不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

13 戸惑いと違和感1

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ええと、困ったな、、わたしはぎゅうぎゅうと抱きしめてくるセイを見上げた。
深い海の底のような濃い青の瞳がわたしの顔を映し、何か言いたそうな表情かおを見せる。

はじめは理知的な印象だったのに、数分の間で180度変わってしまった。なんだか犬っぽいと思う。ボルゾイとかドーベルマンといった感じの大型で細身の犬が、へにょりとしっぽを垂らしている姿が思い浮かんだ。

とりあえず、腕を伸ばしてよしよしと頭を撫でてみる。びくん、とからだを震わせてセイがこちらを見た。―――なにかを期待している目だ。

(うわ、目がうるうるしてる)

見目麗しい美青年をいじめているようで心が痛いが、どうすればよいのかさっぱりわからない。撫でていた方の手でセイの髪を梳いてみた。少しかがんでもらって額にキスしたら、余計泣きそうな顔になった。さらさらとした黒髪は指を通すとするりと流れ落ちる。とりあえず離してもらおうと口を開いたとき、鍵がかかっていたはずのドアが開いた。

「あーあ、見つかっちゃったか。」

あまり緊張感が感じられない言い方だなと思いつつ、声がするほうを見ると、ルーと、それから金色の髪をした知らない男のひとが立っていた。

セイは「陛下・・・」とつぶやいて、のろのろとわたしから離れて距離を取った。

「シア!」

ルーは、そういうとわたしのもとに駆け寄って、腰をぐいと引き寄せる。威嚇するように輝くあかい瞳がセイを捕らえる。

「僕のだから!勝手に触らないでくれない?」

「・・・いつから貴方はアナスタシア嬢の所有者になったのですか?彼女は誰のものでもないし、ましてや陛下の御前で不埒な発言は控えていただきたい。」

「うわー、なにそれ感じワルイ。何様のつもりかなー。セイ・ゼレノイ、君にそんなこと言う権利はないよ。」

「王宮に仕える者として当然の発言です。アナスタシア嬢がこんなところに拉致監禁されているのは大問題。未婚の女性をこのような部屋に閉じ込めるなど既に立派な犯罪だと思いますが。」

セイはダンスを誘うかのようにわたしを引き戻すと、ルーの視線から隠すように正面に立った。そして、安心させるようにそっと右手でわたしの指先を握った。握った手は、少しひんやりした。

「陛下、彼女をここから出す許可を。」

思わず、ぱちぱちとまばたきをしてセイを見た。さっきまでのヘタレ具合からは想像できないくらいびしっとしている。しかも、かなりの毒舌で。

陛下、と呼ばれた男性は、困ったように笑った。

結局、後で事情を説明するからと言って陛下はセイを下がらせた。セイはしばらくごねていたが、最終的には「いつでも貴方が呼べば伺いますから」と言って、何度も振り返りながら名残惜しそうに去っていった。彼が持つ魔道具は、わたしが望めば魔力に反応して通信もできるらしい。

***

ごたごたとしているうちに日が暮れ、茜色の空が窓の外に広がっていた。日中は暖かいとはいえ夕方は肌寒く、ワンピースの上から薄手のストールを羽織った。これから内緒の話をしにいくために。

(うう、つかれたよう・・・)

疲労困憊になりながらも、付き添いの女官に連れられていつもいる部屋からそう遠くない別の部屋へ向かった。よく考えると、これが初めての移動だったりする。感慨深い。

女官は白髪交じりで肌の感じから50代ごろと思われた。なぜか初対面のわたしに対してびっくりするほど愛想がよく、無駄な話はしないものの、「寒くはないですか?」とか「陛下にお任せすれば心配ないですから。」などと声をかけてくれる。なぜこんなに親切にしてくれるのかわからないが、やさしくされるのはうれしい。

同じ王宮内とはいえども、見張りの騎士が立っている先は、限られた人間しか入ることができないエリアになっているようだった。女官が騎士に二言三言話しかけ、先へ進むことを許された。

「陛下、失礼します。」

女官がうやうやしくドアを開けると、中にはさっきまで一緒にいた男性、すなわちアレクセイ陛下がひじ掛けがついた椅子に座っていた。無造作に組まれた足は無駄に長い。白いシャツのボタンを2つ、無造作に開けているが、不思議とだらしなくは見えなかった。

白と茶を基調とした部屋で、壁一面に備え付けてある本棚にはびっしりと書籍が入っていた。私室なのかもしれない。全部、読むとしたらものすごい勉強家だと思う。

わたしが滞在していた部屋は高級ホテルなみの豪華さだったけれど、この部屋は逆に華美な部分があまりなかった。置かれている調度はシンプルだが一目で質の良さがわかるようなもので、部屋の主の好みが窺いしれた。

「下がっていいよ・・・内密の話があるからドアは閉めていいや。」

未婚の男女が密室という状況になるのを嫌がったのか、女官は一瞬眉をひそめた。普通はドアを少し開けておくと聞いたことがあるから、そのせいかもしれない。それでも王の命令は絶対なのか、女官は何も言わずに部屋を出ていった。

部屋には2人だけになり、少し緊張する。ルーがいてくれれば気が紛れるのにと思ったが、改めて呼ばれたということは、彼には聞かせたくない話なんだろう。
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