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第9章 味方
秋になる
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それからの夏休みは、たぶん人生で初めて「楽しかった」と言い切れる夏になった。
途中で熱を出して数日ダウンしたけど、それ以外はだいたい毎日、涼と一緒だった。
来るのはいつも、涼の方で、ベッドに並んで映画を観たり、ネットゲームで協力プレイをしたりした。
涼しい時間に行列の出来るラーメン屋に並び、都心から近い人工の砂浜で海でひざ下だけ海水につけた。それでも、千尋にとっては、初めての海遊びだ。大きなイベントだ。
キスもした。何度もした
初のぎこちなさも、回数を重ねればだんだん薄れるもので、触れることに妙に緊張する時間も少なくなった。もともとボディタッチが多い涼だから、手をつなぐのも、抱きしめられるのも、だんだん普通に慣れていって、照れなくもなっていった。
そうしているうちに、「恋人」なんだ、と自然に思うようになった。
夜寝る前に涼のことを考えることも多くなった。
涼の好きなものを知っていく。つないできた手のひらを自然と握り返しているのも「恋人」だからだ。「好き」という言葉は、涼の口から何度も聞いた。
千尋からは、その何分の一くらい、直接の言葉じゃなくても近いニュアンスでたぶん、返せたはずだ。
涼のやさしさも、言葉の選び方も、距離の詰め方もきっと、何度も恋をしてきた人だからできるのだろう。
聞いたことはないけど、千尋にとって涼は初めての恋人で、でも涼にとってはたくさんの中の一人だろうな、と思う。
その非対称を思うと、胸のどこかがむずっとするけれど、見なかったことにしてやり過ごした。
この関係はいつまで続くのだろうか。涼は「この夏を楽しく過ごそう」と言っていただけで、夏が終わった後は終わらせてしまおうと思っているのかもしれない。
でも、そんな態度や言葉は、涼からは一度も感じたことがない。
だったら、今はそれでいいか。
先のことばっかり気にしても、どうにもならない。
それって病気と、ちょっと似てる気がする。
先のことを心配しても仕方ないし、思いどおりにならないあたりとか。
そんなことを考えていても、恥ずかしくなくなってきた頃、夏が終わり、大学の新学期が始まった。
「やっと、俺も内定がとれそう。長かったよ―」
夏休みが終わって大学が始まると、啓介がうれしそうに飛びついてきた。
志望していた映像関係の企業はうまくいかなかったが、志望を切り替えて一般企業を受けたことで、最終面接まで進み、内定の連絡待ちだという。
「啓介、よかったな。俺は今度、やっと最終面接だよ。どうにかなるといいな」
千尋も大手企業の最終面接が来週ある。
やっとだ。ようやくここまで来た。
振り返るといくつの企業にエントリーシートを送ったのかわからない。
「健康状況」の欄に、正直に自分の持病のことを書いたせいなのか、それとも、他の要因なのかはわからないが、ほとんどの企業は面接まで進めなかった。
それでも、この企業だけは、健康のことを記入しても選考を進めてくれて、自由な働き方を認める制度もあるという。
だからこそ、どうしても内定が欲しい。
最終面接は、それまでのオンライン面接とは違い、実際に企業を訪れての対面だ。企業研究も面接のノウハウも頭に叩き込んだつもりだが、念のために、就職課で情報収集をしようと、千尋が講義棟との小道を歩いていると、背後から声をかけられた。
途中で熱を出して数日ダウンしたけど、それ以外はだいたい毎日、涼と一緒だった。
来るのはいつも、涼の方で、ベッドに並んで映画を観たり、ネットゲームで協力プレイをしたりした。
涼しい時間に行列の出来るラーメン屋に並び、都心から近い人工の砂浜で海でひざ下だけ海水につけた。それでも、千尋にとっては、初めての海遊びだ。大きなイベントだ。
キスもした。何度もした
初のぎこちなさも、回数を重ねればだんだん薄れるもので、触れることに妙に緊張する時間も少なくなった。もともとボディタッチが多い涼だから、手をつなぐのも、抱きしめられるのも、だんだん普通に慣れていって、照れなくもなっていった。
そうしているうちに、「恋人」なんだ、と自然に思うようになった。
夜寝る前に涼のことを考えることも多くなった。
涼の好きなものを知っていく。つないできた手のひらを自然と握り返しているのも「恋人」だからだ。「好き」という言葉は、涼の口から何度も聞いた。
千尋からは、その何分の一くらい、直接の言葉じゃなくても近いニュアンスでたぶん、返せたはずだ。
涼のやさしさも、言葉の選び方も、距離の詰め方もきっと、何度も恋をしてきた人だからできるのだろう。
聞いたことはないけど、千尋にとって涼は初めての恋人で、でも涼にとってはたくさんの中の一人だろうな、と思う。
その非対称を思うと、胸のどこかがむずっとするけれど、見なかったことにしてやり過ごした。
この関係はいつまで続くのだろうか。涼は「この夏を楽しく過ごそう」と言っていただけで、夏が終わった後は終わらせてしまおうと思っているのかもしれない。
でも、そんな態度や言葉は、涼からは一度も感じたことがない。
だったら、今はそれでいいか。
先のことばっかり気にしても、どうにもならない。
それって病気と、ちょっと似てる気がする。
先のことを心配しても仕方ないし、思いどおりにならないあたりとか。
そんなことを考えていても、恥ずかしくなくなってきた頃、夏が終わり、大学の新学期が始まった。
「やっと、俺も内定がとれそう。長かったよ―」
夏休みが終わって大学が始まると、啓介がうれしそうに飛びついてきた。
志望していた映像関係の企業はうまくいかなかったが、志望を切り替えて一般企業を受けたことで、最終面接まで進み、内定の連絡待ちだという。
「啓介、よかったな。俺は今度、やっと最終面接だよ。どうにかなるといいな」
千尋も大手企業の最終面接が来週ある。
やっとだ。ようやくここまで来た。
振り返るといくつの企業にエントリーシートを送ったのかわからない。
「健康状況」の欄に、正直に自分の持病のことを書いたせいなのか、それとも、他の要因なのかはわからないが、ほとんどの企業は面接まで進めなかった。
それでも、この企業だけは、健康のことを記入しても選考を進めてくれて、自由な働き方を認める制度もあるという。
だからこそ、どうしても内定が欲しい。
最終面接は、それまでのオンライン面接とは違い、実際に企業を訪れての対面だ。企業研究も面接のノウハウも頭に叩き込んだつもりだが、念のために、就職課で情報収集をしようと、千尋が講義棟との小道を歩いていると、背後から声をかけられた。
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