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第8章 傷痕とキス
キス
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夜のせいか言葉はすらすらと出てくる。
「…なんかわかった気がする」
「何がだよ」
「千尋さんって、実はすっごくポジティブだよね。外から見ると投げやりに見えるのに考えてることは前向きで、そっけなく見えて、実は周りの人のことを考えてて、すごく優しい。」
「…それって、ほめてんの?けなしてんの?」
「ほめてる。すごく。千尋さんのそういうところって、きっと根っこの考え方が卑屈じゃないんだなって思った。何があっても、自分で向き合う。きっとタフなんだろうな。だから、こんなに好きになったんだろうな」
いや、そんな簡単なもんじゃない。
どんだけ悩んで考えて、同じところをぐるぐる回って、泣いて叫んで運命とか神様とかにムキになって反発したか、どうして自分ばかり、って、何度思ったかわからない。
ずっとだ。ずっと。
病気に1秒の休みもないように、不安だって、1秒の休みもなく頭の中で動きまわる。
でも、そんなことは言わない。
絶対に伝わらないから。
伝わったとしても、それで何かが変わるわけじゃない。
気づくと涼が千尋をじっと覗き込んでいた。
「千尋さん。」
涼の腕が千を強く引き寄せた。
「キスくらいはしてもいいですよね?」
たぶん、空気が重くなったのを気にして、いつもの涼らしさが戻そうとしたのだろう。
「そういうこと聞くなよ。なんて答えたらいいのかわからないだろ」
「聞かなくていいってことは、いつでもキスしていいってこと?そしたら、俺、ずっとキスしちゃいますよ」
「えっ?」
それって冗談なのか、本気なのか。よくわからない。
でも、半分アメリカ育ちで、ノリが軽い涼のことだから、冗談じゃなく、日常的にいつもキスをしてくるっていうのもあり得る気がする。
「…えっ、本当に俺、何て答えればいいわけ?」
キスはいやなわけじゃない。でも、妙に心が落ち着かなくなる。
ふふっと涼が肩を揺らして声を出して笑った。
「やっと、千尋さんがいつもの顔に戻った。」
「いつもの?」
「うん。俺が変なこと言ったせいなんだけど、手術の話した後の千尋さん、なんかすごく苦しそうな顔してたから。思い出させちゃったのかな、って。だから、ちょっとでも空気変えたかったんです。」
いつの間にか表情に出てしまっていたようだ。慣れたつもりの感情もふと、洩れてしまっていたのだろう。それはきっと、涼の隣に慣れはじめているからだ。
「それでキスって…安易すぎるだろ。」
「だって、キスをしながら別のことを考えるのって、かなり難しいですよ。やってみます?」
「だから、聞くなって。答え方がわかんないんだよ」
「じゃ、いいってことですね。」
千尋の答えを聞くまでもなく、千尋の肩を抱くように腕を回した。
「…えっ」
唇をこじ開け、涼の舌が口の中へと入ってきて、千尋の口の裏をなぞる。
「あっ。」
やばいやばい。
くすぐったいっていうだけではなく、もぞもぞとする。その感触が、背中にまで奇妙な違和感として伝わっていく。感覚がもっていかれる。
さっきまで、ちょっとシリアスな会話をしていたのが嘘のようだ。
「ははは…っ」
急におかしくなって笑ってしまう。
「ねっ」
涼もこぼれるような笑みを浮かべる。
「キスしてる時に、他のことって考えられないでしょ。」
「確かにそうかも。」
小さく返事をしたあと、互いに笑い合った空気のまま、涼の腕が千尋の背をゆっくり撫でる。夜の静けさとエアコンの低い音、そして涼の体温。すべてがひとつに溶け合って、心地よくまとわりついてくる。
もう少しだけ、このままでいたいな。気が付けばそのままの姿勢で寝ていた。
「…なんかわかった気がする」
「何がだよ」
「千尋さんって、実はすっごくポジティブだよね。外から見ると投げやりに見えるのに考えてることは前向きで、そっけなく見えて、実は周りの人のことを考えてて、すごく優しい。」
「…それって、ほめてんの?けなしてんの?」
「ほめてる。すごく。千尋さんのそういうところって、きっと根っこの考え方が卑屈じゃないんだなって思った。何があっても、自分で向き合う。きっとタフなんだろうな。だから、こんなに好きになったんだろうな」
いや、そんな簡単なもんじゃない。
どんだけ悩んで考えて、同じところをぐるぐる回って、泣いて叫んで運命とか神様とかにムキになって反発したか、どうして自分ばかり、って、何度思ったかわからない。
ずっとだ。ずっと。
病気に1秒の休みもないように、不安だって、1秒の休みもなく頭の中で動きまわる。
でも、そんなことは言わない。
絶対に伝わらないから。
伝わったとしても、それで何かが変わるわけじゃない。
気づくと涼が千尋をじっと覗き込んでいた。
「千尋さん。」
涼の腕が千を強く引き寄せた。
「キスくらいはしてもいいですよね?」
たぶん、空気が重くなったのを気にして、いつもの涼らしさが戻そうとしたのだろう。
「そういうこと聞くなよ。なんて答えたらいいのかわからないだろ」
「聞かなくていいってことは、いつでもキスしていいってこと?そしたら、俺、ずっとキスしちゃいますよ」
「えっ?」
それって冗談なのか、本気なのか。よくわからない。
でも、半分アメリカ育ちで、ノリが軽い涼のことだから、冗談じゃなく、日常的にいつもキスをしてくるっていうのもあり得る気がする。
「…えっ、本当に俺、何て答えればいいわけ?」
キスはいやなわけじゃない。でも、妙に心が落ち着かなくなる。
ふふっと涼が肩を揺らして声を出して笑った。
「やっと、千尋さんがいつもの顔に戻った。」
「いつもの?」
「うん。俺が変なこと言ったせいなんだけど、手術の話した後の千尋さん、なんかすごく苦しそうな顔してたから。思い出させちゃったのかな、って。だから、ちょっとでも空気変えたかったんです。」
いつの間にか表情に出てしまっていたようだ。慣れたつもりの感情もふと、洩れてしまっていたのだろう。それはきっと、涼の隣に慣れはじめているからだ。
「それでキスって…安易すぎるだろ。」
「だって、キスをしながら別のことを考えるのって、かなり難しいですよ。やってみます?」
「だから、聞くなって。答え方がわかんないんだよ」
「じゃ、いいってことですね。」
千尋の答えを聞くまでもなく、千尋の肩を抱くように腕を回した。
「…えっ」
唇をこじ開け、涼の舌が口の中へと入ってきて、千尋の口の裏をなぞる。
「あっ。」
やばいやばい。
くすぐったいっていうだけではなく、もぞもぞとする。その感触が、背中にまで奇妙な違和感として伝わっていく。感覚がもっていかれる。
さっきまで、ちょっとシリアスな会話をしていたのが嘘のようだ。
「ははは…っ」
急におかしくなって笑ってしまう。
「ねっ」
涼もこぼれるような笑みを浮かべる。
「キスしてる時に、他のことって考えられないでしょ。」
「確かにそうかも。」
小さく返事をしたあと、互いに笑い合った空気のまま、涼の腕が千尋の背をゆっくり撫でる。夜の静けさとエアコンの低い音、そして涼の体温。すべてがひとつに溶け合って、心地よくまとわりついてくる。
もう少しだけ、このままでいたいな。気が付けばそのままの姿勢で寝ていた。
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