つき

suezu

文字の大きさ
14 / 48
第4章 夏休みは何をするもの?

夢はなに?

しおりを挟む
「…そういうのって、慣れるもの?」
涼の指先が千尋の髪を撫でながら聞く。
「慣れるっていうかさ。子供の頃は、なんで俺だけが病気なんだってイライラして、もうどうにでもなれって無茶したり、父さんや看護師さんに八つ当たりしたりしてた。でも、もうその時期は過ぎたかな。今は…受け入れるしかないって思ってる。」
「受け入れる?」
「うん。そうしないとやってられないだろ。確かに、毎日びくびくして生きてるし、健康な人から見たら、体調にばかり気を使って、無理もできない人生なんてつまらないって思うのかもしれない。…でも、それが俺の現実だから、いつまでも卑屈になってもいられないだろ」
「…つまらないなんて思わないよ。」
「細ーく細ーく、でも、自分の力で生きていく。それが今の俺の夢かな。」
「…なんとなくわかった気がする。」

いきなり重たい話をしたから、涼も返事に困っているようだった。どう言えばいいのか探しているのだろう。わかりやすく、困ったように首をかしげ、唇を少し尖らせている仕草につい苦笑してしまう。
元気で明るい生活を送ってる人は、どうすれば生きられるか、なんて考えもしないことだろうし、そんなことを言われても困るだけだろう。
「……じゃさ、涼は将来の夢って何?」
涼が自分のことを話すことがあまりない気がして、ふと、聞いてみた。
「俺ですか? んー、今は特にないな」
何も考えたことありません、というようなあまりにも軽い口調だった。肩をすくめる仕草もついてきて、冗談みたいに聞こえる。
「今じゃなくてもさ、たとえば子どもの頃、宇宙飛行士になりたかったとか」
「宇宙は絶対ムリですね。なんだかんだ制約が多そう。息して動くのも大変なのに、なぜ行きたいかよくわかんないな。アベンジャーズに誘われても断るな、絶対。」
「誘われねーよ。絶対、そんなヤツは。」
アベンジャーズだって、根性あるヤツしか欲しくないだろう。
「そうだな。しいていえば、前は自分の身体(からだ)を使った仕事がしたいって思ってたかな。」
「身体?」
意外な言葉に、思わずオウム返しになる。
「頭脳とか知識じゃなくて?」
「うん。身体」
「スポーツ選手、とか?」
「まさか。今から始めるには遅すぎるでしょ」
「……じゃあ、何?」
身体を使う仕事?筋肉系?いやいや、この細い身体だし、じゃ、植木職人とか、寿司職人?いやそれは、身体を使うっていうよりも技術を使うだろうし…他に身体を使うって?
カラダ?えっ?え?
「えっ…カラダを使うって…」
「ハハッ、今すっごいエッチな想像したでしょ」
涼がのけぞるように笑った。
「へぇ、千尋さんでもそういう顔するんだ。だったら今度、俺と一緒に身体を使うことを想像しておいてくださいね」
声を少し低くしてくすっと笑い、指先で千尋の唇をなぞる。
「おまえ…」
ふざけんな、と言おうとした口は慌てて閉じた。

これ以上何か言ったら、本当に口の中に、涼が指をつっこんできそうな気がした。
ホント、こいつの距離感ってバグってるから、思いも付かないようなことを仕掛けてきそうだ。
「熱は下がったみたいだから、そろそろ店、手伝いに行ってきます。おとなしく寝ててくださいね」
からかう笑みを残して、涼が立ち上がる。
「……ありがとな。いつも」
「そうだ。俺は千尋さんのそばにいるだけで楽しいけど、でも、それじゃ千尋さんが気になるっていうのなら、夏休みに二人でやりたいことを決めて、二人でやりましょう。」
涼はバイト用の黒いエプロンを頭からかぶりながら言う。
「やりたいこと、ねえ…」
夏休みに特別、何かして過ごすなんて、考えたこともなかったが、、夏という言葉だけで頭の中に風景が流れてくる。ひまわり、青空、かき氷…けれどどれも決め手に欠けて、すぐに通り過ぎてしまった。
「今、急には思いつかないな。涼は?」
「俺は、うーんと、俺は思いついたらすぐやっちゃうから、特にやりたいことって、ストックしてないんです。強いていえば…やっぱり夏の定番。花火大会に行きたいかな」
「花火か……じゃあ俺は、ちょっと考えさせて」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

BL短編

水無月
BL
兄弟や幼馴染物に偏りがちです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...