一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

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☆複雑な大学生活 

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 愛里の誕生会の翌日にK大入試の発表があった。
 希望通りに僕と綾部さんは合格したのだが、残念ながら岩田は落ちてしまい、素直に喜べないのだった。
 何か声をかけてやりたかったが、愛里への想いを知られてからギクシャクしていて連絡がしにくい。

「私を振った罰だわ! 背伸びしなければよかったのに」

 綾部さんからの着信メールだが僕は知っている。綾部さんが岩田の次のT大学受験を手伝っていることを。健気に綾部宅に岩田を呼び、家庭教師まがいのことをしているのだ。
 岩田が僕に頼らず綾部さんにだけ心を開いている。 
 ――僕が受験日に広島まで帰ってきたことは、愛里には絶対に知られてはいけないとの事――。
 岩田が綾部さんに念を押したそうだ。

 ◆
 
 ◆

 春4月。
 大阪の遼に引っ越す荷造りも終わり、僕はクローゼットの彼女たちに別れの挨拶をした。
 三年間も癒してもらった子たちだ。みんなまとめて連れてゆきたかったが、寮での僕の部屋は相部屋だ。つまり他人同居。というのはプライバシーが無い。
 別に僕としては健全な癒し効果を求めて彼女たちと共にしてきたつもりだったが、世の中には性癖の類で彼女たちを収集している不謹慎な輩がいたりする。いわゆるロリコンとか変態とか言われている人種だ。
 もし遼の人に彼女たちを発見されでもしたら、僕はたちまちあらぬ疑いをかけられてしまうだろうし、彼女たちを盗まれるかもしれない。最悪の事態が起こってからでは遅いのだ。
 だから彼女たちを、ここへ残す。
 しっかりとクローゼットを施錠し、後ろ髪引かれる思いで大阪の遼に向かった。

 愛里に最後の挨拶をしたかったのだが、無理というものだ。
 十八歳の長身男が小学三のちっちゃい女の子に面と向かって何を言うというのだ。
『お兄ちゃんこれから大阪にゆくんだー』とかか?
 愛里は『はあ……』と落ちる声のトーンでハテナマークを浮かべまくるだけだろうし、岩田に知られたらそれこそ死罪だ。
 
 大阪までの道中は大きめのサングラスをかける。これだと騒がれない。鏡で見ると、怖いことは怖いのだけど、かっこいい怖さに変わっていることに今ごろ気付いた。

 ◆

 ◆

 K大遼は二階建ての木造民家だ。
 狭い玄関には使い込んだ靴やぞうりが数足下駄箱に並んでいる。
 まずは寮母さんに挨拶し部屋に案内された。
 八畳ほどの相部屋。片隅には、先に到着していた1人の学生がいそいそ荷物を整理している。

 ――――え?

「紹介するわね。こちら今年T大に入学した岩田建成くんよ。大学は違うけれど君と同じ広島県呉地出身だから、きっと話しが合うわよ。じゃ私はこれで、何かあったら呼びに来てね」

「あ、はい」

 寮母さんが出て行った。

「……」

「やあ、遅かったな」  

 岩田が笑った。
 ポーカーフェイスでなく喜んでいる。

「なんで岩田がここに? ここはK大学の寮じゃないのか」

 てかT大に合格していたのか! 知らんかった。
 綾部さんに岩田がどうなったのか訊ねても『秘密よ。知りたかったら、あなたのフィギュアを私に全公開しなさい。あのクローゼットを開けなさい』と言うのでそれ以上は黙っていたのだ。
 綾部さんもおおやけにするつもりはないようで、僕たちのフィギュア愛は2人だけの秘密になっていた。
 
「そうだが、どうした?」

「どうしたって、お前……」

 岩田は俺が戸惑っているのが嬉しいのだろう。

「ここの寮はK大生限定ではなく、大学生であれば誰でも入居OKだ」

 マジックの種明かしでもするみたいに、自信たっぷりに説明しやがる。

「あのなあ。T大の近くにも寮はあるだろう。わざわざこの寮に住む意味あるのか?」
 
 この寮はK大学が近いからK大生が入居するわけで、T大は近くの駅から3つ先の駅で下車して徒歩10分もあり、時間もお金も無駄だろう。

「もちろん有る」

 きっぱりと言い切った。

「お前の監視だ!」
 
 監視って……。
 返す言葉がなかった。

 岩田曰く、お前はK大受験を振ってまで愛里に会いに戻ったロリコンだ。いつ愛里に妙な行為をするか見張るのだそうだ。
 
 とことん妹バカ。
 溢れる妹愛をありがとう。

「僕が再び愛里に会いに広島まで戻るというのか?」

「そうだ」

「無いぞ絶対に」

「あれだけ言っても愛里に接近する男だ。信用ならん!」

「信用って……僕は妙な行為は全くしていないぞ。なのに――」

「お前は行動力がある。とんでもない無茶をする」

 行動力があるのはお前だろう岩田。
 妹の為にはどんな事でもするお前だよ。

「例えどうこう言っても、愛里はダメだ。この先愛里が成長して大人になったとしても、お前とはダメだ。2人好き同士でもダメだ。合わないだろう」

 そこまで言う――?

 こいつ頭から、妹が僕とくっつくのが嫌なんだ。ただそれだけ。

「わかった……」

「うむ」

「あ、いや、勘違いしてもらっては困る。分かったのは、お前の言い分が理解できたということ――。それだけ」

「!」

「はっきり言おう。僕も男だ。好きな女の子くらい自分で決める。例えそれが誰であろうとな!」

「……そうか」

「そうだ」

「それはつまり、愛里が好きな女子だったらアタックすると言いたいわけだ」

「そうなるな」
 
 ためらったが、勢いで言い切ってしまった。
 岩田は唇を噛み両眼を細め、やがて静かに荷物の整理を始めた。
 向かってくるかと思った。ケンカになるかと。呆れたのか。
 何を言い張っても平行線だろう。
 僕が愛里を好きなのはバレバレで、岩田はそれが嫌なわけだから。
 これから岩田と大学生活をうまく過ごしてゆけるだろうか……。
 天井から吊るされたカーテンを引いて、部屋を二等分し、僕も荷物整理を始めた。
 隣でも似たように整理している音が届いてくる。

 それはそうと、岩田はどうやって僕がこの寮に入居することを知ったのだ? 

「あ……」

 不意に綾部さんのメールを思い出した。
 
『付き合っている者同士は、ほぼ毎日メールや電話でやり取りをするのが常識。3年後には法律になるんだけど、まさか知らないはずないわよね』

 何処の法律だ、綾部王国か、と返信しそうになったアレだ。
 僕の情報が岩田に筒抜けだったのだ。 
 同部屋になったのも、岩田が裏工作をしたとみていいだろう。

 いやー、彼女たちを置いてきて本当に良かった。
 フィギュアのひとつでも岩田に発見されてみろ変態扱いだ。
 それに誕生会で、こっそりカモフラージュして撮った愛里の生写真を持ち込まなくて良かった。
 ローソクを吹き消す愛里や、岩田兄妹を撮ってやると言いつつ愛里のみをズームした物などを集めた、いわゆるマル秘ファイルだ。
 もちろんスマホの画像フォルダーの中深くにも同じものを忍ばせてあるが、やっぱりA4サイズでプリントした高解像度生写真で見る妖精は、たまらないものがある。それを自重した。我慢した。
 もし岩田に見つかりでもしたら――。

 その先を考えて身震いした。

 ◆

 ◆

 入学式も終え、本格的に大学生活が始まった。
 
「うっわ! すっげー顔。超怖いんだけど。《○○組》とかに入っていそうだよね絶対」

 キャンパス内の何処にいてもそう囁かれていた。外ではサングラスをかけていたが、大学では外していたからだ。
 遠巻きに見ている女子学生たちが露骨に嫌な顔をする。学食のお姉さんや購買所の店員さんも口には出さないが、嫌悪しているに違いない。
 いつものことだ。分かってはいたが、へこんでしまう。
 もの心ついたときから何度となく経験しているが慣れない。

「ここに居たのか」

 突然肩を叩いたのはT大にいるはずの岩田だった。

「なんでお前がここにいる?」
 
「K大のサークルに勧誘され入ったので来ているだけだ」

 いつの間に入ったんだ? 知らんかった。
《触れ合いサークル》という大学が認可していないサークルに入ったという。
 もろ合コン狙いだ。イケメンの岩田を利用して、可愛い女の子を取り込もうとする企みなんじゃねーのか?
 岩田も分かっててよく入ったなー?
 
「で、これから活動か」

「ああ、そうだ」

「そっか、それはそれは」

「いや、お前も一緒だ。もう登録済みだから」

「なに――っ! むむむむ無理だろー。僕には無理だってー」

「大丈夫だ」

「優しく肩とか叩いても、無理だって! 僕はこんな顔なんだぞ!」

「またそれか。取り敢えず行くだけ行ってみる。何ごとも挑戦だろう」

 岩田にガシッと腕組みをされた。
 分かるぞ。分かるぞお前の狙いは。僕に本当の彼女をつくらせ愛里から心を遠ざけようとする魂胆だろう。
 見え見えなんだよ。考えが浅はかなんだよ。
 合コンなんかでこの僕に彼女が出来るかっ! 
 
 やがて《触れ合いサークル》のメンバーと思われる上級生の男5人がやってきた。
 
「や、やあ! キ、キミが岩田くんの言っていた山柿くん?」

 部長らしき男子学生に引きつった笑みで訊ねられた。 

「はい……そうですけど……」

 そっかー、男気があるんだってねー、と5人は顔を見合わせ首を捻る。

「背が高いんだねえ……凄く強そうだよねえ……プロレス同好会とかもこの大学にはあるよ」

 早速他のサークルを紹介された。そっちに行って欲しいようだ。

「……」

「いいい、いや、あるってだけだよ。もしかして好きかなー、なんて、はははは……」

 ただ目線を向けただけなのに、威圧されたのか後ろの3人が一歩下がった。少し震えている男もいる。
 遺伝だろう、親父と同じで僕の身体はごっつい。顔は怖いし男でも慣れるまでは気後れする。

「あいにく、この山柿はプロレスが好きではないんだ。ここで俺と一緒に楽しませてもらうよ」

 岩田が代わりに言うと上級生が困ったように顔を見合す。新一年生への態度ではない。
 どど、どうすれば、楽しんで頂けるのでしょうかねえ、と弱々しい声が聞こえるようだった。

「えっとお、山柿くん。部長をやっている3回生の立川です。よ、よろしく、お願いしますね……」

 おずおずと伸ばされた手は震えていた。しっかりと握手する。
 どうやら僕の退部を諦めたようだ。つぎお前行けよ、などと後ろでやっている男すべてと挨拶が終わった。

「これから新入生歓迎コンパでしたよね、先輩」

「そうだ。既に産婦人科の女性7名を調達している。事前に届いた写メはこれだ」

「おおおおお!!」

 僕と岩田以外は凄く盛り上がっていて、本当に大丈夫だろうか……。
 僕なんかが参加して。
 悲惨なめに成らなければいいけど。
 
 サングラスをしっかりとかけた。


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