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本編
21 月に叢雲、花に風3 【side アレクセイ】
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ようやく平穏な日々が過ごせると思った矢先、神殿側から今月の定例謁見は中止したいとの連絡が入った。今まで中止したことなどない。珍しいことだと思っていたら、知らせを持ってきた事務官が「なんでもアナスタシア嬢が行方不明らしく」と私に耳打ちした。
正式な報告ではないので噂レベルだが、どこにも姿が見えないらしい。誘拐か、殺害か、拉致監禁か。いずれにせよ大神官は心労のためか家に籠りきりだという。
(あれー、まさかイヴァンが暴走して彼女を攫ってしまったのかな)
恋に狂った男は何をするかわからないしな、と思いつつ、セイに目を向けると、こちらもなぜか顔色が悪い。
「ちょ、、、セイ、君大丈夫? すごい顔色が悪いんだけど。」
「・・・問題ありません。」
いや、明らかに問題あるし!と思うものの、この、周りの期待どおりに動こうという男が本心を言わないことはよく知っていた。
血の気が引いた顔で、セイは絞り出すように、口を開いた。
「アナスタシア嬢が行方不明というのは、本当でしょうか?」
「いや、、まだ正式には報告は入っていない。その年頃の令嬢の死体が発見されたという話も聞かないし、念のため明日出国履歴を見直してみる。あとは隣国の伝手にも確認してみる。」
「死体・・・・・。」
眼鏡の奥の瞳が暗く濁ったのを見て、セイがアナスタシア嬢を気にかけていることを疑問に感じた。彼女とは特に面識はなかったはず。なのに何故、こんなに気にするんだろう?
いつも冷静な彼のただならぬ様子を不審に思い、風の魔力でセイの様子を探ってみる。すると、宮廷内のあちこちでアナスタシア嬢の目撃情報を集めていることがわかった。そして日に日に憔悴していく様子も。
魔道具を見てため息をついているのは、おそらくそれが彼女と繋がる手段だったのだろう。
そういえばイヴァンが彼女を見染めた夜会にはセイもいたはずだ。女遊びが減って人付き合いが悪くなったのもその頃から。そしてアナスタシア嬢の行方不明と今の憔悴っぷり。
それらが線で繋がり、絶望的な気分になった。
(彼女に思いを寄せていたのか・・・)
さすがにこれは考えたことがなかった。だって今まで一度もそんなそぶりを見せたことはなかったじゃないか。
素直にそう言ってくれれば、それなりの手を打てたのにと悔しくなる。さらに追い打ちをかけるように、ルーから大神官が異世界からの召喚に手を出してアナスタシア嬢が昏睡状態という報告を受け、頭を抱えた。
(しまった・・・・・最善と思ってイヴァンにアナスタシア嬢を勧めたばかりに、思わぬ事態が起きてしまった)
状況から考えて、足りない魔力を補うために異世界から召喚したのは明らかだった。公国側が噛んでいるとすれば、人ひとりではなく、魂から一部の魔力を切り取って召喚する術式だろう。であれば元の魂に異世界の魂が混じり終えれば目覚めるはず。問題は、そのときにどちらの魂が強く出るかだ。
なにせ召喚は、キリル公国内でも限られた人間しか扱えない最重要機密だ。私ですらそれほど詳しい知識はない。せめてルーが彼女の身柄を保護してくれているのが救いだった。目覚めた結果、どうなるかは正直わからない。
(アナスタシア嬢の魂が表に出てくれないと、セイが落胆するだろうな)
翌日、ルーから、彼女が目覚めたと報告を受けた。
曰く、自分の置かれた状況に戸惑っているものの、今のところは落ち着いている。アナスタシア嬢の記憶はあるが、自我はない。
数日後にこっそり様子を見に行くと、ルーがうっとりしながらアナスタシア嬢のからだを弄っていた。胸を揉みしだき、あちこちを舐めまわす。彼女が目覚めないのをいいことに、既に犯罪一歩手前、というか変態だろう。これは。
眠りながらも喘ぐアナスタシア嬢の姿は扇情的で、思わず私自身もあらぬ思いを抱いてしまった。いや、それより問題はルーだ。いつのまにかこんなに執着しているのだろう。セイに続いてこいつもか、という思いに駆られた。
私が部屋に入ってきたのに気づいているであろうにもかかわらず、彼女を舐めまわす姿を見て、思わず「・・・なんか変態っぽいよ、ルー。」とあきれて口にする。
「触るのはダメ。アレクは見るだけね。」と言われて彼女に近づくと、異なる魔力が混じった気配がした。
ルーは、アナスタシア嬢の魂をはじいて異世界からの魂が空の肉体に入ったと思っているらしい。しかし魔力の気配から見ても間違いなく2人の魂は共にある。
でもそれを口にすると余計ややこしいことになると思い、言い出せずにいた。
稀代の魔術師とも言われるルー・レイスティアであればもとに戻せるんだろうか。一抹の期待を胸に「彼女を返してアナスタシア嬢の魂は戻せそう?」と尋ねた。
しかし返ってきたのは「まさか。返すことができたとしても、ぜったい返さないよ。」という答えだった。そしてルーは彼女に首筋を舐めながら「このまま身も心も僕がもらうよ。」と言い放った。なんということだ。
セイには、なんて伝えればいいんだろう。がらにもなく現実逃避したい気持ちになった。
正式な報告ではないので噂レベルだが、どこにも姿が見えないらしい。誘拐か、殺害か、拉致監禁か。いずれにせよ大神官は心労のためか家に籠りきりだという。
(あれー、まさかイヴァンが暴走して彼女を攫ってしまったのかな)
恋に狂った男は何をするかわからないしな、と思いつつ、セイに目を向けると、こちらもなぜか顔色が悪い。
「ちょ、、、セイ、君大丈夫? すごい顔色が悪いんだけど。」
「・・・問題ありません。」
いや、明らかに問題あるし!と思うものの、この、周りの期待どおりに動こうという男が本心を言わないことはよく知っていた。
血の気が引いた顔で、セイは絞り出すように、口を開いた。
「アナスタシア嬢が行方不明というのは、本当でしょうか?」
「いや、、まだ正式には報告は入っていない。その年頃の令嬢の死体が発見されたという話も聞かないし、念のため明日出国履歴を見直してみる。あとは隣国の伝手にも確認してみる。」
「死体・・・・・。」
眼鏡の奥の瞳が暗く濁ったのを見て、セイがアナスタシア嬢を気にかけていることを疑問に感じた。彼女とは特に面識はなかったはず。なのに何故、こんなに気にするんだろう?
いつも冷静な彼のただならぬ様子を不審に思い、風の魔力でセイの様子を探ってみる。すると、宮廷内のあちこちでアナスタシア嬢の目撃情報を集めていることがわかった。そして日に日に憔悴していく様子も。
魔道具を見てため息をついているのは、おそらくそれが彼女と繋がる手段だったのだろう。
そういえばイヴァンが彼女を見染めた夜会にはセイもいたはずだ。女遊びが減って人付き合いが悪くなったのもその頃から。そしてアナスタシア嬢の行方不明と今の憔悴っぷり。
それらが線で繋がり、絶望的な気分になった。
(彼女に思いを寄せていたのか・・・)
さすがにこれは考えたことがなかった。だって今まで一度もそんなそぶりを見せたことはなかったじゃないか。
素直にそう言ってくれれば、それなりの手を打てたのにと悔しくなる。さらに追い打ちをかけるように、ルーから大神官が異世界からの召喚に手を出してアナスタシア嬢が昏睡状態という報告を受け、頭を抱えた。
(しまった・・・・・最善と思ってイヴァンにアナスタシア嬢を勧めたばかりに、思わぬ事態が起きてしまった)
状況から考えて、足りない魔力を補うために異世界から召喚したのは明らかだった。公国側が噛んでいるとすれば、人ひとりではなく、魂から一部の魔力を切り取って召喚する術式だろう。であれば元の魂に異世界の魂が混じり終えれば目覚めるはず。問題は、そのときにどちらの魂が強く出るかだ。
なにせ召喚は、キリル公国内でも限られた人間しか扱えない最重要機密だ。私ですらそれほど詳しい知識はない。せめてルーが彼女の身柄を保護してくれているのが救いだった。目覚めた結果、どうなるかは正直わからない。
(アナスタシア嬢の魂が表に出てくれないと、セイが落胆するだろうな)
翌日、ルーから、彼女が目覚めたと報告を受けた。
曰く、自分の置かれた状況に戸惑っているものの、今のところは落ち着いている。アナスタシア嬢の記憶はあるが、自我はない。
数日後にこっそり様子を見に行くと、ルーがうっとりしながらアナスタシア嬢のからだを弄っていた。胸を揉みしだき、あちこちを舐めまわす。彼女が目覚めないのをいいことに、既に犯罪一歩手前、というか変態だろう。これは。
眠りながらも喘ぐアナスタシア嬢の姿は扇情的で、思わず私自身もあらぬ思いを抱いてしまった。いや、それより問題はルーだ。いつのまにかこんなに執着しているのだろう。セイに続いてこいつもか、という思いに駆られた。
私が部屋に入ってきたのに気づいているであろうにもかかわらず、彼女を舐めまわす姿を見て、思わず「・・・なんか変態っぽいよ、ルー。」とあきれて口にする。
「触るのはダメ。アレクは見るだけね。」と言われて彼女に近づくと、異なる魔力が混じった気配がした。
ルーは、アナスタシア嬢の魂をはじいて異世界からの魂が空の肉体に入ったと思っているらしい。しかし魔力の気配から見ても間違いなく2人の魂は共にある。
でもそれを口にすると余計ややこしいことになると思い、言い出せずにいた。
稀代の魔術師とも言われるルー・レイスティアであればもとに戻せるんだろうか。一抹の期待を胸に「彼女を返してアナスタシア嬢の魂は戻せそう?」と尋ねた。
しかし返ってきたのは「まさか。返すことができたとしても、ぜったい返さないよ。」という答えだった。そしてルーは彼女に首筋を舐めながら「このまま身も心も僕がもらうよ。」と言い放った。なんということだ。
セイには、なんて伝えればいいんだろう。がらにもなく現実逃避したい気持ちになった。
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