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本編
12 私はあなたの犬がいい4 【side セイ】
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2人だけの幸せな時間が続くと思っていた矢先、突然ナーシャの姿が消えた。
もともと頻繁に夜会に顔を出していたわけではないが、重要な催しにもぷっつりと現れなくなった。もちろん今までのように呼び出されることもない。
何かあったのかと思い魔道具で彼女の魔力を追っても、何も見つからなかった。この魔道具は彼女に繋がっているので、変化がないのであれば無事でいるはず。つまり姿を消したのは彼女の意思だ。
まさか私に黙って、どこか他の男の元へ行ってしまったのだろうか。
今まで毎日のように会い、言葉を交わしていたのに。急にそれが絶たれ、捨てられたのではないかという不安が心を苛む。今日こそは連絡をくれるのではないか、明日こそは手掛かりがつかめるのではないか。そう思いながら日々が過ぎていく。
結局、次の日も、またその次の日も、彼女は見つからなかった。
彼女の父である大神官に尋ねようにも、こちらも姿が見えない。表立って探すこともできず、ただ彼女から連絡があるのを待った。
彼女との出会いがうそだったかのように、なにもかもがなくなってしまった。
ナーシャがいないと私は抜け殻のようだった。
晴れた日に、仕事を抜け出して庭園に向かった。王宮内の中にはいつも美しい花が咲いていて、少しは気がまぎれると思ったからだ。抜け殻のように庭園のベンチに座って近くに咲く白い花を見上げる。
華やかに見える彼女が好んだのは、この清楚で控えめに咲く花だった。雪のよう、真っ白で綺麗、と言って。
(・・・今頃どこかで誰かと愛し合っているのだろうか。私の知らない誰かと)
会いたい。何でもいいからただ、会いたい。
彼女と私を繋ぐ唯一の魔道具を懐から取り出して、光にかざす。今日は天気も良く、私の気持ちとは対照的に雲一つない青空だ。どこかで鳥のさえずりが聞こえる。ぼんやりとしていると、ふと、ナーシャの魔力の気配を感じた。
どくり、と心臓が泡立つ。
(なぜ、ここで)
どく、どく、と、心臓の音が痛いくらいに耳に入る。
(なぜ王宮で彼女の気配がするのか。陛下が彼女を隠しているのか。まさか陛下と・・・)
いやな考えばかりが頭をよぎるが、それ以上に彼女に会いたかった。会って、彼女を抱きしめたかった。
もしナーシャが陛下と愛し合っていたらと思うと気が狂いそうだったが、いまを逃すと二度と会えない気がした。
慎重に、魔道具で彼女の魔力を辿る。相手の状況がわからない以上、直接転移するのは避けたい。
本宮の中に入り、何事もなかったかのような態度で奥へ歩を進める。辿り着いたのはいつもルー・レイスティアが滞在している客室の前だった。魔力に溢れ、強大な力を持つ魔術師は、彼女にとっても魅力的な相手だろう。しかもあの稀有な色彩と端正な容貌。
まさかナーシャはあの美貌の魔術師を相手に選んだのだろうか・・・。
湧き上がる嫉妬に目がくらむ気がしたが、必死で気持ちを落ち着けた。トントントン、と3回ノックをしてから「失礼します」と告げて中へ入る。
扉を開けた途端、焦がれていた姿を目の前にして気を失うかと思った。
ずっと会いたかった、愛しい人。
美しい髪も、輝く瞳も、なにもかもが変わらなかった。なのに、言葉にできない違和感が沸き上がる。
駆け出したい気持ちを押さえてゆっくりと近づいていく。驚いたような表情。ああ、なぜそんなに怯えたような顔をするのか。いつもみたいに笑ってほしいだけなのに。
「・・・ナーシャ。なぜ連絡をくれなかったんですか?」
絞りだすように尋ねると、彼女は後ずさって私を見つめた。私は何も言わずに近づくと、ぎゅうっと彼女を抱きしめた。こらえきれずに口づける。存在を確認するように、何度も、何度も。
抱きしめる腕から逃れようとするナーシャを咎めるように腕に力を込めた。
「もう私のことは飽きてしまった?・・・レイスティアのほうが良くなった?」
自分で口にしながら、ずきりと胸が痛んだ。もう不要になったから会わなくなったと言われたら苦しくて死んでしまう。いや、それよりもあの魔術師から彼女を奪って閉じ込めてしまえばいい。いや、それよりも、
(──もっと、私に溺れてしまえばいい)
「レイスティアってルーのこと、、いや、そうじゃなくて。ちょっと話を」
「私のほうが貴方を気持ちよくさせてあげられるのに」
彼女に奉仕しようと白い首筋をぺろりと舐めたが、彼女はいつものようには乱れてくれなかった。甘い声もあげてくれない。
(もう、私には飽きてしまったんだろうか)
泣きだしたい気持ちを押さえて、私は言った。
「もう私のことを『役立たず。私の犬』とは言ってくれないのですか。」
言いながら、腕の中に捕らえた彼女に口づけを乞う。
犬でいいというのは、自分についた嘘だと気づいてしまった。本当は陛下でもなくレイスティアでもなく、自分を選んでほしい。私のことだけを愛してほしい。あなたの幸せを願いながら、それでもあなたのそばにいたいと思う私を蔑んでほしい。
たとえ男を誑かす悪女と言われようが、私にとってあなたは救いの女神。
・・・愛しい、愛しいナーシャ。望みは、あなただけ。
もともと頻繁に夜会に顔を出していたわけではないが、重要な催しにもぷっつりと現れなくなった。もちろん今までのように呼び出されることもない。
何かあったのかと思い魔道具で彼女の魔力を追っても、何も見つからなかった。この魔道具は彼女に繋がっているので、変化がないのであれば無事でいるはず。つまり姿を消したのは彼女の意思だ。
まさか私に黙って、どこか他の男の元へ行ってしまったのだろうか。
今まで毎日のように会い、言葉を交わしていたのに。急にそれが絶たれ、捨てられたのではないかという不安が心を苛む。今日こそは連絡をくれるのではないか、明日こそは手掛かりがつかめるのではないか。そう思いながら日々が過ぎていく。
結局、次の日も、またその次の日も、彼女は見つからなかった。
彼女の父である大神官に尋ねようにも、こちらも姿が見えない。表立って探すこともできず、ただ彼女から連絡があるのを待った。
彼女との出会いがうそだったかのように、なにもかもがなくなってしまった。
ナーシャがいないと私は抜け殻のようだった。
晴れた日に、仕事を抜け出して庭園に向かった。王宮内の中にはいつも美しい花が咲いていて、少しは気がまぎれると思ったからだ。抜け殻のように庭園のベンチに座って近くに咲く白い花を見上げる。
華やかに見える彼女が好んだのは、この清楚で控えめに咲く花だった。雪のよう、真っ白で綺麗、と言って。
(・・・今頃どこかで誰かと愛し合っているのだろうか。私の知らない誰かと)
会いたい。何でもいいからただ、会いたい。
彼女と私を繋ぐ唯一の魔道具を懐から取り出して、光にかざす。今日は天気も良く、私の気持ちとは対照的に雲一つない青空だ。どこかで鳥のさえずりが聞こえる。ぼんやりとしていると、ふと、ナーシャの魔力の気配を感じた。
どくり、と心臓が泡立つ。
(なぜ、ここで)
どく、どく、と、心臓の音が痛いくらいに耳に入る。
(なぜ王宮で彼女の気配がするのか。陛下が彼女を隠しているのか。まさか陛下と・・・)
いやな考えばかりが頭をよぎるが、それ以上に彼女に会いたかった。会って、彼女を抱きしめたかった。
もしナーシャが陛下と愛し合っていたらと思うと気が狂いそうだったが、いまを逃すと二度と会えない気がした。
慎重に、魔道具で彼女の魔力を辿る。相手の状況がわからない以上、直接転移するのは避けたい。
本宮の中に入り、何事もなかったかのような態度で奥へ歩を進める。辿り着いたのはいつもルー・レイスティアが滞在している客室の前だった。魔力に溢れ、強大な力を持つ魔術師は、彼女にとっても魅力的な相手だろう。しかもあの稀有な色彩と端正な容貌。
まさかナーシャはあの美貌の魔術師を相手に選んだのだろうか・・・。
湧き上がる嫉妬に目がくらむ気がしたが、必死で気持ちを落ち着けた。トントントン、と3回ノックをしてから「失礼します」と告げて中へ入る。
扉を開けた途端、焦がれていた姿を目の前にして気を失うかと思った。
ずっと会いたかった、愛しい人。
美しい髪も、輝く瞳も、なにもかもが変わらなかった。なのに、言葉にできない違和感が沸き上がる。
駆け出したい気持ちを押さえてゆっくりと近づいていく。驚いたような表情。ああ、なぜそんなに怯えたような顔をするのか。いつもみたいに笑ってほしいだけなのに。
「・・・ナーシャ。なぜ連絡をくれなかったんですか?」
絞りだすように尋ねると、彼女は後ずさって私を見つめた。私は何も言わずに近づくと、ぎゅうっと彼女を抱きしめた。こらえきれずに口づける。存在を確認するように、何度も、何度も。
抱きしめる腕から逃れようとするナーシャを咎めるように腕に力を込めた。
「もう私のことは飽きてしまった?・・・レイスティアのほうが良くなった?」
自分で口にしながら、ずきりと胸が痛んだ。もう不要になったから会わなくなったと言われたら苦しくて死んでしまう。いや、それよりもあの魔術師から彼女を奪って閉じ込めてしまえばいい。いや、それよりも、
(──もっと、私に溺れてしまえばいい)
「レイスティアってルーのこと、、いや、そうじゃなくて。ちょっと話を」
「私のほうが貴方を気持ちよくさせてあげられるのに」
彼女に奉仕しようと白い首筋をぺろりと舐めたが、彼女はいつものようには乱れてくれなかった。甘い声もあげてくれない。
(もう、私には飽きてしまったんだろうか)
泣きだしたい気持ちを押さえて、私は言った。
「もう私のことを『役立たず。私の犬』とは言ってくれないのですか。」
言いながら、腕の中に捕らえた彼女に口づけを乞う。
犬でいいというのは、自分についた嘘だと気づいてしまった。本当は陛下でもなくレイスティアでもなく、自分を選んでほしい。私のことだけを愛してほしい。あなたの幸せを願いながら、それでもあなたのそばにいたいと思う私を蔑んでほしい。
たとえ男を誑かす悪女と言われようが、私にとってあなたは救いの女神。
・・・愛しい、愛しいナーシャ。望みは、あなただけ。
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