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本編
36 黎明、または始まりとも言う1
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あれよあれよというまに、なぜか王様が雇用主になってしまった。
与えられた提案は、形式的に側妃として過ごし、数年後に下賜というかたちで自由になるというもので。
当面の生活の保障および、身の安全、教育の機会が提供される。正式な契約ではなく、あくまでも王の個人的なパートナーであり政治的な権限はない。
「私にとっては面倒な縁談除けになるし、非常にありがたいんだけどね。」
そう言って、アレクがへらりと笑った。
ソクヒ、という言葉は初めて聞いた。
この国の言葉は私には自動翻訳されてるようなので、適当な日本語がなかったのかもしれない。文脈から側室的な意味だろうと理解した。
イメージしたのは、愛人的なポジション。身分が保証されて、責任感もそれほどない。この美しい顔とからだも役に立つ。特段のスキルがない身で働く第一歩としては悪くない選択肢だと思う。
・・・今まで、頭のどこかで現実逃避していたんだよね。「彼女の代わり」としてそれらしくあろうと猫も被ってたし。でも、見たこともないお嬢様の真似、自分じゃない誰かのふりは、もうね、正直つかれた。
机の引き出しに入れていたノートを取り出し、気まぐれにページをめくる。始めこそ日本語でびっしり書き込みがされているが、すぐに何も書かれていない白紙が続く。
アナスタシアの記憶を忘れないように書き出していたけど、いつのまにかやめてしまった。そんなことしなくてもアナスタシアの記憶はわたしにもちゃんと共有されているとわかったから。
この人は、どんな人で、どんなことを好きなのか。
かつてアナスタシアとどんな会話を交わしたのか。
この世界のことを事前に知っているということは、非常に便利ではある。
でも、知らないはずのことを「知っている」気味の悪さは、いつまでも付きまとう。
『貴方はアナスタシアとして生きていくしかないんです。』
セイの言葉が、解けない呪いのように頭を離れない。
わかってる。
それでもこの世界に連れてこられたことに対して、理由がほしいんだ。
なにかの役に立って「わたし」の存在を認めてもらいたい。
ぶんぶんと頭を振って、マイナス思考を振り払った。
雇用主の手配は迅速だった。
思い立ったがすぐ今夜にでも決行、と思っていたのに対し、「女性にとって大切な夜なんだからちゃんと準備しないと」と言ったのは、意外にもアレクのほうだった。
その日は、準備のため、ほぼ半日がかりで身支度を整えられた。
今までは存在を隠されていたので極力人目を避けていたけど、もうばれちゃったから構わないみたい。たくさんの人が私のために動いてくれている。
お風呂では侍女さん数人がかりでぴっかぴかに磨き上げられ、あちこちの毛を剃られた。え、そんなところまで?っていうくらい完璧な脱毛でびっくりした。
その後エステさながらのオイルマッサージをがっつり2時間。リンパも老廃物も流されまくった。他人にからだを触られるのはあまり慣れていなかったはずなのに、アナスタシアのからだのせいか、気持ちよさしか感じなかった。
さらに衣装選びにメイク、エトセトラエトセトラ。おかげで、いままでにないくらい美しい状態が出来上がりました。
というか、元がこれだけいいので磨き甲斐があるんだろうね。「美人に生まれたかったなあ」とは思っていたけど、こんなかたちで願いが叶うとは思わなかった。
大きな鏡の前に立つと、女性のあこがれと妬みを体現したかのような美しい少女が映る。
身に付けているのは練絹っぽい艶と光沢があるさらりとした感触の衣装だけど、裏地もない1枚仕立てで防御力は極めて低い。しかも下着は上も下もつけていない。透けてこそないものの身体の凹凸がはっきりわかるこの服は、これから何をされるのかをいやがうえにも想像させる。
まあ、よく話に聞くような透け透けなランジェリーでなかったのが救いだった。
女性から王の部屋に渡るのではなく、王がその日決めた相手の部屋を訪れるのがこの国のルールだそう。ほぼこの部屋しか知らないわたしにとってはありがたいと思う。
ベッドに腰かけ、ぼんやりとアレクセイ陛下が部屋に来るのを待っていると、心配したのかこっそりとルーが様子を見に来てくれた。
「シア!とってもきれい。それに、あまい香りがする。」
くんくんとわたしのにおいをかぐ。わたしにはわからない。陛下の要望で無香料のものばかりつかっていたのに、何のにおいかな。
当然のようにわたしの隣に座ったルーは、緊張で少し冷たくなったわたしの手を温めるように、自分の両手で包み込んだ。なにも言わずに、まるで元気づけるかのように手をさすり、丁寧に触りはじめる。
本人にはその気がないけど(あるのかもしれない)、へんな気持ちになる。気持ちよくて、でも、すこしもどかしい。
なので彼の目をじっと見て、幾分甘えた声でキスをねだってみる。
「ね、今日も治療して?」
さすがにこのタイミングで言われるとは思わなかったのだろう。ルーが驚いたようにわたしを見た。
紅い瞳が、わたしの顔を映す。
与えられた提案は、形式的に側妃として過ごし、数年後に下賜というかたちで自由になるというもので。
当面の生活の保障および、身の安全、教育の機会が提供される。正式な契約ではなく、あくまでも王の個人的なパートナーであり政治的な権限はない。
「私にとっては面倒な縁談除けになるし、非常にありがたいんだけどね。」
そう言って、アレクがへらりと笑った。
ソクヒ、という言葉は初めて聞いた。
この国の言葉は私には自動翻訳されてるようなので、適当な日本語がなかったのかもしれない。文脈から側室的な意味だろうと理解した。
イメージしたのは、愛人的なポジション。身分が保証されて、責任感もそれほどない。この美しい顔とからだも役に立つ。特段のスキルがない身で働く第一歩としては悪くない選択肢だと思う。
・・・今まで、頭のどこかで現実逃避していたんだよね。「彼女の代わり」としてそれらしくあろうと猫も被ってたし。でも、見たこともないお嬢様の真似、自分じゃない誰かのふりは、もうね、正直つかれた。
机の引き出しに入れていたノートを取り出し、気まぐれにページをめくる。始めこそ日本語でびっしり書き込みがされているが、すぐに何も書かれていない白紙が続く。
アナスタシアの記憶を忘れないように書き出していたけど、いつのまにかやめてしまった。そんなことしなくてもアナスタシアの記憶はわたしにもちゃんと共有されているとわかったから。
この人は、どんな人で、どんなことを好きなのか。
かつてアナスタシアとどんな会話を交わしたのか。
この世界のことを事前に知っているということは、非常に便利ではある。
でも、知らないはずのことを「知っている」気味の悪さは、いつまでも付きまとう。
『貴方はアナスタシアとして生きていくしかないんです。』
セイの言葉が、解けない呪いのように頭を離れない。
わかってる。
それでもこの世界に連れてこられたことに対して、理由がほしいんだ。
なにかの役に立って「わたし」の存在を認めてもらいたい。
ぶんぶんと頭を振って、マイナス思考を振り払った。
雇用主の手配は迅速だった。
思い立ったがすぐ今夜にでも決行、と思っていたのに対し、「女性にとって大切な夜なんだからちゃんと準備しないと」と言ったのは、意外にもアレクのほうだった。
その日は、準備のため、ほぼ半日がかりで身支度を整えられた。
今までは存在を隠されていたので極力人目を避けていたけど、もうばれちゃったから構わないみたい。たくさんの人が私のために動いてくれている。
お風呂では侍女さん数人がかりでぴっかぴかに磨き上げられ、あちこちの毛を剃られた。え、そんなところまで?っていうくらい完璧な脱毛でびっくりした。
その後エステさながらのオイルマッサージをがっつり2時間。リンパも老廃物も流されまくった。他人にからだを触られるのはあまり慣れていなかったはずなのに、アナスタシアのからだのせいか、気持ちよさしか感じなかった。
さらに衣装選びにメイク、エトセトラエトセトラ。おかげで、いままでにないくらい美しい状態が出来上がりました。
というか、元がこれだけいいので磨き甲斐があるんだろうね。「美人に生まれたかったなあ」とは思っていたけど、こんなかたちで願いが叶うとは思わなかった。
大きな鏡の前に立つと、女性のあこがれと妬みを体現したかのような美しい少女が映る。
身に付けているのは練絹っぽい艶と光沢があるさらりとした感触の衣装だけど、裏地もない1枚仕立てで防御力は極めて低い。しかも下着は上も下もつけていない。透けてこそないものの身体の凹凸がはっきりわかるこの服は、これから何をされるのかをいやがうえにも想像させる。
まあ、よく話に聞くような透け透けなランジェリーでなかったのが救いだった。
女性から王の部屋に渡るのではなく、王がその日決めた相手の部屋を訪れるのがこの国のルールだそう。ほぼこの部屋しか知らないわたしにとってはありがたいと思う。
ベッドに腰かけ、ぼんやりとアレクセイ陛下が部屋に来るのを待っていると、心配したのかこっそりとルーが様子を見に来てくれた。
「シア!とってもきれい。それに、あまい香りがする。」
くんくんとわたしのにおいをかぐ。わたしにはわからない。陛下の要望で無香料のものばかりつかっていたのに、何のにおいかな。
当然のようにわたしの隣に座ったルーは、緊張で少し冷たくなったわたしの手を温めるように、自分の両手で包み込んだ。なにも言わずに、まるで元気づけるかのように手をさすり、丁寧に触りはじめる。
本人にはその気がないけど(あるのかもしれない)、へんな気持ちになる。気持ちよくて、でも、すこしもどかしい。
なので彼の目をじっと見て、幾分甘えた声でキスをねだってみる。
「ね、今日も治療して?」
さすがにこのタイミングで言われるとは思わなかったのだろう。ルーが驚いたようにわたしを見た。
紅い瞳が、わたしの顔を映す。
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