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本編
7 その人は愛を乞う1
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ルーの屋敷に居候することを了承したものの(というかイエス以外の返事はできたのか定かではない)、結局は「しばらくはそのまま過ごすように」という王の鶴の一声で、そのまま王宮に滞在することになった。
大神官の一人娘のからだに無関係な人間(つまり、わたしだ)が入ってしまったことは、すでに上層部に報告済みらしい。『ちょっと面倒なことになっちゃいそうで、ごめんね。』と申し訳なさそうにルーが言ってくれたけど、近いうち偉い人から直々に事情聴取があるそうなので、それが終わるまでの軟禁措置に違いない。
(王宮にいるうちに、何かスキルを身に付けられないかな)
こちらの世界に来て数日もすると、だんだん冷静になってきて、わたしはそんなことを考え始めた。
胡蝶の夢のように、目が覚めればもとの日本での生活かもしれない。頭の片隅では冷静にそう考える自分がいる。でも内心では、このまま異世界にい続けるんじゃないかなという気がしている。もしそうであった場合は、このさき生活するための努力は必要だ。
そう、今は客人待遇で王宮にいられるけれど、わたしがアナスタシア本人ではない以上、今後どうなるかはわからないのだ。
身一つでこの世界に放り出されたわたしにとって、ルーのところで生活するというのはとてもありがたい話ではある。しかし彼はわたし自身というより『わたしが持つ魔力』に執着しているのは明白なので、先行き不透明なのは同じである。
(何かスキルがあれば、追い出されても、ルーから見捨てられても、街でひっそり働いて暮らすなり、何かしらの生活手段を見つけられる可能性が増えるもんね)
事務スキルとしてエクセル・ワードの操作やファイリング、電話応対なんかは問題なくできるが、この世界で生かせる経験ではない。料理や裁縫はお世辞にも得意ではなかったし、美しく整えられた爪を見る限り、令嬢として育ってきたアナスタシアはそんなことしたこともないに違いない。
とりあえず女性1人が生活できるくらいの収入源を見つけたいものだ。わたしは強い魔力を持っているらしいので、王宮にいられる間に魔力を使いこなせるようになりたいと思う。
(せっかく異世界に来たんであれば、魔力のひとつやふたつ、使いこなしたい!)
それでうまく働き口でも見つけられれば上々だ。異世界人というボロがでない職場であればありがたい。正規で雇ってくれるのであれば、いうことなしだ。
そんなよこしまな思いを胸にルーに魔力の使い方を乞うと、にこにこと『こんど時間を取ってレクチャーしてあげるよ』と言ってくれた。国いちばんの魔術師に教えてもらえるなんて贅沢すぎる。
*****
(・・・いい天気だなあ)
ぼんやりと窓の外を見て、目を細めた。
今日は朝から良く晴れていて、お昼を過ぎても大きな窓からは明るい日差しがたっぷりと差し込んでいる。換気用に開けられた窓上の小窓からは知らない鳥のさえずりが聞こえてきて、お散歩日和なのだろうなと思われた。
テーブルの花瓶には深紅の薔薇と白い小さな花が一緒に飾られていてほっこりする。いまだ外に出られない身には貴重な癒しで、誰かはわからないけれど毎日花を取り換えてくれる気遣いがうれしい。
今日のわたしは少しくすんだ色味のピンクに同色系の糸で花の刺繍が入ったワンピースを着ている。髪は後ろでゆるくひとつに束ねて銀色の髪飾りをつけた。特にどこへ出かけるわけでもないが、せっかくの美人さんなので装うのは楽しい。
蛇足だが、アナスタシアはかわいらしいというよりは美人系の顔立ちな上に無駄にスタイルがいいので、ふつうに明るいピンクなんかを着ると、それはそれで似合わない。あとゆったり目の服をチョイスすると胸に引きずられて太って見えてしまう。美人は何着ても似合うと思ったら、そうではないのは発見だった。
大きな姿見で全身を確認してからサイドテーブルに置いておいた香水を少しだけ手首と足首に付けた。壁の飾り棚には何種類もの香水が置いてあり、気分によって使い分けられるようになっている。もともとルーの仮眠用として使われていた客室だったが、今では調度や飾りが増えてすっかり女性向けの部屋になっていた。
日中はほとんどこの部屋でルーと一緒に過ごしているが、今日は抜けられない会議があるとのことで珍しく夕方まで1人だ。せっかくだからと飴色に光るマホガニーのような木材で作られたライティングデスクに向かい、アナスタシアとして覚えている情報や人の名前をノートに書き出してみる。
ありがたいことに、もとのアナスタシアが身に付けていた知識はそのまま引き継いでおり、また異世界チートなのか言葉の不便もなかった。この国の言葉は、なぜかわたしには日本語として聞こえている。文字はヨーロッパ系の言語と似ているが、こちらも意識すると日本語に変換されて頭に入ってくるので問題なく読解できている。
ただアナスタシア自身の趣味嗜好や今までの人間関係については頭に残っているものの、まるで物語の登場人物のようにぼんやりとしたもので、実在の人物だという実感に乏しい。書き出すことで頭の整理になるし忘れずに済む。あとは実際に会ったときに不自然ではなく対応できるかが問題だ。
休憩しようとペンを置いたのとほぼ同じタイミングで、トントントン、と3回ノックする音がした。
大神官の一人娘のからだに無関係な人間(つまり、わたしだ)が入ってしまったことは、すでに上層部に報告済みらしい。『ちょっと面倒なことになっちゃいそうで、ごめんね。』と申し訳なさそうにルーが言ってくれたけど、近いうち偉い人から直々に事情聴取があるそうなので、それが終わるまでの軟禁措置に違いない。
(王宮にいるうちに、何かスキルを身に付けられないかな)
こちらの世界に来て数日もすると、だんだん冷静になってきて、わたしはそんなことを考え始めた。
胡蝶の夢のように、目が覚めればもとの日本での生活かもしれない。頭の片隅では冷静にそう考える自分がいる。でも内心では、このまま異世界にい続けるんじゃないかなという気がしている。もしそうであった場合は、このさき生活するための努力は必要だ。
そう、今は客人待遇で王宮にいられるけれど、わたしがアナスタシア本人ではない以上、今後どうなるかはわからないのだ。
身一つでこの世界に放り出されたわたしにとって、ルーのところで生活するというのはとてもありがたい話ではある。しかし彼はわたし自身というより『わたしが持つ魔力』に執着しているのは明白なので、先行き不透明なのは同じである。
(何かスキルがあれば、追い出されても、ルーから見捨てられても、街でひっそり働いて暮らすなり、何かしらの生活手段を見つけられる可能性が増えるもんね)
事務スキルとしてエクセル・ワードの操作やファイリング、電話応対なんかは問題なくできるが、この世界で生かせる経験ではない。料理や裁縫はお世辞にも得意ではなかったし、美しく整えられた爪を見る限り、令嬢として育ってきたアナスタシアはそんなことしたこともないに違いない。
とりあえず女性1人が生活できるくらいの収入源を見つけたいものだ。わたしは強い魔力を持っているらしいので、王宮にいられる間に魔力を使いこなせるようになりたいと思う。
(せっかく異世界に来たんであれば、魔力のひとつやふたつ、使いこなしたい!)
それでうまく働き口でも見つけられれば上々だ。異世界人というボロがでない職場であればありがたい。正規で雇ってくれるのであれば、いうことなしだ。
そんなよこしまな思いを胸にルーに魔力の使い方を乞うと、にこにこと『こんど時間を取ってレクチャーしてあげるよ』と言ってくれた。国いちばんの魔術師に教えてもらえるなんて贅沢すぎる。
*****
(・・・いい天気だなあ)
ぼんやりと窓の外を見て、目を細めた。
今日は朝から良く晴れていて、お昼を過ぎても大きな窓からは明るい日差しがたっぷりと差し込んでいる。換気用に開けられた窓上の小窓からは知らない鳥のさえずりが聞こえてきて、お散歩日和なのだろうなと思われた。
テーブルの花瓶には深紅の薔薇と白い小さな花が一緒に飾られていてほっこりする。いまだ外に出られない身には貴重な癒しで、誰かはわからないけれど毎日花を取り換えてくれる気遣いがうれしい。
今日のわたしは少しくすんだ色味のピンクに同色系の糸で花の刺繍が入ったワンピースを着ている。髪は後ろでゆるくひとつに束ねて銀色の髪飾りをつけた。特にどこへ出かけるわけでもないが、せっかくの美人さんなので装うのは楽しい。
蛇足だが、アナスタシアはかわいらしいというよりは美人系の顔立ちな上に無駄にスタイルがいいので、ふつうに明るいピンクなんかを着ると、それはそれで似合わない。あとゆったり目の服をチョイスすると胸に引きずられて太って見えてしまう。美人は何着ても似合うと思ったら、そうではないのは発見だった。
大きな姿見で全身を確認してからサイドテーブルに置いておいた香水を少しだけ手首と足首に付けた。壁の飾り棚には何種類もの香水が置いてあり、気分によって使い分けられるようになっている。もともとルーの仮眠用として使われていた客室だったが、今では調度や飾りが増えてすっかり女性向けの部屋になっていた。
日中はほとんどこの部屋でルーと一緒に過ごしているが、今日は抜けられない会議があるとのことで珍しく夕方まで1人だ。せっかくだからと飴色に光るマホガニーのような木材で作られたライティングデスクに向かい、アナスタシアとして覚えている情報や人の名前をノートに書き出してみる。
ありがたいことに、もとのアナスタシアが身に付けていた知識はそのまま引き継いでおり、また異世界チートなのか言葉の不便もなかった。この国の言葉は、なぜかわたしには日本語として聞こえている。文字はヨーロッパ系の言語と似ているが、こちらも意識すると日本語に変換されて頭に入ってくるので問題なく読解できている。
ただアナスタシア自身の趣味嗜好や今までの人間関係については頭に残っているものの、まるで物語の登場人物のようにぼんやりとしたもので、実在の人物だという実感に乏しい。書き出すことで頭の整理になるし忘れずに済む。あとは実際に会ったときに不自然ではなく対応できるかが問題だ。
休憩しようとペンを置いたのとほぼ同じタイミングで、トントントン、と3回ノックする音がした。
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