あの夏の嘘つき

suezu

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第11章 痛み

宇宙人

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 夕食にはデリバリーでピザを頼んだ。
これから二人で何をするのかと考えると、どうしても口数が減ってしまう。でも重い雰囲気の中で過ごすのも耐えられない。
 だから、意識して言葉を増やした。
カラ元気みたいに、カラ饒舌だ。
「なんで?ピザにハチミツって、ありえなくね?」
「クアトロフォルマッジはハチミツかけたほうが美味しいよ」
「…スイカに塩みたいなもん?」
「まあ、原理とすると一緒。はい、サラダも」

 食事の後はじゃんけんで、シャワーの順番を決め、涼の後にシャワーに入った。
この香り。いつもの涼の香りだ。ジャスミン&シトラス。もう覚えた。
絶対に下町のドラッグストアでは売ってなさそうな高級感あふれる白いボトルをプッシュしてボディタオルでカラダを洗う。
 その時点で、もう恥ずかしくなってきた。
大丈夫大丈夫。腹はくくってる。体調はいい。
はぁ~。
声に出して息をはいて、緊張を逃がす。

 ドライヤーで髪を乾かして、ベッドルームに向かい、ベッドに腰を掛けていた涼の隣に座った。
あ、やばい。緊張する。
ああ、このちょっとした無言の間がちょっと無理。でも何の話をしたらいいかまるでわからない。経験値が足りないってこういうことなんだろう。
「千尋さんのほうからキスをしてほしい」
唐突に、涼がそう切り出した。
「え?」と反射的に聞き返すと、涼は少し照れながらも真顔だった。
「いつも俺からでしょ。キスも、好きって言うのも。…だから俺も、求められたい」
「あー…ごめん。俺さ、言葉足りないっていうか、つい距離とっちゃうみたいでさ。別に言わなくてもわかるだろって、思っちゃうんだよな。…だから、自分からってのが、どうも苦手で」
涼がふうっと息をついた。
「俺は、逆に伝えてないと、千尋さんがどっか行っちゃうんじゃないかって、自信ないんだよね。離れるのが怖くなる。」
「俺はどこにも行かないって」
「きっと、千尋さんが思っている以上に千尋さんに執着してるんだよ。すっごくすごっく」

「……俺ね、執着って一種の生命力だと思ってるんだよね」
こういう時、何か、笑えて茶化せる言葉でも言っておけばいいんだろうけど、今日の涼は不安そうで、どこか寂し気でさすがに茶化す気にもなれなかった。
「生命力?」
「うん。好きなものと一緒に生きていきたいっていう意志だろ。執着って」
涼が黙って聞いている。
一呼吸おいて、言葉を継いだ。
「俺、涼とは逆でさ。なるべく何にも心が動かないように生きてきたわけ。父さんにも言われたことある、“お前は何にもこだわりを持たないな”って」
「それって、好きなものを作らないってこと?」
「まあ、そう。意識して、好きなものを作らないようにして何も期待しないようにしてたんだよね」
「どうして?」
「うーん。俺、怖がりで、いつも最悪のことを考えちゃうんだ。そのほうが、うまくいかなかった時のダメージ少ない。…もし、好きなものを持つと、万一の時につらいだろ。」
「万一?」
涼がそっと千尋の手を握る。

「…例えば、好きなもの残して逝くのは嫌だ。」
口に出すと、自分で思った以上に重かった。
でも、それしか言いようがなかった。
ふぅっと涼が大きく息を吐く。その吐息が千尋の頬をかすめた。
淋しそうに潤んだ瞳がまっすぐ千尋をとらえて、柔らかく笑った。
「千尋さんは元気だよ。夏休みだって、いろんなことしたし、だから “万一”なんて、絶対に来ない」
「…うん」
「それよりもね、俺は、誰かが来て、千尋さんのことを連れ去ってしまうほうが怖い」
「誰かって誰だよ?」
「わかんないけど…でも、いろんな可能性はあるよね。宇宙人が来て千尋さんを拉致するとかってことだってあるかもしれない」
荒唐無稽な話にすり替えることで、涼は千尋の「死」を匂わせた空気を切り替えたかったのだろう。
「宇宙人に拉致されるなら、涼のほうが可能性高いだろ。涼は英語しゃべれるから宇宙人とも仲良くなれるだろうし」
「えっ?宇宙人って英語をしゃべるの?」
「そうだよ。アベンジャーズに出てくる宇宙人はみんな英語話すよ。火星から来たヤツなんて英語ペラペラ」
「知らなかったな」
へえ、と涼が素でうなずく。
「でも大丈夫。俺、宇宙人に拉致されても、絶対に千尋さんのところへ帰ってくる。」
笑いながら涼が言う。
「どうやってだよ?お前、宇宙船を操縦できんの?」
「なんとかなるよ。俺、運転免許あるし。それに宇宙人が英語わかるなら、頼み込めば宇宙人だってわかってくれるはずだよ。だから絶対に千尋さんのところへ帰ってくる」
「…涼なら、なんか大丈夫そうだよな」

 宇宙人と涼。なんかちょっと想像できて笑える。きっと、こいつはどこに行っても愛されるキャラだろう。
「だから…ね」
涼が静かにこちらを見ていた。
うん、そうだった。ここは流しても、茶化してもいけないところだ。
「俺はきちんと涼のことが好きだよ。涼にきちんと触れたいし、触れてほしいと思ってる。きちんと伝えられてなくてごめん」


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