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本編
14 戸惑いと違和感2
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「こちらへおいで。」
やわらかい、でも命令するのに慣れた口調で誘われる。
わたしは言われるがままにアレクセイ陛下の近くへ寄った。手が届くくらいの距離で立ち止まると、陛下は椅子から立ち上がり、言い方は悪いけど値踏みするようにわたしのことを見た。
こちらの世界へ来てから、自分に対する好意的な目しかなかったので、この反応は意外と新鮮だった。でも異世界の人間が中に入っていると知っているんだから訝しんで当然だと思う。ルーやセイがちょっとおかしいだけだ。
アナスタシアとしての記憶には、実は陛下のことはあまり残っていない。ルーから聞いている話くらいだ。つまり、この人に嫁ぐための魔力源としてわたしは呼ばれたのだと。
(アナスタシアは、アレクセイ陛下のことを好きだったのかな)
整った顔立ちと高い身分、それにきっと財力。若い女の子であれば誰しも一度は憧れるであろう「理想の王子様」を体現したような存在に、彼女も惹かれたのだろうか。異世界から魔力を取り込もうとしてまで。
「先ほどは慌ただしくてごめんね。異世界からの姫君に、きちんと挨拶もできなかった。」
「いえ、、、こちらこそ。陛下にとって大切な方の中に入ってしまい、申し訳ありません。」
こういうときの目上の人に対する作法は頭に残っていたけれども、なんとなく、アナスタシアではなく、もとの自分として、ぺこりと頭を下げた。
陛下はにっこりと笑うと、私をソファーに勧めて、自分もその隣に座った。ソファーはゆうに4人は座れるだろうにもかかわらず、触れんばかりの距離だ。
(え、近くないですか?しかもなぜ隣??)
「そう硬くならないで。今日はいろいろと聞きたくて呼んだんだ。このまま君を受け入れるか排除するかを判断する必要があるから、よかったら教えてもらえるかい?」
びくびくと動揺するわたしをよそに、キラキラオーラを振りまきながら、陛下は「明日は雨が降りそうだね」くらいの気軽さで言った。
(・・・言い方は丁寧だけど、なんなら処分するって言われているよね、これ)
危険人物と判定されたが最後、辿るであろう未来は良くて追放、悪くて抹殺かと背筋が凍る。
わたしは、すでにアラサーで、会社員として働いていたことや、あちらの世界では魔力という考え方がないことを話した。それと害意はないことと、ルーに魔力の使い方を教えてもらって街で働きつつ生活する計画を持っていることを伝えた。
陛下は、生活様式や食べ物、どんな神を信じているのか、といった質問を交えつつ、私の話をきちんと聞いてくれた。和食、洋食、中華と日によって違う地域の食事をとれることは、非常に驚かれた。また「魔力がない世界なんて想像もつかないや。どうやって道具を動かしたりするのかな?」と言って、こちらの世界との違いに興味を持ったみたいだった。
「ものを燃やしたり、変化させたりして生まれたエネルギーを小さな容器に保存したり、管に通していつでも使えるようにしているんです。」
わたしの説明は少し、いや、、、かなり、たどたどしかったけれど、陛下はそれに対して「へええ、魔石に魔力を貯めているみたいなものかなあ」などと言い換えてくれたので、この世界の状況がわかってありがたい。
美形で王様ってだけですごいのに、頭もいいなんて天は二物を与えすぎてるなーと思う。穏やかで、わたしにも理解できるように丁寧に説明してくれるので、話していて時間を忘れるほどだった。しかも、いろいろと話しているうちに、なぜか陛下が魔力の使い方をレクチャーしてくれると言い出した。
「え?陛下自ら??いやいや、恐れ多いです。」
思わず全力で遠慮する。国のトップの前でやらかしたらと思うと、おそろしい。
わたしの気持ちを全く考慮せず、のんびりとした声が続いた。
「ああ、ルーはいわゆる天才肌でね、人に教えるのは不得手というか、聞いてもさっぱりわからないと思うよ。君の魔力量は多いので、他の者には向かないと思うしさ。」
「ええと、でもさすがにそれは・・・」
固まるわたしをよそに、陛下は気楽にしてね、と笑った。
「へーき、へーき。どうせ今の時期はけっこう余裕があるんだ。君の世界のことをもっと知りたいし、できれば魔力を教える代わりに教えてもらえるとうれしい。」
いいのかなあ、陛下に教わるなんて恐れ多すぎるという思いと、なにか裏があったらやだなあという不安が混じる。
いずれにしても害意がないとわかってもらえたようだ。問答無用で排除、という最悪の未来は回避できて少しほっとした。改めてアレクセイ陛下をまじまじと見る。陛下はわたしの視線に気づいたのか、きらきらした笑顔を向けると、わたしの右手を取り、手の甲にちゅっと口づけた。
「それにしても、君の魔力は近くにいるだけで酔いそうだ。ルーが部屋に閉じ込めて隠していたのは正解だったね。」
「え・・・魔力ですか?なにか変なんでしょうか。」
やっぱり他所の世界から来た人間は魔力も異質なのか。今まで限られた人としかいなかったから、よくわからない。気持ち悪いとか、そういう異質さなんだろうか。
「あのね、たぶん強いお酒とか、媚薬とか、そういうのに近いかもしれない。私もルーも魔力は人並み以上だ。おそらく魔力が強ければ強いほど、君の魔力に惹きあうみたいだ。」
そのまま両手でわたしの頬を挟んで上向かせ目線を合わせる。透明な、空の青みたいな瞳がわたしの顔を映した。笑顔だけど、あまり温度を感じない目。実験をしているかのような冷静な視線をわたしに落とす。
「それにしても思ったよりうまく混ざったね。」
陛下のことばに違和感を感じて首をかしげた。あと、きれいな作り笑顔にも。あれ、だって今の発言って、ちょっと変じゃない?
やわらかい、でも命令するのに慣れた口調で誘われる。
わたしは言われるがままにアレクセイ陛下の近くへ寄った。手が届くくらいの距離で立ち止まると、陛下は椅子から立ち上がり、言い方は悪いけど値踏みするようにわたしのことを見た。
こちらの世界へ来てから、自分に対する好意的な目しかなかったので、この反応は意外と新鮮だった。でも異世界の人間が中に入っていると知っているんだから訝しんで当然だと思う。ルーやセイがちょっとおかしいだけだ。
アナスタシアとしての記憶には、実は陛下のことはあまり残っていない。ルーから聞いている話くらいだ。つまり、この人に嫁ぐための魔力源としてわたしは呼ばれたのだと。
(アナスタシアは、アレクセイ陛下のことを好きだったのかな)
整った顔立ちと高い身分、それにきっと財力。若い女の子であれば誰しも一度は憧れるであろう「理想の王子様」を体現したような存在に、彼女も惹かれたのだろうか。異世界から魔力を取り込もうとしてまで。
「先ほどは慌ただしくてごめんね。異世界からの姫君に、きちんと挨拶もできなかった。」
「いえ、、、こちらこそ。陛下にとって大切な方の中に入ってしまい、申し訳ありません。」
こういうときの目上の人に対する作法は頭に残っていたけれども、なんとなく、アナスタシアではなく、もとの自分として、ぺこりと頭を下げた。
陛下はにっこりと笑うと、私をソファーに勧めて、自分もその隣に座った。ソファーはゆうに4人は座れるだろうにもかかわらず、触れんばかりの距離だ。
(え、近くないですか?しかもなぜ隣??)
「そう硬くならないで。今日はいろいろと聞きたくて呼んだんだ。このまま君を受け入れるか排除するかを判断する必要があるから、よかったら教えてもらえるかい?」
びくびくと動揺するわたしをよそに、キラキラオーラを振りまきながら、陛下は「明日は雨が降りそうだね」くらいの気軽さで言った。
(・・・言い方は丁寧だけど、なんなら処分するって言われているよね、これ)
危険人物と判定されたが最後、辿るであろう未来は良くて追放、悪くて抹殺かと背筋が凍る。
わたしは、すでにアラサーで、会社員として働いていたことや、あちらの世界では魔力という考え方がないことを話した。それと害意はないことと、ルーに魔力の使い方を教えてもらって街で働きつつ生活する計画を持っていることを伝えた。
陛下は、生活様式や食べ物、どんな神を信じているのか、といった質問を交えつつ、私の話をきちんと聞いてくれた。和食、洋食、中華と日によって違う地域の食事をとれることは、非常に驚かれた。また「魔力がない世界なんて想像もつかないや。どうやって道具を動かしたりするのかな?」と言って、こちらの世界との違いに興味を持ったみたいだった。
「ものを燃やしたり、変化させたりして生まれたエネルギーを小さな容器に保存したり、管に通していつでも使えるようにしているんです。」
わたしの説明は少し、いや、、、かなり、たどたどしかったけれど、陛下はそれに対して「へええ、魔石に魔力を貯めているみたいなものかなあ」などと言い換えてくれたので、この世界の状況がわかってありがたい。
美形で王様ってだけですごいのに、頭もいいなんて天は二物を与えすぎてるなーと思う。穏やかで、わたしにも理解できるように丁寧に説明してくれるので、話していて時間を忘れるほどだった。しかも、いろいろと話しているうちに、なぜか陛下が魔力の使い方をレクチャーしてくれると言い出した。
「え?陛下自ら??いやいや、恐れ多いです。」
思わず全力で遠慮する。国のトップの前でやらかしたらと思うと、おそろしい。
わたしの気持ちを全く考慮せず、のんびりとした声が続いた。
「ああ、ルーはいわゆる天才肌でね、人に教えるのは不得手というか、聞いてもさっぱりわからないと思うよ。君の魔力量は多いので、他の者には向かないと思うしさ。」
「ええと、でもさすがにそれは・・・」
固まるわたしをよそに、陛下は気楽にしてね、と笑った。
「へーき、へーき。どうせ今の時期はけっこう余裕があるんだ。君の世界のことをもっと知りたいし、できれば魔力を教える代わりに教えてもらえるとうれしい。」
いいのかなあ、陛下に教わるなんて恐れ多すぎるという思いと、なにか裏があったらやだなあという不安が混じる。
いずれにしても害意がないとわかってもらえたようだ。問答無用で排除、という最悪の未来は回避できて少しほっとした。改めてアレクセイ陛下をまじまじと見る。陛下はわたしの視線に気づいたのか、きらきらした笑顔を向けると、わたしの右手を取り、手の甲にちゅっと口づけた。
「それにしても、君の魔力は近くにいるだけで酔いそうだ。ルーが部屋に閉じ込めて隠していたのは正解だったね。」
「え・・・魔力ですか?なにか変なんでしょうか。」
やっぱり他所の世界から来た人間は魔力も異質なのか。今まで限られた人としかいなかったから、よくわからない。気持ち悪いとか、そういう異質さなんだろうか。
「あのね、たぶん強いお酒とか、媚薬とか、そういうのに近いかもしれない。私もルーも魔力は人並み以上だ。おそらく魔力が強ければ強いほど、君の魔力に惹きあうみたいだ。」
そのまま両手でわたしの頬を挟んで上向かせ目線を合わせる。透明な、空の青みたいな瞳がわたしの顔を映した。笑顔だけど、あまり温度を感じない目。実験をしているかのような冷静な視線をわたしに落とす。
「それにしても思ったよりうまく混ざったね。」
陛下のことばに違和感を感じて首をかしげた。あと、きれいな作り笑顔にも。あれ、だって今の発言って、ちょっと変じゃない?
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