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第12章 真実
雪の中の巣
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季節は冬で、気持ちも冬のままだった。
珍しく東京に雪が積もった。
窓の外、下町の灰色の屋根が真っ白に覆われ、小さな裏庭の木も、重たい雪をかぶって枝がしなって折れそうだ。枝の根本に丸く雪が積もった場所が目に留まった。
鳥の巣箱だ。
そういえば、涼と一緒に作った巣箱をそのまま放ってあった。
鳥が棲みつく気配もなかったし、わざわざ取り外すタイミングもなかっただけだった。
……なんだっけ、あれ。コルビジェ風とか、だっけ?平たい屋根だから、こんなに雪が積もってしまうんじゃねーかよ。
雪の中の巣箱はもはや形もわからない。
…仕方ない。救出しとくか。
雪で壊れるはずもないけど、こうして目の前にあると、そのまま放っておくのも気が引けた。
スウェットのまま裏庭に出て、木の枝をゆすり、積もった雪を払う。
手袋なんてしてなかったから、指先がすぐに冷たくなって感覚がなくなる。
これで開く。
巣箱の上の雪をぬぐうと巣箱の蓋が開くはずだ。たぶん、中にも雪が入り込んでる。
涼は何度も鳥が来ないかと、ずっと気にしていたが、東京の住宅街に鳥が棲みつくはずがないと、千尋は気にもしてなかったので、蓋を開けるのは、取り付けて以来だ。
雪と一緒に固まっていた氷がなかなか落ちなくて、何度か軽く叩いていると「ギシ」と音がして、やっと蓋が開いた。
中を覗くと、脇に空いた小さな穴から雪が吹き込んでいたようだ。
手を入れて雪をかき出すと、その下に、白く凍りついた紙片があるのを見つけた。
……え?
胸の奥が「ドクン」と鳴った。
手のひらの熱で氷を溶かし、ゆっくりと紙をはがして部屋に戻る。
エアコンの前で少し待ってから、慎重に開いた。
たぶん、どこかのホテルの便箋のような白い紙だ。下の方にホテルのロゴのようなものが印刷されている。その真ん中に、ただ一行だけ。
『大好きです』
雨や雪で文字がにじんで、薄くなっているが、確かにそう書いてあった。
……はぁ?
声が漏れた。
置いてあった場所が場所だけに、たぶん、これ、涼が書いたものだろう。でも、文字を見たことがないから断言はできない。
まるっこくて、クセのない字だった。
「だから何が何だっていうんだよ」
一人、部屋で大きな声を出していた。
大好きって、誰のことが?
まさか、「好きだ」と書いておけば、鳥が喜んで来るとでも思ったのかよ?
バッカじゃねーの。変な宗教かよ。
それとも、俺のこと?俺にあてたもの?
だったら、「待ってて」とか「ごめん」とか、せめてもうちょい説明つけろよ。
わけがわかんねー。
一人、部屋の中で「はぁ?」と百回くらい言った。
でも、もしかして、これが涼なりのサヨナラの仕方だったのかもしれない。
そう思いつくとそんな気がしてきた。
ヘンなの。すごくヘンだけど。でもまあ、よかった。
きっと、他のことは伝えられない何か事情があったんだろう。そう思えると、少しだけ、肩の力が抜けた。
ただ、からかわれてるだけじゃなかったんだ。
「バッカじゃねーの」
もう一回、声に出してみた。
もうすぐ社会人だ。その前に、気持ちが少しでも楽になってよかった。
もう一度、窓の外の真っ白な街並みを見つめた。
千尋の手の中で、小さなメッセージがそっと温まっていた。
珍しく東京に雪が積もった。
窓の外、下町の灰色の屋根が真っ白に覆われ、小さな裏庭の木も、重たい雪をかぶって枝がしなって折れそうだ。枝の根本に丸く雪が積もった場所が目に留まった。
鳥の巣箱だ。
そういえば、涼と一緒に作った巣箱をそのまま放ってあった。
鳥が棲みつく気配もなかったし、わざわざ取り外すタイミングもなかっただけだった。
……なんだっけ、あれ。コルビジェ風とか、だっけ?平たい屋根だから、こんなに雪が積もってしまうんじゃねーかよ。
雪の中の巣箱はもはや形もわからない。
…仕方ない。救出しとくか。
雪で壊れるはずもないけど、こうして目の前にあると、そのまま放っておくのも気が引けた。
スウェットのまま裏庭に出て、木の枝をゆすり、積もった雪を払う。
手袋なんてしてなかったから、指先がすぐに冷たくなって感覚がなくなる。
これで開く。
巣箱の上の雪をぬぐうと巣箱の蓋が開くはずだ。たぶん、中にも雪が入り込んでる。
涼は何度も鳥が来ないかと、ずっと気にしていたが、東京の住宅街に鳥が棲みつくはずがないと、千尋は気にもしてなかったので、蓋を開けるのは、取り付けて以来だ。
雪と一緒に固まっていた氷がなかなか落ちなくて、何度か軽く叩いていると「ギシ」と音がして、やっと蓋が開いた。
中を覗くと、脇に空いた小さな穴から雪が吹き込んでいたようだ。
手を入れて雪をかき出すと、その下に、白く凍りついた紙片があるのを見つけた。
……え?
胸の奥が「ドクン」と鳴った。
手のひらの熱で氷を溶かし、ゆっくりと紙をはがして部屋に戻る。
エアコンの前で少し待ってから、慎重に開いた。
たぶん、どこかのホテルの便箋のような白い紙だ。下の方にホテルのロゴのようなものが印刷されている。その真ん中に、ただ一行だけ。
『大好きです』
雨や雪で文字がにじんで、薄くなっているが、確かにそう書いてあった。
……はぁ?
声が漏れた。
置いてあった場所が場所だけに、たぶん、これ、涼が書いたものだろう。でも、文字を見たことがないから断言はできない。
まるっこくて、クセのない字だった。
「だから何が何だっていうんだよ」
一人、部屋で大きな声を出していた。
大好きって、誰のことが?
まさか、「好きだ」と書いておけば、鳥が喜んで来るとでも思ったのかよ?
バッカじゃねーの。変な宗教かよ。
それとも、俺のこと?俺にあてたもの?
だったら、「待ってて」とか「ごめん」とか、せめてもうちょい説明つけろよ。
わけがわかんねー。
一人、部屋の中で「はぁ?」と百回くらい言った。
でも、もしかして、これが涼なりのサヨナラの仕方だったのかもしれない。
そう思いつくとそんな気がしてきた。
ヘンなの。すごくヘンだけど。でもまあ、よかった。
きっと、他のことは伝えられない何か事情があったんだろう。そう思えると、少しだけ、肩の力が抜けた。
ただ、からかわれてるだけじゃなかったんだ。
「バッカじゃねーの」
もう一回、声に出してみた。
もうすぐ社会人だ。その前に、気持ちが少しでも楽になってよかった。
もう一度、窓の外の真っ白な街並みを見つめた。
千尋の手の中で、小さなメッセージがそっと温まっていた。
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