7 / 133
本編
7 その人は愛を乞う1
しおりを挟む
ルーの屋敷に居候することを了承したものの(というかイエス以外の返事はできたのか定かではない)、結局は「しばらくはそのまま過ごすように」という王の鶴の一声で、そのまま王宮に滞在することになった。
大神官の一人娘のからだに無関係な人間(つまり、わたしだ)が入ってしまったことは、すでに上層部に報告済みらしい。『ちょっと面倒なことになっちゃいそうで、ごめんね。』と申し訳なさそうにルーが言ってくれたけど、近いうち偉い人から直々に事情聴取があるそうなので、それが終わるまでの軟禁措置に違いない。
(王宮にいるうちに、何かスキルを身に付けられないかな)
こちらの世界に来て数日もすると、だんだん冷静になってきて、わたしはそんなことを考え始めた。
胡蝶の夢のように、目が覚めればもとの日本での生活かもしれない。頭の片隅では冷静にそう考える自分がいる。でも内心では、このまま異世界にい続けるんじゃないかなという気がしている。もしそうであった場合は、このさき生活するための努力は必要だ。
そう、今は客人待遇で王宮にいられるけれど、わたしがアナスタシア本人ではない以上、今後どうなるかはわからないのだ。
身一つでこの世界に放り出されたわたしにとって、ルーのところで生活するというのはとてもありがたい話ではある。しかし彼はわたし自身というより『わたしが持つ魔力』に執着しているのは明白なので、先行き不透明なのは同じである。
(何かスキルがあれば、追い出されても、ルーから見捨てられても、街でひっそり働いて暮らすなり、何かしらの生活手段を見つけられる可能性が増えるもんね)
事務スキルとしてエクセル・ワードの操作やファイリング、電話応対なんかは問題なくできるが、この世界で生かせる経験ではない。料理や裁縫はお世辞にも得意ではなかったし、美しく整えられた爪を見る限り、令嬢として育ってきたアナスタシアはそんなことしたこともないに違いない。
とりあえず女性1人が生活できるくらいの収入源を見つけたいものだ。わたしは強い魔力を持っているらしいので、王宮にいられる間に魔力を使いこなせるようになりたいと思う。
(せっかく異世界に来たんであれば、魔力のひとつやふたつ、使いこなしたい!)
それでうまく働き口でも見つけられれば上々だ。異世界人というボロがでない職場であればありがたい。正規で雇ってくれるのであれば、いうことなしだ。
そんなよこしまな思いを胸にルーに魔力の使い方を乞うと、にこにこと『こんど時間を取ってレクチャーしてあげるよ』と言ってくれた。国いちばんの魔術師に教えてもらえるなんて贅沢すぎる。
*****
(・・・いい天気だなあ)
ぼんやりと窓の外を見て、目を細めた。
今日は朝から良く晴れていて、お昼を過ぎても大きな窓からは明るい日差しがたっぷりと差し込んでいる。換気用に開けられた窓上の小窓からは知らない鳥のさえずりが聞こえてきて、お散歩日和なのだろうなと思われた。
テーブルの花瓶には深紅の薔薇と白い小さな花が一緒に飾られていてほっこりする。いまだ外に出られない身には貴重な癒しで、誰かはわからないけれど毎日花を取り換えてくれる気遣いがうれしい。
今日のわたしは少しくすんだ色味のピンクに同色系の糸で花の刺繍が入ったワンピースを着ている。髪は後ろでゆるくひとつに束ねて銀色の髪飾りをつけた。特にどこへ出かけるわけでもないが、せっかくの美人さんなので装うのは楽しい。
蛇足だが、アナスタシアはかわいらしいというよりは美人系の顔立ちな上に無駄にスタイルがいいので、ふつうに明るいピンクなんかを着ると、それはそれで似合わない。あとゆったり目の服をチョイスすると胸に引きずられて太って見えてしまう。美人は何着ても似合うと思ったら、そうではないのは発見だった。
大きな姿見で全身を確認してからサイドテーブルに置いておいた香水を少しだけ手首と足首に付けた。壁の飾り棚には何種類もの香水が置いてあり、気分によって使い分けられるようになっている。もともとルーの仮眠用として使われていた客室だったが、今では調度や飾りが増えてすっかり女性向けの部屋になっていた。
日中はほとんどこの部屋でルーと一緒に過ごしているが、今日は抜けられない会議があるとのことで珍しく夕方まで1人だ。せっかくだからと飴色に光るマホガニーのような木材で作られたライティングデスクに向かい、アナスタシアとして覚えている情報や人の名前をノートに書き出してみる。
ありがたいことに、もとのアナスタシアが身に付けていた知識はそのまま引き継いでおり、また異世界チートなのか言葉の不便もなかった。この国の言葉は、なぜかわたしには日本語として聞こえている。文字はヨーロッパ系の言語と似ているが、こちらも意識すると日本語に変換されて頭に入ってくるので問題なく読解できている。
ただアナスタシア自身の趣味嗜好や今までの人間関係については頭に残っているものの、まるで物語の登場人物のようにぼんやりとしたもので、実在の人物だという実感に乏しい。書き出すことで頭の整理になるし忘れずに済む。あとは実際に会ったときに不自然ではなく対応できるかが問題だ。
休憩しようとペンを置いたのとほぼ同じタイミングで、トントントン、と3回ノックする音がした。
大神官の一人娘のからだに無関係な人間(つまり、わたしだ)が入ってしまったことは、すでに上層部に報告済みらしい。『ちょっと面倒なことになっちゃいそうで、ごめんね。』と申し訳なさそうにルーが言ってくれたけど、近いうち偉い人から直々に事情聴取があるそうなので、それが終わるまでの軟禁措置に違いない。
(王宮にいるうちに、何かスキルを身に付けられないかな)
こちらの世界に来て数日もすると、だんだん冷静になってきて、わたしはそんなことを考え始めた。
胡蝶の夢のように、目が覚めればもとの日本での生活かもしれない。頭の片隅では冷静にそう考える自分がいる。でも内心では、このまま異世界にい続けるんじゃないかなという気がしている。もしそうであった場合は、このさき生活するための努力は必要だ。
そう、今は客人待遇で王宮にいられるけれど、わたしがアナスタシア本人ではない以上、今後どうなるかはわからないのだ。
身一つでこの世界に放り出されたわたしにとって、ルーのところで生活するというのはとてもありがたい話ではある。しかし彼はわたし自身というより『わたしが持つ魔力』に執着しているのは明白なので、先行き不透明なのは同じである。
(何かスキルがあれば、追い出されても、ルーから見捨てられても、街でひっそり働いて暮らすなり、何かしらの生活手段を見つけられる可能性が増えるもんね)
事務スキルとしてエクセル・ワードの操作やファイリング、電話応対なんかは問題なくできるが、この世界で生かせる経験ではない。料理や裁縫はお世辞にも得意ではなかったし、美しく整えられた爪を見る限り、令嬢として育ってきたアナスタシアはそんなことしたこともないに違いない。
とりあえず女性1人が生活できるくらいの収入源を見つけたいものだ。わたしは強い魔力を持っているらしいので、王宮にいられる間に魔力を使いこなせるようになりたいと思う。
(せっかく異世界に来たんであれば、魔力のひとつやふたつ、使いこなしたい!)
それでうまく働き口でも見つけられれば上々だ。異世界人というボロがでない職場であればありがたい。正規で雇ってくれるのであれば、いうことなしだ。
そんなよこしまな思いを胸にルーに魔力の使い方を乞うと、にこにこと『こんど時間を取ってレクチャーしてあげるよ』と言ってくれた。国いちばんの魔術師に教えてもらえるなんて贅沢すぎる。
*****
(・・・いい天気だなあ)
ぼんやりと窓の外を見て、目を細めた。
今日は朝から良く晴れていて、お昼を過ぎても大きな窓からは明るい日差しがたっぷりと差し込んでいる。換気用に開けられた窓上の小窓からは知らない鳥のさえずりが聞こえてきて、お散歩日和なのだろうなと思われた。
テーブルの花瓶には深紅の薔薇と白い小さな花が一緒に飾られていてほっこりする。いまだ外に出られない身には貴重な癒しで、誰かはわからないけれど毎日花を取り換えてくれる気遣いがうれしい。
今日のわたしは少しくすんだ色味のピンクに同色系の糸で花の刺繍が入ったワンピースを着ている。髪は後ろでゆるくひとつに束ねて銀色の髪飾りをつけた。特にどこへ出かけるわけでもないが、せっかくの美人さんなので装うのは楽しい。
蛇足だが、アナスタシアはかわいらしいというよりは美人系の顔立ちな上に無駄にスタイルがいいので、ふつうに明るいピンクなんかを着ると、それはそれで似合わない。あとゆったり目の服をチョイスすると胸に引きずられて太って見えてしまう。美人は何着ても似合うと思ったら、そうではないのは発見だった。
大きな姿見で全身を確認してからサイドテーブルに置いておいた香水を少しだけ手首と足首に付けた。壁の飾り棚には何種類もの香水が置いてあり、気分によって使い分けられるようになっている。もともとルーの仮眠用として使われていた客室だったが、今では調度や飾りが増えてすっかり女性向けの部屋になっていた。
日中はほとんどこの部屋でルーと一緒に過ごしているが、今日は抜けられない会議があるとのことで珍しく夕方まで1人だ。せっかくだからと飴色に光るマホガニーのような木材で作られたライティングデスクに向かい、アナスタシアとして覚えている情報や人の名前をノートに書き出してみる。
ありがたいことに、もとのアナスタシアが身に付けていた知識はそのまま引き継いでおり、また異世界チートなのか言葉の不便もなかった。この国の言葉は、なぜかわたしには日本語として聞こえている。文字はヨーロッパ系の言語と似ているが、こちらも意識すると日本語に変換されて頭に入ってくるので問題なく読解できている。
ただアナスタシア自身の趣味嗜好や今までの人間関係については頭に残っているものの、まるで物語の登場人物のようにぼんやりとしたもので、実在の人物だという実感に乏しい。書き出すことで頭の整理になるし忘れずに済む。あとは実際に会ったときに不自然ではなく対応できるかが問題だ。
休憩しようとペンを置いたのとほぼ同じタイミングで、トントントン、と3回ノックする音がした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
転生先は男女比50:1の世界!?
4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。
「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」
デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・
どうなる!?学園生活!!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
残念女子高生、実は伝説の白猫族でした。
具なっしー
恋愛
高校2年生!葉山空が一妻多夫制の男女比が20:1の世界に召喚される話。そしてなんやかんやあって自分が伝説の存在だったことが判明して…て!そんなことしるかぁ!残念女子高生がイケメンに甘やかされながらマイペースにだらだら生きてついでに世界を救っちゃう話。シリアス嫌いです。
※表紙はAI画像です
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる