佚語を生きる! -いつがたりをいきる-  竜の一族 中巻 偽りの残滓編 

Shigeru_Kimoto

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藤次郎-2

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 今夜は家中で夜会が開かれる。夜会には家中のほぼすべてが集まり祝いの宴が催されるのだという。なんでも、跡継ぎの元服の祝いらしい。

家中といっても相当数の人数だ。新参者の男にとっては、ほとんどが見ず知らずである。だから、どこに行っても話す内容は同じで、ほぼ自分の人となりの紹介になるのだ。新参者の男は、家中の中堅どころの親戚筋の紹介で仕官した。家はそもそも土豪の出自で地方の有力者ではあるが武家を名乗るほどの規模も実力も持ち合わせてはいなかったし、おまけに次男であるが故に自分の食い扶持は自分で探さなければならなかったのだ。そこで、頼ったのがこの海道一の弓取りを自称する大名家だった。幸いにもここである程度の地位を持っていた親戚の口添えでかなりトントンと事は進み意外なほどにすんなりと食い扶持は見つかった。当然、下の身分からの出発であるが。この家中は今、勢力を近辺に拡大している真っ只中なので人手がいくらあっても足りないのだ、それも、良いタイミングだったという事になる。

「はんじゅうろ~。酒をつげぇ~」

新参者の男の背中で飲んでいた一団の男だ。さっきから、このハンジュウロウという名を連呼していたのでそれだけで妙に覚えてしまった。また、言い回しが独特でどこか地方の訛りなのかと考えてはみたのだが、もとよりそんな事詳しく知っていないのでわかるはずも無いのだが。

「お! みかけぬ顔だなぁ~」

さっきからハンジュウロウを連呼していた男が、後ろをちらりと見た新参者を目ざとく見つけ絡んできた。

「きょ、今日からここでお世話になる。佐々木藤次郎でございます。よろしくお見知り置きを」

「はんじゅうろ~。若いのに見ろ! 立派にご挨拶ができるぞ。お前も見習え~」

その男はヒョロヒョロな体つきで、酔っているのだろうか? 頭の先から足の先まで舐め回すように藤次郎を見ていた。

藤次郎を見つめるそのヒョロヒョロ男は手招きして一団に招き入れると酒を注いでくるのだが、ヤケに手足が長く胡坐をかいている割には身体を動かすことなく想像以上に長い腕で酒を注いできて言う、

「我らはお屋敷のお庭を整えるお役目をいただいているものだ。そこの庭は見ていただけたかな? 丹精込めて仕上げた庭なので、まだなら是非見てくれ。我らの自信作だ」

すると背中から、

「藤次郎探したぞ!」

この家に藤次郎を紹介した叔父が酒を持ってやって来た。

「さ、飲むぞ。こっちへ来い!」

藤次郎は先ほどの一団に一礼すると叔父に連れられてその場を後にした。
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