あの夏の嘘つき

suezu

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第8章 傷痕とキス

傷痕

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でも隣にいるのに、なんとなく無言っていうのも雰囲気が重い
かといって、何か話そうとすると急に言葉が出てこない。
変に寝返りでも打ったら、涼のどこかに触れてしまいそうで、この近さで目が合ってしまうのも、それはそれでなんか困る気がする。
そう意識すると、どんな姿勢をとっても居心地が悪く、仰向けのまま固まっていたけど、
同じ体勢がつらくなって、ちょっと足をずらしてみる。
でも、しっくりこない。姿勢の微調整の繰り返していると、隣からすっと手が伸びてきて、千尋の額にそっと触れた。

「熱、ないね。よかった」
今日、何度目かの体温チェックだ。
「平気。最近、調子いいんだよ。たぶん、涼といろいろ出かけてるからかな。ずっとゲームばっかしてた頃より、やっぱ身体使ってる方が健康的っていうか」
「よかった。うれしいな」
顔は見えないけど、絶対に微笑んだなとわかる、緩んだ声だった。

こんなふうに誰かと一緒に活動的な夏休みを自分が過ごせるなんて、思ってもいなかった。
体力的にガツガツ動けなくても、ちょっと視点を変えれば、それなりに、いや、けっこう楽しい。
「千尋さんにちょっとお願いがある。」
タオルケットを軽く持ち上げて、涼が千尋の方へと寝返りをうつ。
「変に思わないでほしいんだけど」
「何?」
「子供の頃、手術したって言ってたよね。その痕を見せてほしい」
「手術の痕?いいよ」
「え……本当にいいの?」
そのあっけなさに涼のほうが戸惑っているようだ。
「だって手術の痕を見せるだけだろ。そんなのなんでもないよ。減るもんじゃないし。」
千尋はすぐにパジャマの前のボタンを一つづつ、カチ、カチと開けていく。
家ではこんなちゃんとしたパジャマは着てないが、涼がクローゼットの奥から出してきた新しいパジャマだ。客用なのだろう。

「待って。ちょっと待って」
涼が少し慌てた声を出した。
「なんだよ。」
「千尋さん、そんなに簡単に脱いじゃダメだって。いや、俺がいうのもなんだけど、少しは警戒して。」
「何なんだよ。涼が言ったんだろ。なんで涼を警戒しなきゃならないんだよ。」
「いや、それはそうだけど、…千尋さん、ほんと、もうちょっと人を疑ってくれたほうが……そんなんじゃ、俺が心配っていうか…」
「じゃ、どうすんだよ?」
千尋がボタンを開ける手を止める。
「あ、すみません。よければ、手術の痕、見せてください。変なことを言ってごめんなさい」
「きれいなもんじゃないけど…」
最後までボタンを開けて、パジャマの上を脱いだ。
涼が手元のリモコンで操作したのだろう。間接照明の灯りが心もち、明るくなった。

「ほら、ここ。そんなに目立たないだろ」
千尋はベッドに横になったまま、自分で手術の痕を指差した。胸の中央に15センチくらい走る縦の線。手術したのは9歳の時だから、もう10年以上前の古い傷だ。
うっすらと赤みを帯びていて他の皮膚とは色が違う。きっと一生、こんな状態で残るのだろう。
「ここだね…」
涼は人差し指でそっとその傷をなぞった。
「千尋さんはこの傷跡は気にしてる?」
「いや、全然。まるで気にしてない」
風呂入った時に目に入ることもあるが、意識したことなんてほとんどない。
「子供の頃も?」
「覚えてないけど、今よりも病気が大変な状態だったから、こんな痕なんて気にする余裕もなかっただろうな」
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