不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

17 魔法とホットチョコレート

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「シア、だいじょうぶ?」

心配そうにルーがたずねた。わたしの顔を覗き込む。銀色の髪がわたしの頬に触れた。きれいな顔が、くしゃりとゆがむ。

「どこか、いたい?」

ふるふると首を振る。痛くはない。へんな顔をしているのは、あなたが急に現れて驚いただけ。そんな言葉を飲み込んだ。

廊下の側壁に一定間隔で設置されているランプは夜間だけ人の魔力に反応して点灯する。センサーみたいだ。ゆらめく明かりがスポットライトみたいに2人の周辺を照らす。

目の前にいるのは幻じゃなくて本物なんだろうか。思わず両手で彼の顔に触れると、くすぐったそうに身じろいだ。

(ああ、ルーのにおいだ)

彼が好んで付けている柑橘系のコロンのにおいがして、目の前にいるのは本物だと実感する。

触れた部分からあたたかな温度を感じると同時に、自分の指先がとても冷たくなっていたことに気づく。高ぶった気持ちを落ち着かせるように意識しながら、なにもなかったかのような表情を作って尋ねた。

「なんで、ここにルーがいるの?」

ルーの右手が、わたしの左手の上にそっと重ねられた。そのままおでこをコツンと合わせられる。

「ん、君が呼んだから。迎えに来たんだ。あれほど触っちゃダメっていっておいたのに、、、ごめん。」

後半のことばは、陛下について言っているんだろう。そう言わしめるほどに、いまのわたしはひどい恰好だった。

ゆるふわで束ねていた髪は、ほどけかけているし、服も乱れたまま。なにかあったであろうことは容易に想像できる。かといって悪いのはあの傍若無人な陛下であって、ルーがあやまることなんて何もないんだけど。

わたしは力なく笑って「ストール部屋に置いてきちゃった。」と言うと、ルーは「明日回収してくるから待ってて」と言って。身体全体でわたしを覆い隠すように抱きしめると、一瞬の光と共に、見慣れたいつもの部屋に戻っていた。

いつも2人でお茶を飲むテーブル、飾られた白い花、きれいに整えられたベッド。過ごしたのはわずか数日だけど、なぜか帰ってきたと感じる、わたしの部屋。

ほっとして、思わずからだが崩れ落ちそうになった。安心させるかのようにぎゅっと抱く腕に支えられて、なんとか持ちこたえる。

転移、というのは聞いていたけど実際に体験するのは初めてだった。元の世界とは全く異なる力学の体系。わたしが呼んだのに気づいてくれたのも、魔法なんだそうだ。思わず、ぐちゃぐちゃだった気持ちも忘れて感心してしまう。魔法すごい。

『…――――…』

そばにいるわたしですら聞き取れないくらい、小さい声で。歌うように。ルーは耳慣れない響きの言葉を唱えた。かちり、と空気が震える。

「もう大丈夫。結界を張ったから、僕の許可なしには誰も入ってこられない。」

後から聞いた話だけど、治安上の理由で王の居住エリアは転移や想定外の結界は禁止されているのだそうだ。規則を破らせてしまってごめんなさいと謝ったら、「ときどきやるから大丈夫」となんでもないように笑った。

ルーはわたしを椅子に座らせると、「ちょっと待ってて」と言って部屋の外へ出ていった。しばらくしてから生成色のティー・コージーがかぶせられたポットと、2人分のカップを乗せたワゴンを押して戻ってきた。

ポットからは甘い香りが漂う。とぷとぷとカップに注ぎ入れてくれたのは、ホットチョコレートだった。やっぱり手元はたどたどしい。そんなにカップいっぱいに注いだらこぼしちゃうし!と気が気じゃない。

ルーは、ぎりぎりまで中身が入ったカップをわたしの目の前に置くと、「気持ちよくなれるお薬、入れてあげるね」と言って、1滴オイル状の液体を垂らした。自分用にもホットチョコレートをなみなみと注いでいたけど、そちらには何も入れず置いた。そして向かいの席に座った。

「ありがとう」

こぼさないよう気を付けながらひとくち口に入れると、濃厚な甘さが広がる。

(ココアじゃなくて、ちゃんとチョコレートのほうだ)

思わず頬が緩む。ルーは猫舌なのか、ふうふうとカップを覚ましている途中だ。

もうひとくち、カカオの甘い香りが鼻を抜ける。とろりと熱いホットチョコレートのおかげで徐々にからだがぽかぽかしてくる。追加したオイルの風味なのか、味わったことがないような不思議な甘さが口に残る。

落ち着いてくると、さっきまで自分がされたことを思い出して、今更ながら、かたかたと震えた。

でもそれは恐怖からではなく、無理やりに思える行為に気持ちよくなってしまった自分に、だ。

わたしはセックスがすごい好きなわけでもないし、レイプ願望があるわけでもない。本来であれば嫌悪すべきなのに、あのとき内心では「もっとしてほしい」と思ってしまった。だから強く抵抗できなかった。

からだの持ち主アナスタシアのことがなければ、そのまま快楽に喘いでいたかもしれない。それだけじゃない。はじめは恥ずかしかったルーとのキスも、だんだん物足りなくなって、からだが疼くようになっていることにも気づいていた。

ここに、来てから。知らないうちに、自分がすごく淫乱になってきたのではないかと不安になる。

わたしの様子をルーが、観察するかのようにじっと見ていた。
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