あの夏の嘘つき

suezu

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第13章 背中に手を回す

氷漬けのメッセージ

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「それで、千尋さんを知っていくうちに、自分の考え方が嫌になって、千尋さんの考え方のほうが、ずっと強いなって思ったんだ。ちゃんと生きてるかんじがしてさ、かっこいいなって。」
お互いに手探りで、こわごわと距離を詰めて、ぶつかったり戸惑ったりしながら、それでも一生懸命、恋をしてた。
あのときの涼も自分も、ぎゅっと抱きしめたくなるのは、その時よりも大人になっているからだろうか。

「これ、見つけてくれたんですね。」
涼が机の上において紙を手にとった。雪の日に鳥の巣箱の中で見つけた紙だ。雪でクシャクシャになってしまったが、なんとなく捨てられずに置きっぱなしになっていた。
「雪の日に取り出したから、ちょっとヨレヨレになってるけど」
「雪?ってことは、何か月も巣箱の中だった?」
「あっ、まぁ…」
本当はこの前気が付いたばかりで、2年以上も巣箱の中だったとは言いづらかった。
「やっぱり、涼が入れたんだな。他に入れるやついないとは思ってたけどさ……それにしても、なんでわざわざ、あんなとこに?」
「アメリカに戻る日の朝、こっそり入れたんだ。
あの時は、何も言わずに立つつもりだったけど、やっぱり、気持ちはどこかに残したくて。
でも、自分が死ぬかもって考えたら、スマホにメッセージ残すのは避けたくて、だったら、いつか千尋さんの目に触れるかもしれないところに置こうって、気がつかれなくてもいいや、って思ってた」
「じゃあさ、この“好きです”ってやつ……俺のこと?」
ヨレヨレの紙ににじんだ黒い文字を指しながら訊くと、涼はあっさりと答えた。
「当たり前じゃん?逆に、誰のことだと思ってたの?」
「ほら、鳥の巣箱だし、涼、ずっと鳥が住みついたか気にしてただろ? だから、もしかして……ワンチャン、鳥に向けて“好きだー”って伝えたいのかなって思ったりもして…」」
一瞬の沈黙ののち、涼が目を丸くさせて、はぁ?と心底呆れた顔をした。
「ありえないでしょ?なんで鳥に愛の告白しなきゃいけないの?」
「……だ、だよな。わかってたよ。ちゃんとわかってたけどさ……涼のことだから、博愛主義的なかんじで、鳥にもきっと伝わるとかって思ってるんかな~って、ちょっとだけ考えた。ちょっとだけ…」
言い訳っぽく笑いながら言うと、涼が堪えきれずに吹き出した。

「やっぱり、千尋さんには簡単には伝わらないな…」
「だったら、誰あてだか、きちんと名前書いとけよ。」
「うーん、書こうと思ったんだけど、千尋の「ひろ」の漢字が難しくて自信がなくて…。」
「はぁ?それこそ、ありえないだろ」
二人同時に笑う。
懐かしい、この感じ。二人で軽口を言いながらこうやって、ベッドにもたれて笑いあった夏がそのまま戻ってきたようだった。

「で、鳥は?鳥は住みついた?」
涼が前のめりになる。
「住むわけないだろ。一応、ここ東京だぞ。なんで、そんなに鳥に住みついてほしいわけ?」
「だってさ……ふたりで作った巣箱が、誰かの家になるのっていいよ。そして、そこで雛が育って、そうやってどんどんと広がるって考えると、二人で作ったものから世界に広がっていくのがワクワクするよね。」
「いや、でも、そんなことって…」
そう言いかけて、口を閉じた。
あの巣箱は思い出ではなく今もそこに、あの夏も今につながっていて、そして、これからまた、つながっていくかもしれない。
「じゃさ、今度は真剣に鳥を呼ぶための作戦を考えなくちゃダメだな。」
「作戦?」
「そうだな。まずは手始めに、巣箱の近くにエサ台を作って、いつもエサを置くようにする。そうすると、鳥がここにはエサがあるってわかるだろ。」
涼が「それいいな」とうなずき、
「じゃ。エサ台の近くに水飲み場もあったほうがいいかも」
そう付け加えた。
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