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第8章 傷痕とキス
傷痕にキス
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「手術の時、怖かった?」
まだ、涼が傷口をなぞっている。
その手の感触で、子供のころ、「かわいそうに」と泣きなが抱きしめてくれた祖母をなぜか思いだした。
「怖かったというよりも、その頃はかなり症状が悪くてさ。辛くて辛くて、いつもわめいて泣いてたんだよ。でもそうすると、父さんも面倒みてくれたおばあちゃんも、もっと辛そうな顔をして泣くんだ。それがすごく嫌だったな。だから、早く手術したいって思ってた」
「…そうだったんだね」
涼が頭をかがめて、手術の痕にキスをする。その姿が何かの儀式のように見える。
「その頃、俺、千尋さんの近くにいたかったな。何の役に立てなくても…寒いよね。ごめんね。変なお願いをしちゃって。」
涼が丁寧に千尋のパジャマのボタンをしめた。
「いいけどさ、なんで、こんなもの、みたいわけ?」
ピッとリモコンの音がして、ベッドサイドの照明が少し落ちた。
「興味本位ってわけじゃなくて」
薄暗くなった天井に視線を向けたまま涼が続ける。
「うん、わかってるよ」
「…友だちが、高校の時の友だちが、心臓の病気が見つかったって連絡がきたんだ。」
「それは心配だな」
涼はあまり、自分の話をしないから、友だちの話を聞くなんて初めてだ。
高校の時の友人ということは、アメリカの友人だろう。
「今のところは元気だけど、いずれ手術をするらしい」
「…そう」
「元気だから、本人もあまり自覚症状がなくて、家族もわからなかったらしいけど、近いうちに手術したほうがいいんだって」
涼の声が少し不安そうだ。
「…きっと大丈夫。その友達は手術してすぐによくなるよ」
「……でも心臓の手術って、やっぱり怖いと思う。どんなに大丈夫って言われても、万が一って考えるよ。」
ベッドの中で、涼が千尋の手を握ってきた。きっと仲が良かった友人なのだろう。
手のひらから涼の不安が伝わってくるようだった。
「大丈夫だって。俺の手術の痕をみただろ。先生たちがきちんと手術してくれて、丁寧に縫ってくれて、手術してからもう10年以上経ってても、ちゃんと心臓が動いてるだろ。今なんて、そのころよりももっと手術の技術が進歩してて、それに涼の友達ってことはアメリカだろ。アメリカの心臓手術の技術ってすごいっていうじゃん」
「…うん、そうは聞くけど。俺、自分が今までずっと健康だったからか、そういう話聞くと、すごく怖くなる」
「それに、その友達もすぐに元気になって楽しく暮らせるよ」
「どうして、思えるの?」
涼がカラダを横に向けて千尋を見つめた
「俺はさ、病気をもって生まれたから、元気な時期がまるでなかったんだよ。マイナスから人生がスタートしてるわけ。でもさ、20年以上たっても、そこそこに暮らしてて、この夏は涼が一緒で、自分史上最高に楽しめてる。今夜は人生初で花火も見た。マイナスからスタートして、今、こんなに楽しめてんだから、今まで健康でプラスの人生を送ってきたその友だちなら、手術した後でも、楽しい人生になると思うよ」
一気にそう言った後に、ちょっとぶっちゃけすぎたと後悔をした。
ただ、友だちの病気を知って、落ち込んでいる涼を励ましたかっただけだ。
「そうか、そう考えればいいんだ。」
涼が小さくうなずくと動きにあわせて、ベッドサイドのライトの光がちらちらと揺れる。
「いろいろ考えちゃうと、こんがらがっていくだけだからさ」
「……千尋さんは、怖くないんですか?」
問いのかたちは曖昧だったが、何を聞きたかったのかは伝わってくる。
病気と生きること。その先にあるかもしれない終わりのこと。怖くないのか。
真正面から来たな、と思った。
そりゃ、怖い。寝る前に「明日の朝、目が覚めるのだろうか」と考えない夜はない。
「俺ね、人生って意外と、どうにかなるもんだと思ってんだよね」
少し笑いながら言う。
「今まで何回も、もうダメかもって思ったけど、どうにか乗り越えてきたし。そうやって生きてるとさ、不意にラッキーなことも起きたりして。だからたまに、人生って実はそういう仕組みなんじゃないかって思う」
またぶっちゃけてしまった。
まだ、涼が傷口をなぞっている。
その手の感触で、子供のころ、「かわいそうに」と泣きなが抱きしめてくれた祖母をなぜか思いだした。
「怖かったというよりも、その頃はかなり症状が悪くてさ。辛くて辛くて、いつもわめいて泣いてたんだよ。でもそうすると、父さんも面倒みてくれたおばあちゃんも、もっと辛そうな顔をして泣くんだ。それがすごく嫌だったな。だから、早く手術したいって思ってた」
「…そうだったんだね」
涼が頭をかがめて、手術の痕にキスをする。その姿が何かの儀式のように見える。
「その頃、俺、千尋さんの近くにいたかったな。何の役に立てなくても…寒いよね。ごめんね。変なお願いをしちゃって。」
涼が丁寧に千尋のパジャマのボタンをしめた。
「いいけどさ、なんで、こんなもの、みたいわけ?」
ピッとリモコンの音がして、ベッドサイドの照明が少し落ちた。
「興味本位ってわけじゃなくて」
薄暗くなった天井に視線を向けたまま涼が続ける。
「うん、わかってるよ」
「…友だちが、高校の時の友だちが、心臓の病気が見つかったって連絡がきたんだ。」
「それは心配だな」
涼はあまり、自分の話をしないから、友だちの話を聞くなんて初めてだ。
高校の時の友人ということは、アメリカの友人だろう。
「今のところは元気だけど、いずれ手術をするらしい」
「…そう」
「元気だから、本人もあまり自覚症状がなくて、家族もわからなかったらしいけど、近いうちに手術したほうがいいんだって」
涼の声が少し不安そうだ。
「…きっと大丈夫。その友達は手術してすぐによくなるよ」
「……でも心臓の手術って、やっぱり怖いと思う。どんなに大丈夫って言われても、万が一って考えるよ。」
ベッドの中で、涼が千尋の手を握ってきた。きっと仲が良かった友人なのだろう。
手のひらから涼の不安が伝わってくるようだった。
「大丈夫だって。俺の手術の痕をみただろ。先生たちがきちんと手術してくれて、丁寧に縫ってくれて、手術してからもう10年以上経ってても、ちゃんと心臓が動いてるだろ。今なんて、そのころよりももっと手術の技術が進歩してて、それに涼の友達ってことはアメリカだろ。アメリカの心臓手術の技術ってすごいっていうじゃん」
「…うん、そうは聞くけど。俺、自分が今までずっと健康だったからか、そういう話聞くと、すごく怖くなる」
「それに、その友達もすぐに元気になって楽しく暮らせるよ」
「どうして、思えるの?」
涼がカラダを横に向けて千尋を見つめた
「俺はさ、病気をもって生まれたから、元気な時期がまるでなかったんだよ。マイナスから人生がスタートしてるわけ。でもさ、20年以上たっても、そこそこに暮らしてて、この夏は涼が一緒で、自分史上最高に楽しめてる。今夜は人生初で花火も見た。マイナスからスタートして、今、こんなに楽しめてんだから、今まで健康でプラスの人生を送ってきたその友だちなら、手術した後でも、楽しい人生になると思うよ」
一気にそう言った後に、ちょっとぶっちゃけすぎたと後悔をした。
ただ、友だちの病気を知って、落ち込んでいる涼を励ましたかっただけだ。
「そうか、そう考えればいいんだ。」
涼が小さくうなずくと動きにあわせて、ベッドサイドのライトの光がちらちらと揺れる。
「いろいろ考えちゃうと、こんがらがっていくだけだからさ」
「……千尋さんは、怖くないんですか?」
問いのかたちは曖昧だったが、何を聞きたかったのかは伝わってくる。
病気と生きること。その先にあるかもしれない終わりのこと。怖くないのか。
真正面から来たな、と思った。
そりゃ、怖い。寝る前に「明日の朝、目が覚めるのだろうか」と考えない夜はない。
「俺ね、人生って意外と、どうにかなるもんだと思ってんだよね」
少し笑いながら言う。
「今まで何回も、もうダメかもって思ったけど、どうにか乗り越えてきたし。そうやって生きてるとさ、不意にラッキーなことも起きたりして。だからたまに、人生って実はそういう仕組みなんじゃないかって思う」
またぶっちゃけてしまった。
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